石割ガラフ
ガラフは農民の四男として生まれた。長男ではなかったがやるべきことは多い。耕し、植え、余裕があればその分畑を広げる。ガラフがちょうど二十になる頃には独立に困らないほどの畑を新たに作った。ガラフの父と長男は快く家を分けることを認めた。仲は悪くなかったし、豪農というわけでもないのだから財産もいくらかの金とガラフが新たに作った畑を貰ってそれで終わった。
ガラフの力は強く、鍬で石を割るほどだった。良く働き一人前の畑を持ったガラフは村の女の注目の的だったが、特別仲の良い者はいなかった。畑を耕すことが好きだったガラフは暇さえあれば耕していたからだ。まずは自分の畑を。次は親類の畑、最後に村中の畑を耕した。ついに村長が管理しきれないと言ってそれは終わった。今更代わりにすることも思いつかず、日々をただ畑の世話が終わると抜け殻のように中空を眺める日々が続いた。
それが起こったのはガラフが二十二になった頃だった。いつものように畑の世話をしていると、慌てた様子でガラフの父と村長がやってきた。急いで息を整えると、震える声で徴兵だと言う。ガラフはなるほど、と思う。ガラフの村には自警団代わりの猟師程度しかいない。見たこともない鎧の男たちと数人の良い服を着たものたちが朝に来ていたのは知っていた。それと同時に思う。何故この二人が来たのかを。
父と村長は深々と頭を下げた。ガラフはそれを受けて別に構わないと止めさせた。ガラフは徴兵される一人に選ばれたのだ。徴兵される数は十人。そのうち九人はガラフのような年頃の三男四男が選ばれた。しかしあと一人がいない。困った村長は一人の男を思い出したという訳だ。新たな家こそ作ったが、嫁も取らず子もいないガラフだ。本来は家長や長男は徴兵の対象から外れる。村長の頼みとはいえ断れたがガラフは受けた。村に残ったところですることもない。ならば村を出てみるのもいいだろうと考えたからだった。
ガラフは畑を所帯を持った兄たちに分け、村を出た。他の九人の表情は様々だった。期待、不安、諦め。鎧を着込んだ兵に囲まれて、売られた家畜の様に逃げ場はない。それでもガラフの心は今までの閉塞感から解放されたように晴れやかだった。




