王殺しファルド
バルカンを殺した後、ファルドは浸る間もなく控え室に引っ立てられる。今まで奪われることのなかった大剣を二つ共に奪われ、手には枷を嵌められる。さすがに防具ばかりは奪われなかった。そうしてファルドはまた引きずられるように戦いの場に連れられた。
ファルドの前には見覚えのある顔があった。王だ。白銀に輝く剣と鎧を纏い、華奢な冠は一層この場に似つかわしくない。ファルドは以前感じていた違和感の正体を見抜いた。
「王にして国、国にして王。大王ウィンフルヘルム君」
王の後ろから大きな歓声があがった。口々に讃える声が響き、王も満足気に頷く。王は見た目だけなら歴戦の戦士そのものだ。ファルドはしかし怨敵を睨むように見る。違う、あれは違う。その感覚だけが心を巡る。
「屍鬼殺しの功をあげ、国王陛下よりその大任を授かった元帥及び将を殺した罪を犯した者。ファルド」
沸々と湧き上がる感情を吐き出すようにファルドは声にならぬ声を叫んだ。怒り、そうこれは怒りだ。枷を嵌められたことや武器を奪われたことにではない。戦う上で卑怯なことなど存在しないとファルドは考える人間だ。しかし、それでもバルカンとの一戦には穢してはならない何かがあった。少なくともファルドはそう感じてそれに従った。だというのに此奴は、此奴等はそれを穢しているのだ。バルカンを殺せる程の者は武器を取り腕を封じた程度で殺せるのだと。バルカンはそれ以下であると。
一際大きく銅鑼が鳴る。王は剣を一見鷹揚に構えた。まるで一端の剣士であるかのようにだ。その様もまたファルドの怒りを強く誘う。怒りのままに猪突猛進ファルドは王に近づいた。それを狙いきらりと銀閃が描かれる。成る程図体に見合った早さはあるのだろう。しかしそれだけだ。ドドルスのような力もフルティカのような周到さも、当然バルカンのような技の冴えなど微塵もない。ファルドの早さの前では避ける事など容易だ。ただ横に躱す。王は即座に二の太刀を繰り出す技さえ無く、一つ調子で大きく上段に構えて振り下ろす。それだけを繰り返した。
避けるのに飽きたファルドは避け様に王の鳩尾を蹴り抜いた。鉄板入りのそれは白銀の鎧を砕き、王は腹を抱えて跪いた。鉄枷を力のままに外し剣を拾う。ファルドは剣を跪く王の首に徐に添えた。
「決闘を汚した罪、甚だ許し難し。お前には贖う功も武もない。よってお前を今ここで殺す」
ファルドは死を宣告する処刑人の如く言って剣を構えた。ゆっくりと振り上げられた剣は、またゆっくりと振り下ろされる。差し出すように下げられた首は一切の抵抗無く刃を受け入れた。ごろりと首が落ちる。さめざめと動揺の広がる観衆どもをおいて、ファルドは晴れ晴れとした子供の様な笑みを浮かべた。
とある国は代々戦好きの王が治めている。その王の中に一人、鬼童王と呼ばれる王がいた。出自は謎に包まれ、ただの孤児であるとか、山賊に育てられたなどと噂されたほどだった。この王に関する確かなことは三つある。一つは当時の王を殺してその地位を簒奪したこと。一つは通り名の如く子供なりで鬼のように強かったこと。一つは彼の王の最後は誰も知らないということだ。
時折どこかの戦場では、鬼のように強い子供が現れるという。二つ大剣で舞い、笑みを浮かべて戦場を駆ける鬼の噂は未だ絶えない。




