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第9話 星屑との出会い

『ただいま帰ったよ』

『意味なんてない、無駄な時間だったわ』


ハリとルリが戻るなり、人の姿へと化ける。

そして、駆け寄ってくる。


「そうか、てっきり嫌がらせで罠を仕掛けていると思ったが……しばらく会わないうちに改心でもしたか?」

『トラップはなかったけど、クレーターならたくさんあったよ? 底にたくさん魔石が落ちていた』

「魔石か。これまた面倒な。彼女らしいと言えばそうだけど」


彼女と口にするレイ。

先ほどの話を聞く限り、レイは天才集団が集う星屑で出会ったそうだ。

だが、どうにも茶目っ気に溢れているみたいだ。

魔石を取らずに、放置するなんて冒険者からしたら正気ではない。


「まあ、心配しなくてもいいよ。彼女は遺跡に対しては攻撃的だけど、あれでも星屑の中では話が通じる常識人だからね」

「そうなのね」


レイが常識人というと、逆に変人だという可能性が捨てきれない。

だって、類は友を呼ぶって言うし。


「まあ、君なら彼女と仲良くなれるさ。可愛いものには目がないからね」


さり気なく言うが、それは。

レイは私のことを可愛いと思ってくれているのだろうか。


「もちろんハリとルリもね」


ああ、違ったようだ。

安心した――?





遺跡の中央に向かうと、黒い階段が下へと続いていた。

道中、モンスターに会うこともなく、拍子抜けだ。


「じゃあ、行こうか」


レイの後ろに着いていくと、大きな扉が目に映る。

そして、勝手に開かれる。


扉を開くと、大量の骨が散らばっているのが目に映る。

その中には、人よりも大きな骨もある。


「これって、モンスターの骨?」

「人だけではないか。ドラゴンのもあるみたいだ」


レイが指さす方を見てみると、一際大きい骨が地面に突き刺さっていた。


「ドラゴンを殺す存在か。彼女がやったようだ」

「彼女って、星屑の?」

「ああ、あいつの仕業だ。ドラゴンから骨を引きずり出したうえで殺すとは、あの頃より悪化しているか」


なんだか分からないことをブツブツと言っている。

それにしても、やはり私の考えは正しいようだ。


変人の知り合いは変人なのだと――。


「ん? あれって」


ふと、光景に違和感を覚える。

白い世界に、赤い色が見える。


遠くの壁にもたれ掛かるよう子供が居る。

意識がないのか、手には何も持っていない。

それに、ローブを被っている為、顔色が見えない。


「助けないと」


距離にして、数10m離れている。

だけど、モンスターは近くに居ないし、大丈夫だろう。


「レイ、ちょっとあの子を助けてくるね」

「ああ……?」


私は、子供に駆け寄っていく。

近づくにつれて、手が真っ青だと気づく。

それに、唇が横に広がっていく。


「おい、離れろ! そいつはっ!」


遠くから、レイが叫ぶ。

今までで、一番必死に叫んでいる。


そして、私は宙を舞う。

体中から血がこぼれ、背中に背負っていたリュックは切り裂かれる。



「えっ……?」



後から考えれば、無防備な姿で倒れているのはおかしかった。

だけど私は、リスクより助けたい思いが上回ってしまったのだ。


「モンスターだ――――――!」


逃げようと体を何とか空中で捻ろうとする。

が、今度は地面が轟音を上げ真二つに割れる。


レイの叫ぶ声を聞きながら、私は地底へと落ちていた。

両腕は、血にまみれ。

抱えたはずの子供は消えていた。


ふと、空を見ると黒い鎌を持ちローブを羽織った悪魔が私を見ていた。

そして、空から黒い炎が降り注ぐ。





地面が崩壊した。

それは、とある少女により行使された魔術の結果だ。


「これも失敗か。だが、収穫はあったな。この先に広がる空間は未知の領域か」


少女は杖に込める魔力を増やし、空へと放つ。

魔力は遺跡の上空に雲を造り雨を降らす。


「全く、雨降りの使徒には叶わない。これも失敗か」


雨が直ぐに止み、崩壊した地面には小さい水溜が出来上がる。

そして、ひび割れた地面から長い巨体のモンスターが這い出てくる。


見た目は芋虫に酷似しているが瓦礫を溶かす溶液を撒き散らす異種だ。

それを見て、少女は頬を膨らます。


「なんで、かな、イライラがとまらない。――だから消えろ」


赤い炎が地面を焼き尽くしていく。

後にはモンスターの心臓部である魔石が散らばり、きらびやかなクレーターが映る。


「これも失敗か。やはり、魔導師になるにはこれでも足りないか」


少女は空を見上げる。

そして、それは落ちてきた。


全身を火傷し、今にも消えそうな黒髪の少女が。


「うん、これは知らない。とは言えないかな。星屑たる私の真上に落ちてくるとはね。全く、運がいいのか悪いのか――分からないね」


少女が杖を軽く振る。

それだけで空にかかる空気が押し潰され、少女の落ちるスピードが緩やかになる。


「全く仕方ない。弟子の面倒を見るよりは楽しめるかな」





目を覚ますと、高い天井が目についた。

どうやら、横になっているようだ。

そして、先ほどまで全身を駆け巡っていた激痛は薄れている。


「どうやら目を覚ましたようだね。大丈夫かい?」


隣から声が聞こえる。

そちらには、岩に座る少女が私を見つめていた。


装束は、白く輝き、杖には魔石が埋め込まれている。

それだけで、只者ではないと気づけた。


「あなたは――?」

「なに、オリオンとでも呼んでくれればいいさ。星屑でも構わないがね」


白髪の少女が居たのは、偶然だったのか。

そう思うほどに、私の窮地に現れる。


星屑。

その名は聞き覚えがあった。


魔術の使い手として、才能がある集団であり、

魔導師に最も近い存在。


「貴方は、私を助けてくれますか?」

「オリオンを名乗る以上、君を救うことは確定だよ? ただ方法が思い付かないだけさ。君に呪いを掛けたのは、死霊モンスターだろ?」

「はい、黒い鎌を持ったモンスターです」

「この先の遺跡を崩壊させてもいいいけど、それで生き残ったら面倒だし。何より効率的じゃない。水を流し込んでも倒せないし、マグマなら話は別だけど、それも時間が掛かる。君の容態が悪化するのが目に見えている」


