第6話 衛兵に変態が呼び止められました
レイの研究資料を収納ボックスへと全て入れ終わり。
私たちは、ルリとハリの背に跨がり空を飛んでいた。
「うわあ、絶景ね。こんな綺麗な景色が見れるなんて思ってなかった!」
「じゃはは、これが王国の領土か。自然豊かで実に魅力的だ。帝国が戦争を仕掛けるのも頷ける」
レイが私が育った国を褒めて貶す、
戦争で知り合いがたくさん死んでいる私には笑えない。
「うん? どうした顔色が悪いように見える」
だが、自分の都合を相手に押し付けるのはただの我儘に過ぎない。
帝国兵だって王国兵の反撃で数万人が死んでいる。
「ねえ、レイは強いよね?」
「急に何だ?」
「いいから答えて!」
会って半日程だが、レイがとてつもなく魔術に長けている事だけは理解できた。
厨房を一瞬で凍らす魔術を行使されて生き延びるのは至難の技だろう。
だからこそ、レイも戦争で誰かを大勢殺している可能性がある。
「うん、僕よりも強い人には会ったことがないよ。王国の魔導師団ですら神の境地には到達できてないみたいだし。仮に、一人でも僕よりも強い人がいれば今頃帝国は燃え尽きているね」
と、私の心を掌握していると思う程的確に返す。
「僕は強いよ。それこそ、君が憎む帝国だって滅ぼすことは出来る。1日あればいい。君の眼下に王たちの首を並べてもいい」
「……」
「だけど、それは意味がない。帝国のトップは同じ改革を推し進めた派閥が連なっているからね、別の貴族が王様になって終わりさ。今まで通り、帝国は戦争を仕掛けるだろうね」
レイにの言っていることは正しいのかもしれない。
帝国は貴族があらゆる権限を持つ法治国家だ。そんな彼等は王を筆頭に私の国を相手取り数世紀に渡り交戦している。
もし仮に、戦争が終結するとすれば全貴族が地の底に眠る時だ。
力なき民が立ち尽くす最悪の結末だろう。
「どうにかできないのかな。私が強くなっても何も変えられないよね?」
「無理だろうな。お前がいくら強くなろうが隠蔽魔術では察知されれば斬られて終わりだ」
私の魔術では、隠れることはできても殺すことに向いてない。
見つかれば一瞬で燃やされ尽くす。
それが最弱魔術と言われる所以だ。
「だが、世界は力で全てが決定されない。人の意志が連なり、初めて結果となる。戦にしろ、あれは人々の願いが積み重ねって生まれたものだ。例え、理由が理不尽なものでもな」
であれば、とレイは告げる。
「行動を変えることはできなくても、根本を覆すことならお前にでもできるだろうな。何しろ、僕が仲間なんだ。不可能なんて決め付けない限り、道は広がるだろう」
「……だったら、協力してくれるの? こんなちっぽけな魔術しか使えない私なんかの願いを叶えることを……」
「ちっぽけかどうかは僕が決める」
レイが真面目な顔で告げる。
これまでとは異なり、私の考えを知った上で答える。
例えそれが叶わない夢だとしても……
「僕の願いを言い、君は従っている。であれば、君の願いの1つくらい叶えてあげるのが主として当然であろう」
「それが帝国に恨まれると知って?」
「ふん……あんな奴等に恨まれようがどうでもいい。あの程度の魔術で魔術師を名乗る滑稽な存在など」
「……変な人ね、会って間もないのに」
「年月など関係ない。僕と君は相性が良かった。ただそれだけだ。そもそも、僕の本気の殺意を受けて意識を保てる人なんてこれまで居なかったからね……それだけで君には意味があるのさ」
ーーこの僕の相手としてね。
レイが言った言葉は多分気紛れに過ぎない世迷い言だろう。
そう思わないと、きっと私は……
□□
「ルリ、ここいらで降りるぞ。あの町で今日は休むぞ」
『はーい』
空も薄暗くなる頃、レイが休憩の合図を出す。
少し離れた場所には明るい町並みが見えていたし、今日はそこに泊まるらしい。
こんな離れた町に来るなんて昨日には想像していなかった。
冒険者に憧れていたが、遺跡経験を何十回も積み重ね、することが無くなったら新しい遺跡を目指そうと考えていた。
だから、計画が狂ったとレイに言うと、
「そうか。であれば問題ないな。あの遺跡の16階層まで来れたのは君だけだ。大抵は、あの冷気に当てられ、気味悪がって降りては来なかったからね」
と至って普通に返されてしまう。
