大将殺しのファルド
ファルドは経験上こんな戦をした国は悉く滅びたのを知っていた。だからさっさと別の国に移ろうとしたのだが待ったがかかる。陣に戻ったファルドを再び槍兵どもが取り囲む。殺した将の副官が前に出て言った。大将を殺した罪でお前を拘束すると。
鬼をも殺すファルドにとって囲いなど意味をなさないのは副官も分かっていただろう。しかしファルドは大人しく捕まった。薄々感じていた事だが、鬼を殺して確信に変わったからだ。弱いものと戦っても意味がない。それはファルドの生きる意味が変わった瞬間だった。戦うために生き、生きるために戦う。それに強いものと戦うということが加わったのは大きい。少なくともファルドは衝動的な殺しはしなくなった。
ファルドは煌びやかな都の宮殿に連れられた。おかしいのは二つの大剣を取り上げられていないことだ。背に大きな剣を担いだまま、王の前に連れられる。王は今まで見たこともないほどの大男だった。跪くファルドと比べると巨人と小人ほどに差があるように感じる。それと同時に強い違和感をファルドは感じた。
王は体に見合った声でファルドに言った。
「お前が戦に現れた鬼を殺したというのは真か」
ファルドが答えるよりも早く後ろにいた副官が是と答えた。
「お前が私の選んだ将を殺したのは真か」
やはりこれも副官が是と答えた。王は答えを聞いて深く頷き、沙汰を言い渡す。
「お前のあげた功はこの上ないものだが、共に自軍の 大将を殺すのもまたこの上ない罪である。どちらが勝ると軽々に言えるものではない。よってお前には古くから国に伝わる裁判を行う」
それだけ言うと王は出て行った。ファルドもまた早々に部屋を連れ出される。
ファルドは冷たい石畳の床に腰掛ける。戦で使い通しだった大剣の具合が気になったが贅沢は言えない。やることはいつもと同じだ。ただ一つ相手が強いことだけは願っておいた。これから裁判がはじまるのだ。罪人たちによる命を賭けた裁判が。




