百人力のダダ
身の丈三メートルを超える大男ダダは己を囲む十数の敵を見て血が燃えるように熱くなるのを感じ、思わず雄叫びをあげた。しかしどう、と敵がただ己の声のみで倒れ込む様に血は冷めてゆく。
里を飛び出してからダダは人間と戦うとなると、往々にしてこうなる事だけはことさらに不満に思っていた。
ダダは巨人といわれる種族だ。ダダは故郷の巨人の中でも一番の力を持っていたが、三十になった年、ある女に自分よりも背が低いことを貶され衝動的に故郷を出た。以来さまざまな国をまわったが、今度は人と比べて大きすぎるその体を恐れられた。そんなダダを快く迎えたのはアウゲルニウスだった。
己に喝をいれるように雄叫びをあげ、その身の丈と同じほどの長さを持つ大剣をただ力いっぱいに横なぎに振るう。それだけで腰の引けていた者どもは千切れとぶ。あるいは腰を抜かしていた者も、ただ蹴り込むだけでダダを超えるほど弾けとんだ。唯一といっていい対抗手段である弓も、戦場を縦横無尽に駆け回るキュロスに全て射込まれていた。もはやダダを止めるすべなどなく、敵はことごとく背を向けて逃げてゆく。
「終わったな」
逃げゆく敵を射ながらキュロスが呟いたのにダダは頷いて返した。そう、終わったのだ。かつてのように不満はある。しかし、変えがたい新たな故郷を背に、ダダは深く頷いた。