発想がとてつもない。

遺跡を崩壊させるには、広範囲殲滅魔術が必要となる。

だが、遺跡をまるごと潰すなんて芸当は尋常でない。


レイですらできるとは思えない。

ハリとルリが協力してくれるのなら、可能性が増えるけど。


「何にせよ、手っ取り早いのは死霊モンスターを倒すことだけど。似たようなモンスターを倒しても意味はない。だから、階層ボスに強力な呪いを掛けられた君を救うのが手っ取り早い」


オリオンさんは、そこで言葉を切ると私の全身を隈無く見ていく。

両目が黒から碧となり、目の前に小さな魔術式が出現する。


「でも、君の怪我は重く、これ以上呪いを重ねるのは危険だから、この案はまだ使えないかな」

「……すみません」


頭を悩ませるオリオンさんに申し訳なく思う。

こうなったのは、レイの忠告を無視して、人形モンスターを人の子供と勘違いして助けようとしたからだ。


愚かな行為だとは、思わない。

例え、次に同じ光景を目にしたら駆けつけてしまうだろう。

それが、遺跡の罠だとしても――


「時間はかかるけど、呪いを掛けたモンスターを倒すのが簡単だ。回復魔術では、根本的な解決にはならないけど、一時的な処置にはなるはずだ。――開け、位階の門、来たれ、シルフィー」


オリオンが名を呼び、地面に描かれた魔法陣から魔術の渦がうねり、何もない空間から星が降り注ぐ。

それは、一つにまとまり輝き、一人の少女が顕現する。


【どうしたの? オンちゃんが呼ぶなんて珍しいね】

「お久しぶりです。シルフィー様。精霊たる貴方に来て頂けて助かります」

【オンちゃんを助けるためなら何時でも呼んでくれればいいのに。わたし、いっつも、待っているのよ?】

「それは申し訳なく思うよ。けどね、ハルトを貴方に誘惑されたら面倒なの。貴女が振れば話は簡単なのよ?」

【それは、無理かな。あの子の魔力って、効率よく分解できるんだもん。オリちゃんは、おいしいけど、威力が高すぎて、食べるのに時間がかかっちゃう】

「それはそうですが」

【それより、その子は誰かしら? 今にも死にそうね】


素っ裸な銀髪美少女が私を見つめる。

そして、肌を撫でていく。

頭部から首筋へ、そして双丘を両手で撫でる――。


「あ、あの、こっ、これは」

【ひどい傷ね。わたしじゃなかったら、治るのに時間がかかっていた程にね】


シルフィーが私の体を触ると、その個所の痛みが薄れていく。

そして、傷も塞がっていく。


「これって回復魔術――」


話に聞いていたのとずいぶん違うが。

紛れもなく、これは回復魔術だ。


「どんな重傷者でも、あっという間に治す魔法。実在したんだ」

【ふふっ、元気になったね、よかった】


シルフィーが私の頭を撫でる。

それだけで、疲労さえ回復していく。


【こんなものね。でも、死霊モンスターを倒さないと、いつか傷が開いちゃうから絶対に、倒すのよ、オリオン】

「ええ勿論です。これから、倒しに行きます」

【そう、星屑たるオンちゃんなら安心して任せられるわ。じゃあ、頑張って】


シルフィーが手を振ると、体が輝き空へと流れ星が浮遊して消えた。


「あの方は、いったい――?」

「ああ、シルフィーは僕の友達であり、契約精霊だよ。シルフィーは、人の傷を治す魔法が使えるんだ。もちろん、彼女を召喚するには,対価が必要だがね」

「ええと、治療費はその――」

「別にいらないよ。星屑たる僕が、治療費を貰うなんてかっこ悪いことしないよ。魔導士を目指すんだ。この程度、感謝さえしてくれればいいさ」


魔導士。

それはつい先ほどレイも言っていた。

賢者を超え、魔術を究極に極めた者の果て。


それを目指すなんて、レイしか居ないと思っていたが。


「ん? どうかしたかい?」

「いえ、私の仲間も魔導士になるのが夢って言っていたので。凄いなあと思って」

「そうでもないさ。星屑なら誰もが夢見るものだ。――それにしても、魔導士を目指すか。そんなことを言うなら、君の仲間は星屑かな?」

「はい、レイっていいます」


そういうと、オリオンの目が僅かに動く。

勿論、私には気づかない些細な変化だが。


「ふーん。あのレイが。仲間と一緒に冒険かぁ。ふふっ、面白いねえ」

「レイのこと、知っているんですか?」

「ああ、君よりはね。ということは、この遺跡に彼も来ているのか。これは、面白ね」



ああ、どうやら私やらかしたようだ。

恐らく、レイが探しているのは、目の前に黒い笑みを浮かべる人だろう。


そして、どうやら類は友を呼ぶらしい

変人は変人としか仲良くなれないようだ――



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