第4話 変態の料理は想像以上
青い氷で作られたテーブルに料理を並べていく。
一つ目は、実家の料亭で大人気の豪華グラタンだ。熱い湯気と焦げたチーズの匂いが漂ってくる。
そしてデザートとして、氷グラスで冷やされたプリンを置く。
「完成よ。これがグラ釜亭の名物、豪華グラタン。そしてこっちがデザートのプリンよ」
「おお、美味そうだ」
料理の説明をすると、変態が我先に手を伸ばす。
そして、純竜の二人もプリンに手を伸ばし、
『美味しいわ、レイの作る料理なんて残飯ね』
『姉ちゃん、それは可哀想だよ。本当のことだけど……』
この時点で2対0で勝ちは決まりだ。
私が変態の料理に入れれば引き分けもあるが、こっちは命が掛かっているのだ。
そんな馬鹿な真似はしない。
「うん、美味いね。これは想像以上だよ。特に、このグラタンだったかな。こんな美味いの食べたことないよ」
と、まさかの変態も絶賛だ。
「じゃあ、私の勝ちでいいのね? 私を殺さないでくれるのね?」
勝負を始めたキッカケは殺す殺さないが根本だ。
だから、まずはそれを確認する。
「うん? ああ、殺さないよ。元からそのつもりでもあったけどね」
と、安心するも何か引っ掛かる。
ええと、元からそのつもりでもあったけどね………
「どういうこと、だって貴方私を殺すって……」
「誰も殺すなんて言ってないけど、何を勘違いしているんだか」
変態が呆れた表情で私を見つめる。
でも、こいつは最初に……
ーー
「ああ、初めまして。小さなお嬢さん。僕はこの遺跡の王であり、竜族の協力者であるレイだ。まあ、名乗った所で君が忘れる事に変わりはないけどね」
ーー
「無理さ。君みたいにここまで来れる存在をおいそれと返す訳にはいかないからね。それに、君みたいな少女は僕のコレクションに加えて置きたいしね」
思い返すと、変態は命を奪うとも殺すとも言ってはいない。
忘れることになる、おいそれと返す訳にはいかない。
これしか言っていない。
一言も私に傷を負わせるようことを言っていない。
「だったら、なんで勝負なんて受けたの?」
「うん? ああ、命は奪わないけど。今日1日の記憶は貰うつもりだったからね。流石にそれは申し訳ないと思ってね。だから勝負で勝って正々堂々頂こうと思ったんだけど……」
「私が勝っちゃったと………。って、記憶を奪う? そんなことできるの?」
「簡単だよ。記憶の回路に別の記憶を乗せるだけだし。例えば、僕とデートでもした記憶を捏造して貼り付けることだってできるし」
変態はやはり変態のようだ。
にしても、最初から変態の手のひらで転がされていたのね。
だけど、記憶を失うことは金貨を失うことになりかねない。
もしも、持って帰っても、いつの間にかにポケットに金貨が入ってたら不安で眠れなくなるだろう。
「では、僕の料理も食べてもらおうかな」
と、いつの間にかに変態が皿をテーブルに置く。
中には、見たこともない白くふわふわとした物がある。
「これって、貴方が作ってないよね? ルール違反でしょ」
先程まで変態が作った料理は凍りづけの厨房に残っている。
ということは、収納魔術から取り出したのだろう。
「料理は作る事に限らない。料理とは、食事ができる物でないかな。君のルールには何一つ接触していないさ」
ドヤ顔で私を見て笑う。
そして、木の棒で白いふわふわに刺すと同時に、風に揺らぎ巻かれていく。
これは天候術の応用でも使っているのだろうか。
「さ、どうぞお嬢さん」
今更カッコつけたところで印象は覆らない。
だが、目の前に浮かぶ小さな雲はとても魅力的に見えてしまう。
「ふわふわで甘い……」
口に中に入ると途端に溶けてしまう。
それに、程良い甘みが口一杯に広がる。
『これは中々ね。レイが作って無かったら絶賛かしら』
『美味しいね、でもお姉さんが作ったお菓子の方が美味しい』
と、竜の評価は分かれてしまう。
そして、悔しいが私自身も。
これ程魅力的な料理を見た事は無い。
幼き頃に誰もが夢見る雲を食べたい。
そんな心を満たしてくれる。
「くう、これは……」
変態の発言を信じていいなら、ここで雲のお菓子を絶賛しても死ぬ事はない。
けど、記憶を失う可能性は高い。
料亭の娘として、料理に対して嘘をつくことはできない。
「へんた……レイの料理、美味しい」
思わず変態呼ばわりしかけるが、ここはやめておく。
料理は誰にも嘘をつけないから。
「そうか、それは良かった。これで勝負は引き分けさ」
と、変態が引分けを告げる。
今まで見た事もないとびっきりの笑顔で。
その姿は新しいオモチャを貰った子供のようだ。
「君の願いはどうでもいい、僕の願いは一つだけさ。僕たちと一緒に遺跡巡りでもしようじゃないか」
「なっ………!?」
「因みに拒否権はないから。拒否すれば殺す」
先程までとは異なり冷たい殺気に飲まれる。
そして、変態は手を出すと勝手に私のパーティ情報を上書きする。
「では行こうか」
その発言はただの少女である私を変える事となる。
その日から私は変態のパーティメンバーへと成り果てるのだった。