大顎ファルド
男の人生は戦いそのものといってよかった。まだ赤子の時に生まれた故郷は賊に焼かれた。運良くその賊の一人に拾われて名付けられた名はファルド。名付け親と仕事仲間は十二の頃に皆殺した。
食べ物を作らされていたので毒をくすねて混ぜ、動けない賊の悉くを殺した。しかし特にファルドは復讐をしたわけではなかった。かしらの首を持って近くの街に届けた。かしらが自分の首にかかっている懸賞金のことを自慢気に話しているのを聞いていたからだ。ただその金のためにファルドは殺した。
それからファルドは傭兵として一人各地を巡った。金で一番大きい剣を二つ買う。ファルドはただ大きいほうが強いだろうと思ったから買っただけだったが、思いのほか剣は手に馴染んだ。はじめこそ一つの剣だけを振り回すのが精一杯だったが、三年も振っているうちに二本同時に扱えるようになった。今では武器が壊れるたびにさらに大きな剣を探すほどだ。
肥沃な大地、宝石や鉱石、あるいは人。世界に争いが無くなることはなく、ファルドは戦い続けた。
ファルドは子供の様な容姿で大人より大きい剣を二本巧みに操った。最初は皆侮り、次に驚愕し、最後には恐れが広まる。その大剣で碌な抵抗も出来ずに体を断たれたものが百を超えた頃、大顎の名は傭兵たちのなかで知らないものはいないほどになった。子供の皮を被った怪物。戦場でその姿を見たもののなかにはただの子供を見ただけでも震えるものもいた。ファルドはただ戦い続けた。未だ、それしか知らないゆえに。




