己を信じよ
あれからどれだけの時が経っただろうか。ジャスルは過去を振り返る。思えば一番今日という日に固執し、人の良し悪しを勝手に分けたのはジャスル自身だったように思う。しかし己の若さゆえの傲慢をジャスルは愛おしく思った。それはあの日から変わらない。人はそういうものなのだ。
ジャスルは結局自分も立派な白髭をはやすまで神殿で世話になった。預言者の説教は好評で、薀蓄や言葉の裏など読むまでもない真っさらな言葉だったがそれが良かったのだろう。いつしか街の外からも人が尋ねてきた。そのなかにはあの因縁の役人もいたが、どうにもジャスルは復讐する気にならなかった。怒りが消えた訳ではない。しかし同時に思うのだ。役人なりの良し悪しがあったのだと。
ジャスルはいつの日からか、街の外の森に居を構えた。街は何十年という時が大きくしたが、ここは変わらない。また今日も川の近くの倒木に腰掛けて糸のない竿を垂らす。ジャスルがこの釣りをはじめてからまだ一つも釣果は得られていなかった。だが、それでもジャスルはそれを止めない。糸が無いから釣れるものをジャスルは知っている。いつの日か、あの日のように釣れると信じて。




