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スライムの住処

 「お!見えてきたな。あの穴の奥が俺達の縄張りだ。」



 コボルトと戦闘を終えて数分程移動した頃、イータがそう口にする。その穴はスライムが辛うじて通ることが出来る程で、他の外敵になるような存在は入れそうにない大きさだった。



 「随分と狭いんだな。私達以外は通れそうになさそうだ。」


 「そりゃあ俺達が縄張りに使える場所ってのは限られてるからな。開けた所ってのは食われる可能性が高くていけねぇ。ちなみにここを突破された事は一度もないんだぜ。」


 「そうか。それは安心だな。」


 「それよりか、アイツらについて行きな。俺が最後に行くからよ。」



 どうやら私とイータが話しているうちに他の三匹は先に行ったようだ。自分の何処にあるかも分からない核に当たらないように注意しながら、私はナイフをスライムボディの中へ収納し、慌てて三匹の後を追った。

 イータも周りを警戒してからこちらに向かって移動し、すぐに追いついてくる。



 「それにしてもスライ、お前ぇ、本当はもっと前から生まれてたんじゃねーのか?」


 「どういう事だ?」


 「普通生まれたてってのは本能に任せて行動するもんだ。俺もそうだが、理性や言葉ってのは後天的に得るもんなんだよ。」


 「ほう、それは興味深いな。」



 人の命令を聞くという賢いスライムと言うのは知識の中には存在していた。だが、実際に後天的に得ることが可能と言われるとその生態に興味を惹かれた。



 「だが、お前ぇは既にそれを得ている。野良のスライムがそれほどに成長できるほど生き残れるほどこの世は甘くねぇはずだ。」


 「そうなのか?」



 実際はその通りで、スライムは魔物ですらない生物に捕食される存在である。自然界で動き回っていれば何者かの食料になるのが常である。そんなスライムが絶滅せずに今に至るのはその繁殖能力や自然発生の多さが要因だ。



 「あぁ、案外お前ぇは自我ってのを手に入れたばかりで、他に仲間がいたのかも知んねぇがな。」


 「…。」



 私は元々違う所に居り、手足が無くなったことは口外するべきではないだろう。そもそも人であってもその話は信用出来ないだろうが、今は何も答えることは出来なかった。



 「まぁ、気にすんなや。ここの洞窟は小せぇんだ。互いに生けてりゃまた会える事もあんだろ。」



 私の沈黙を仲間に思いを馳せていると感じ取ったのだろう。イータは私を励ますように、私の前へと移動する。



 「ほらよ、着いたぜ。ここが俺達の縄張りだ。」



 小さな穴を抜けきるととても開けた場所に出てくる。高さの基準がスライムになってしまった影響で、正確な広さは分からない。しかし端が見えない程にこの場所は広く、高さにも余裕があった。



 見渡せばそこら中にスライムが存在し、雑草を食べる者や水に浸かっている者、互いにぶつかり合っている者など各々が自由に活動をしているのが伺える。

 そしてブルーとレッドも端の方で、溶けたバブルを上に乗せて遊んでいるようだ。



 「ちなみにここに居る殆どは話せないぜ。」


 「そうなのか?」


 「俺とジジイ以外話せる奴はまだいないな。」


 周りのスライムを見比べてみるが、凝らして見ると大きさに差異があることが分かる。しかし、その成熟具合までは流石に分からなかった。



 「とりあえずジジイん所に行くから着いてこい。」



 私は遊んでいるブルー達を目尻にイータについて行った。

 道中、他のスライム達の私達を避けるような行動に疑問を持ち、その理由をイータに尋ねてみることにした。



 「他のスライム達に避けられているように感じるのだが…」


 「そりゃお前ぇが白いからよ。異物ってのは群れでは孤立するもんなんだぜ?他の奴らは本能だけで生きている様なもんだからよ、そこが顕著なんだよ。」


 「…」



 レッドやバブルを先に見ていたので私の知識が間違っていると思っていたが、やはりというかスライムの基本色は青色だった。集団で生きている生物程、異物に対して忌避感を持つ。よってこの状況は仕方の無いものなのだろう。



 「襲っては来ねぇから安心しな。」


 「了解した。」


 万が一襲われても負ける気はしないので別に構わないのだが、イータには心配をかけたようだ。

 よくよく考えてみるとバブルとレッドも遊んでいたのでその点は本当に問題は無いのだろう。



 「おいジジイー。いねぇのかー?」



 前に進んでいたイータが大声を上げる。天井が低いこの場所ではその声が遠くまで反響するようで、イータの声は山彦のように帰ってくる。

 その音は二重、三重と響き、すぐに静寂に包まれる。

 私は音の違和感に上を見上げ、イータから距離を置いた。

 それに対してイータは周りを見渡しており、私が距離を置いた事も気にしていなかった。そしてその結果…



 「誰がジジイじゃ!」


 「ピギィ!」



 イータは頭上から降ってきた大きなスライムによってその身を押し潰されていた。イータからは何とも間抜けな声が溢れるが死んではいないだろう事は分かる。

 落ちてきた大きなスライムは通常のスライムの三倍程の大きさをしており、色も青と言うより紺色に近かった。



 「ん?お主新入りか?」


 「私はスライと言う。よろしく頼むぞ、ご老体。」


 「おー、これは丁寧な挨拶じゃのう。」



 私はイータがご老体と呼んでいたスライムに挨拶をすると、ご老体もそれに対して返事を返してくれる。その時にその体から触手のような細い突起をこちらに伸ばしてきた。



 「ワシの名は…」


 「早く…退けや!このクソジジイ!」



 私もその突起に触れようとした時、イータがご老体の下から飛び上がる。一瞬ご老体の体勢が傾いたが、すぐに飛び跳ねて別の場所に着地をする。



 「何回言えば分かる!ワシをジジイと呼ぶでないわ!エムマークと呼べと言っておろうが!」



 ご老体、もといエムマークの叫び声が縄張りである穴蔵に響き渡る。

そして先程潰されたイータを見てみると、その体にはダメージの様なものは見られずピンピンとしていた。

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