ただの子ノルド
ノルドは父の言う通り旅の準備は始めた。偉大な父の言葉は、生まれて初めて周りの言う道を外れるには十分な手助けだった。父の弟子の幾人かは旅への同行を求めた。しかしノルドはその全てを断り旅に出た。
口さがないものたちはノルドは事実上の絶縁だのと囁いたがそう言われてもやむを得ない状況ではあった。これから一年修行をして無難に騎士として生きるのが賢いのは誰が言うまでもない。旅慣れない息子を旅に出すなど殺したも同然だ。それでもノルドは旅に出た。騎士とは、道とは。その答えを知るために。
ノルドは西に向かった。ノルドの住む領地は王都に近いが西よりで、西の情報が手に入り易かったからだ。西には山脈がそびえたっており、それが何人も通さない国境として機能している。登れば登るほどに寒く、また様々な怪物もいるという。雪纏う巨人、人食い女人、鉄を食らう小人。そして極めつけは竜だ。どれもが危険な噂だというのに、ノルドは迷いなく西へ向かった。
旅はやはりノルドを手こずらせた。飲み水一つでも苦労して、火に至ってはたまたま出会った西に荷を運ぶ商人たちの火を借りた。金属鎧こそ置いてきたが、立派な皮鎧に剣と盾が幸いして護衛として雇われることができた。ノルドたちの使う道は西に向かうものが一番よく使う道で、盗賊怪物の類いは滅多にでない。とはいえ用心するに越したことはないのに違いはなかった。
街についたノルドはまずその大きさに驚いた。幾度か行ったことのある王都にも負けない街並みで、城壁と城に至っては勝っているといってよかった。次に驚いたのは異種族だった。国が規制をしていないとはいえ差別はある。ゆえに異種族の方も近づかないのが常だ。というのにここには少ないながらも確かにいる。連れの商人に聞いてみても、ここが特別そういう気質なのだという。
偉大なる国断ちの山脈ソーディルナム。その麓に我らありとソーディルウルムは大きくなった。その発展は異種族の異様をものともしない民の気質と、持ち込まれた摩訶不思議な物を見事活用してみせた領主。そして何より人間と共にありとした異種族によるものである。




