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異世界騒動録  作者: C:drive
騎士の道、未だ遠く
12/28

我が名はノルド

 ノルドは一日しっかりと宿で休んだ。そして山に向かおうと宿を出ると待ったがかかる。宿の外には大勢の異種族たちが待ち構えていたのだ。


 まず雪纏う巨人たちが家畜から作った保存食をノルドに渡した。次は人食い女人が白い外套を渡した。それは山の寒さを防ぐという。鉄を食らう小人は水の湧く洞窟の在処を教えた。そうして様々な異種族たちが山の知恵、道具をノルドに渡していった。


 ノルドには知りようのない事だが、ノルドに迫る事情を教えてくれた若い騎士は異種族だった。あの場で行われた宣言とその覚悟は瞬く間に広まった。


 異種族たちの思いを快く受け取り、ノルドは山へ向かう。人々はノルドの進む道を避けて声高に叫ぶ。ノルド、ノルド。ソーディルに挑むものよ。天を恐れぬ騎士よ。いざゆかんと道なき天を進め。


 山は雪に覆われ道などなかったが、ノルドは一心に坂を登った。風が吹き、雪が体を打ちつける。それでもただ真っ直ぐに頂きに向かった。草木もなく、生き物の気配のない山を歩くうち、次第に感じるものがなくなっていく。はじめに吹く風、次に寒さを忘れる。最後には時間がなくなった。雲が空を常に覆い、一体何日歩いたかもわからなくなる。思い出したかのように水を飲み肉を食べては歩き、また歩く。心だけはなくさぬよう願いながら。


 やがて水も肉も尽きた頃だった。足元の雪が消え暖かさを感じてふと空を見ると雲一つなかった。ノルドは山を登ってはじめて後ろを見ると雲より上に来たのだと知った。天は雲より上にあるのかと改めて天の大きさを思い知った。


 さらに日が一度たった頃だ。それは遂に現れた。今まで視界を塞いできた坂はなく、すり鉢状になっている大地だ。真ん中には泉があり、実のなる木々もある。ノルドは遂にたどり着いたのだ。竜の住む頂きに。


 感慨にふけるノルドを影が覆った。あやしく思い見上げると、いた。白銀に輝く鱗が体を包み、深紅の眼がノルドを射抜く。それはどう、と目前に降り立った。体は蛇や蜥蜴の様に細くしなやかだが、翼は天を覆わんばかりに大きい。皮膜をただ動かすだけでノルドはぐらりとよろめいた。竜はしばしノルドを見つけると大きく口を開いた。身構えたノルドを襲ったのは女の悲鳴のような甲高い咆哮だった。不意を突かれて痛むのを忘れように、ノルドも大きく叫ぶ。

「我が名はノルド」

 他の言葉は要らなかった。騎士である為、街の者の為、己の道を知る為。そんなものは全て竜の前では吹き飛んだ。我が名はノルド。ただ竜を挑むものなり。今示すことが出来るのはそれだけだ。ノルドは剣を抜き放ち、一歩前に進み出た。

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