確かに、初めて移籍攻略できて舞い上がって調査などせずに躊躇せず潜った。
それは、移籍の攻略においては間違っているのだろう。
「だが、あれは正解でもあったがな。もしそのまま戻っていたらモンスターを引き連れた僕と遭遇していた」
「どう言うこと?」
「なに、単純な話だ。ルリとハリがお腹が空いたと喚くからモンスターを引き連れて戻ろうとしただけだ」
「……どれくらい?」
「たしか、4階層から引きずり込んで来たから数百はいたかな」
「……」
やはり可笑しい。
私の記憶が正しければ、遺跡のモンスターは多い階層ですら20~30体しか一度に出現しないと聞いたことがある。
勿論、遺跡の全てを攻略なんて出来ていないから推測だが。
であれば、それはモンスターハウスのような光景だろう。
「それって危なくないの? 」
いくら優れた 魔術師でも全方位から迫り来るモンスターに対応することは難しいはずだ
吟遊詩人の詩で聞いたことがある英雄ですら、そんなアホみたいな自殺行為はしないはずだ。
「別に? 所詮は低モンスターだからね。防御魔術で道を作って歩くだけさ」
防御魔術で道を作るなんて聞いたことがない。
それに、全方位に防御魔術を張り巡らすなんて……変態の所業だ。
『レイ様は天才だからね』
『変態なら可能なことよ』
ハリ君とルリちゃんが私の左右から笑いながら答える。
それを聞いてレイは苦笑し、二人の頭を撫で回す。
これを見ていると、軽口を叩くルリとハリを愛しているのだと伝わる。
「そろそろ、門が見えるよ」
門には衛兵が数人居てこちらを見て微笑んでいる。
確かに二人とも可愛らしい人の子にしか見えないからね。
私も先ほどからついつい口元が緩んでしまう。
「お疲れ様です、旅の方々でしょうか?」
衛兵の一人が形式的に訪ねる。
それに頷くと、今度は白いメダルを4つ渡された。
「それは、この町で滞在者である証明書の代わりとなります。失くされますと、違法侵入として冒険者に襲われても関与できなくなりますのでお気をつけください」
「分かりました。ありがとうございます」
私が住んでいた町にも同じような仕組みがあった。
冒険者には徴税が無いため、町に守って貰う為には必要な物だ。
そして町により、 必要な仲介料は変わるが……
「では一人、小金貨一枚を頂きます」
小金貨一枚となると、とてと高く感じる。
だが、町の情勢により変わることも多い。
治安が悪い場合は衛兵の手では足りなく、冒険者に護衛を任せることも多い。
しかし、冒険者の一月にも匹敵する大金を請求するなど聞いたことも無い。
「ずいぶんと不景気なみたいだな。何かあったのか?」
レイが衛兵にストレートに質問する。
こういう場合は世間話をしてから聞くものだが、変態にはそんな煩わしいことはしないようだ。
衛兵もあまり見ないのか苦笑を見せる。
「兄ちゃん素直だな。普通、世間話に少しは付き合えよ」
「貴様の事情など知ったことか。治安が悪いのであれば蹴散らすから問題ない。それに、仲介料の支払いで襲うかどうか決めるような貴様たちと話すことなどない」
「なっ……このやろう」
そして、レイが答えると同時に衛兵が私たちを囲む。
「ど、どういうこと?」
「こいつらは衛兵なんかじゃない。こいつらは盗賊だ」
衛兵が盗賊?
それは、あまりにも突飛な発想にしか思えないが。
盗賊扱いされた途端に、剣を抜き襲い掛かる寸前の状況がレイの言葉が正しいことを物語っている。
「こいつらは、何もかも変だ。こんな夜中に町に入ろうとすれば、不審者でないか確認するのが自然だ。だが、こいつらは僕らを旅人と決めつけて、有り金がどれくらい露骨に確認した。まるで襲うべきかどうか悩んでいるかのようにな」
レイが私を守るように前と出る。
そして、小さく何かを呟き。
直後、白い光が前方を包むと同時に爆心する。
「きゃあっ!」
強い衝撃が辺りを吹き飛ばし、盗賊たちが遠くの壁に打ち付けられ、その場に倒れこむ。
攻撃魔術の一種だと思うが、何が起きたか理解できない。
「弱いな」
そう言うレイの瞳は軽蔑にまみれ、明らかに様子が変だ。
「……ではいこう。中は普通の町だ。流石の彼らも中でことを起こすなんて出来ないからね、不安にならなくてもいい」
レイは盗賊たちを魔術の檻に閉じ込め、町の中へ歩く。
その姿は、まるで……
異人ギアのように思えてしまう。