巡るもの
あの後味方の陣に戻ると歓声がガラフを迎えた。あっけに取られているうちに豪華な鎧の男に聞いたこともない装飾のされた言葉で喚き立てられる。されるがままでいると馬車に押し込まれ、気付けば王の前だった。
王都は街も歩く人も自分の着る服さえも豪華だった。勿体つけるように重々しく王は賛辞を述べる。そして王はガラフに褒美は何が良いかと聞いた。ガラフが聞くところによると自分は単身切り込み敵将を討ったらしい。ガラフは大変迷った。今更故郷に戻ってあの空虚な暮らしに耐えられるとは思えなかった。しかし人を殺したいなどとは王の前では言わないだけの分別はあった。
ガラフは迷った末に金を選んだ。あまり長く考え込むことも出来ないので無難にした。銀行で金と変えられるという割符と勲章を受け取り逃げるように王城を出る。途中、凱旋式だの英雄の誕生を祝した会食だのと誘われたが、人違いを装い逃げ切った。
王都での生活は食べるもの一つとってもガラフを驚かせたが、喪失感を埋めるには至らなかった。貰った金の幾らかを使った剣を目を瞑りながら振る。あの長い戦いの記憶が思い起こされるが、あの感触だけはどうにもならない。幸か不幸かガラフに理由なく人を切り殺す性はなかった。人を殺して捕まることもなく、喪失感が埋まることもない。それは永劫に終わらない拷問のような日々だった。
そんなガラフに転機が訪れた。一つ宿を定めるとひっきりなしに人が来るので、毎日宿を変えるようにする。それ以来人は尋ねて来なくなったのだが、その日は珍しく人が来た。
ガラフは注意深く尋ねてきた男を見ると見覚えがあった。あの戦いで装備を売った上官だ。男はよう、と軽い様子で挨拶をしてガラフを食事に誘った。ガラフはとくに断る理由もないのでそれを受けた。
食事の途中、男ははじめて会った時にはない頬の傷があったのでガラフは何気なしにそれはあの戦いでついたのかと聞いた。するとそうではないという。男は南の未開の地を開拓して貴族になったそうで、そこでは蛮族や獰猛な獣がいるのだという。男は頬の傷を撫で、これは大鷲にやれれたと笑う。そして一転真剣な表情になってガラフに言った。お前も手伝ってくれないかと。ガラフは迷いなく応と答えた。
ガラフはまた耕した畑を眺めて深く頷いた。この開拓村の日々は忙しい。畑を耕し、作物や人を襲う者どもを倒す。人が増え耕す土地がなくなれば木を切り倒し、また耕す。やがて嫁もでき、子もできた。それらの営みに終わりはなく、繰り返される。鍬を剣に、剣を鍬に。ガラフは満たされていた。この生きるということに。




