昨日を羨まず明日を恐れず、今日を生きよ
ジャスルがしばし呆然としていると、それらは現れた。ずらりと場違いな金属鎧を着込む騎士たちが、真白のローブの老人を守るように囲んでいる。ジャスルの姿を見ると騎士たちは一斉に取り囲んだ。絶体絶命。この騎士たちは己を捕まえにあの役人がださせたのだろうと考える。ジャスルは観念したように木に座った。
しかしいつまで経ってもジャスルを捕えようとはしなかった。それどころか騎士たちは戸惑っているように見えた。その騎士たちを押し退けて真白のローブの老人が前に出て言った。
「ここに貴方以外に誰か居なかったか」
それに対してジャスルは是と答えた。そして老人に竿とレリーフを渡そうとする。いつもならば隠して後で売り払うだろうが、どうしてもそうする気にはならなかった。あるいは欠片ほどの神仏に対する畏敬が残っていたのかもしれない。そう思うほどに消えた老人は不思議だった。
竿とレリーフを見た老人は体を震わせた。そして決して受け取ろうとはしなかった。やはりだの間違いないだのと呟いて、最後にジャスルを見て言った。貴方を預言者として神殿にお連れしたいと。
老人が言うにはジャスルがあったのはヨウケルタニスと呼ばれる神なのだという。人の成長を司り、様々な姿で人を導くと聞いた。ある時は子供の姿で英雄の親に子供の純真を知らしめ、またある時は成人男の姿で英雄にこれから起こる試練の助言をする。そして時に老人の姿で道外れた英雄を諭すのだという。そして必ず言葉を貰ったものは青く輝くレリーフが渡される。そしてそれは渡された本人にしか触れない。
ジャスルは試しに背を向けた騎士にレリーフを当てようとしたが、まるで壁があるように出来なかった。なるほど確かに本物だと思ったが、なぜ自分がという思いも募る。ジャスルは己が悪党だという自覚があるし、英雄たる才も持っていない。考えても考えてもわからない。わからないので神殿に行くことにした。少なくとも預言者が粗末な扱いをされないと思ったからだ。ジャスルはそうして生きてきた。大金は持たず狙わず、今日生きる分だけを奪い取る。昨日も明日も考えない。それが悪として生きてきたジャスルの唯一の確固たる指標だ。




