涙石のルルカ
暗く狭い部屋で小太りの人間の男が、さあ泣けと目隠しをされた小人の男を殺さんと剣を振りかざす。それを見た小人の少女は、その白い肌と髪をぶるぶると震わせるのみだった。やがて振り落とされた剣は、ざんざと首を切り落とす。ごろりと頭は転がり、血が地を染めてゆく。その段に至ってようやく少女は涙で床を濡らした。
小人の少女、ルルカの涙は流れ落ち、地につく頃には宝石になるという力があった。ルルカは母と共に人攫いの小太りの男に攫われて、その力を今まで利用されてきた。
初めに殺されたのはルルカの母だった。脅しつけても震えるばかりで涙を流さないことに痺れを切らせた男は母を殴った。それを見たルルカはたまらず涙を流すが、ルルカにとって最大の不幸はその涙の宝石は今までにないほどに美しかったことだ。気を良くした男は殴るのをやめるどころか続けていった。やがてピクリとも動かなくなる母を見て、ルルカは血の涙を流し、地べたには一つの赤い宝石が残った。
それからというもの、人攫いの男はルルカの前で様々殺してみせた。幸か不幸か殴られる事だけはなかった。泣くよりも早く気を失ってばかりだったからだ。小太りの男は短絡ものではあったが、多少は頭が使えるようで、殴る事はしなくなったのだ。それでもルルカの不幸は終わらなかった。売り物にならない者を連れてきては殺していく。どうやら今日は小人が多かったらしく、今しがた殺した小人の男を雑にのけて、手を縄で縛られた小人の男が部屋に入ってきた。
小人の男は少女と対照的といってよかった。囚われの身とは言え、死なれては困るので食べ物はまともであったし、身を清めるために多少の水は使えた。それに対して小人の男は非常に薄汚れていた。肌は浅黒く黒髪で、ぼろきれこそ纏ってはいるが目は爛々と光輝いている。
相も変わらず震えるルルカを見て小人の男はにやりと笑った。それに気を悪くしたのか、顔をしかめた小太りの男は腹を蹴り込む。痛みに跪く小人の男の首めがけ、おおきく剣振りかぶり小太りの男は叫ぶ。
泣け、泣け、宝石をだせ。
血で濡れた剣は首を断たんと振り落とされるが、しかしそれは起こらなかった。小人の男は地をぐるりと回ったかと思うと小太りの男の膝裏を蹴り込む。思わず膝をつく小太りの男の喉を、いつの間にやら縄を外した手でもって強かに突いた。
えずく男を無視して、小人の男は口から吐き出した鍵でもってルルカの足枷の錠を外す。
「あなたは誰?」
ルルカは思わず聞いた。小人の男はまたにやりと笑い、ただの泥棒だと言った。




