第3話 変人と料理は食べ合わせが悪いようです
料理は得意中の得意だった。
よく、魔術師候補生なんて辞めて厨房で働けと両親に説得されたものだ。
「卵と牛乳と砂糖、後は米と水、トマト、チーズでいいかしら」
私が作る料理は普段食べる機会が少ない、豪華なメニューだ。
トマトソースを絡めたお米とチーズを組み合わせ、変態が用意した窯へと入れる。
そして、その間に火にかけた鍋に牛乳と卵、砂糖を入れてじっくりと加熱する。
後は、冷まして形にするだけだ。
実は料亭の娘として育った私に取って料理は得意中の得意だったりする。
それに、変態は食材を大量に出せば一杯使って変な料理になると思っていたみたいだけど、そんなミスはしない。
あくまで、最初に決めたメニューの材料のみを使っていく。
「家の厨房よりも、火の調整がし易くていいなあ」
思わず、厨房の評価すらしてしまう程に順調に進んでいく。
それに対して変態はーー
「むむむ、この牛乳と米を炒めて、砂糖を掛けて、冷やして、トマトで炒めて……」
先程から不安になりそうな事をブツブツ言いながら作っている。
聞くだけで、とんでもない料理が出来そうでゾッとする。
「(変態が作った料理を食べないといけないのかな……)」
そう考えると憂鬱である。
それに、味覚音痴だった場合、そもそも勝負として成り立たない可能性だってあるのだ。
「ねえ、変態さん。ちょっと相談があるの!」
「ぐはあっ、へ、変態呼ばわりだと、これはこれでーー」
何やら胸を押さえながら疼く変態。
見た目は少年なのに、その光景は変な感じだ。
「ルールを変更したいけどいい!」
「別に構わない。君が決めた勝負で僕は勝つ」
断られると思っていたが、すんなりと了承された。
表情を見ると、真っ赤に染まりもぞもぞ変態っぽい仕草をする変態だ。
「じゃあ言うね、料理を食べるときには変態以外の意見も聞きたいの。だって、貴方が僕の方が美味しいって言ったら、絶対に勝てないじゃない」
そう言うと変態は確かにと首を縦に振る。
そして、
「だったら、そこの竜たちにも食べて貰おうじゃないか」
と、驚くべき事を口にする。
人類に取って、宿敵である竜に料理を与えるなんて聞いたことがない。
そんな事をしてしまってもいいのだろうか。
「ああ、心配しなくてもいいよ。そこにいる竜は五竜と違って、由緒正しき純竜だから。君らが嫌う竜とは種族が違うからね」
「竜に種族なんてあるの? だって英雄譚に出てくるのは皆5属性の竜しかいないよ」
五竜。
名の通り、炎、風、水、光、闇を司る竜を纏めて呼ぶ。
それしか聞いたことがない。
「そりゃあそうだろうさ。君らが帝国と戦争するように。竜たちも戦争して純竜の数は少ないからね。今じゃあそこに入る2体しか残っていない」
「じゃあ何、純竜は人を食べたり殺したりしてないの?」
「うん、僕の知る限りではね。そもそも、純竜は戦いを好まない血統高い種族でもあるしね。人間の方がよっぽど殺しているんじゃないかな」
それなら料理を作ってもいいのかもしれない。
むしろ、この変態に手作り料理を与える方が嫌な気分だ。
「でも竜が食べる分なんて作ってない! 制限時間を増やして」
最初に出したるルールは、五人分くらいだったはずだ。
とてもじゃないが、竜たちが食べる量には少なすぎる。
「うん、別にそのままでいいよ。ねえ、君らもいいだろ」
変態が竜たちに聞くと大きく頷く。
そして、羽を縮めると白い光に包まれてーー
『うむ。問題ないぞ』
『姉ちゃんには足りないかもーーイテッ』
代わりに私よりも幼い少年と少女が立っていた。
先程まで変態に威圧されていた竜はどこにも見えない。
「な、ななななっ」
「驚いた表情も実にいいね。コレクションに加えたくなったよ」
変態が何か言っているがどうでもいい。
だって、その二人はとても可愛いのだ。
『どうかしたか? ニンゲン?』
『多分、姉ちゃんが驚かすからビックリしちゃったんだよ。姉ちゃんの口から血が出てるし』
『あれ、さっきのトマトだな』
子供二人が言い争い、先程までの空気は一変する。
「竜が人に化けた……」
「ああ、面白いだろ? 五竜なんて下等生物には出来ない芸当だ」
ククっと変態がドヤ顔で言う。
そして、焦げた匂いも。
「焦げてますよ?」
「ん? あっ、やばい消さないと、消えろっーー!」
変態が厨房に駆け寄り、剣の冷気で厨房ごと凍りつく。
ジリリリッ!
そして終わりを告げるベルの音が鳴り響く。
……どうやら、勝負は貰ったようだ。