人挽きドドルス
男に促され入り口を抜けると鉄壁で退路を塞がれる。そこは円状の大広間になっていてぐるりと周りを観衆が囲んでいた。ファルドの反対の入り口からも男が入ってくる。ファルドとは真反対といってよい姿だった。何かの頭蓋の兜で顔を覆い、熊のような大きい体を金属の鎧で包んでいる。手に持つのはファルドよりも大きな槌だった。
「獅子牛殺しの功をあげ、やんごとないお方に姦通を強要した罪を犯した者。ドドルス」
男、ドドルスは雄叫びをあげた。大槌を振るえば土埃が視界を塞ぐほどの風が舞う。観衆はその威容に大いに沸いた。
「屍鬼殺しの功をあげ、国王陛下よりその大任を授かった将を殺した罪を犯した者。ファルド」
ファルドはただ大剣を一つずつ手に持った。その姿はさぞや頼りなくうつっただろう。ファルドは子供なりに加えて碌な防具をつけていなかった。ぼろの革鎧で兜はなく、精々良いものは金属を仕込んだ靴と剣ぐらいのものだ。観衆は哀れんだ。これから起こるのは一方的なものであると誰もが疑わなかった。
ぐわり、と大銅鑼の鳴る音がする。二人は極めてゆっくりと歩み寄り、やがてぴたりと止まった。二人の間合いは僅かにドドルスが勝っていた。ファルドはしっかりと剣を構えていたが、相手はだらりと腕を下げている。試しに一歩ドドルスの間合いに踏み込んだ。しかし動きはない。かたかたと、骨の兜の鳴る音がした。
ファルドは再び距離を詰めた。今度は一気に駆け寄る。不意を突かれたドドルスは容易に間合いを詰められる。大槌の間合いから大剣の間合いを過ぎ、遂には徒手の間合いまで飛び込んだ。股間を勢いのままに蹴りこんで、下がる顎を逆手に持った大剣の石突きで跳ね飛ばす。そこまでしてファルドは油断なく大槌の間合いの外まで下がった。
ぶん、と間近を大槌が回った。ドドルスは既に相応の傷を負っているはずだった。股間を覆う金属はひしゃげており、骨の兜も砕けて顔が現れていた。しかし顔を真っ赤に染めあげてなお、威力のある一撃を放ったのだ。ファルドが欲張っていれば無残に叩き潰されていた可能性は大いにある。しかしはじめに油断したのはドドルスだった。時として戦いはそれ一つで終わりを決めるものだ。
ドドルスは油断なく接近に備えたが、ファルドは既に大槌の間合いや早さなどを見切っていた。また間合いに飛び込むと、当然の如く大槌が迫る。それを大剣の腹で滑らせ跳ねあげた。驚く間もなくドドルスに大剣が迫る。挟むように首を二つの大剣と舞う。ただ一撃で首が断たれてドドルスは死んだ。
観衆はしばらく状況が飲み込めていないようだった。しかし首を失ったドドルスの体が倒れる音を聞くと、今日一番の歓声をあげた。笑い、叫び、感動する知外のものどもを見る。ファルドには些かも共感出来なかった。




