プロローグ
今、一人の少年、烏丸恭二がヤタガラスというモンスターの群れから逃げていた。ヤタガラスはどう猛で、猟銃を持った男性でも太刀打ちできないほど危険なモンスターだ。
群れになるとなおさらだ。
しかし烏丸は次々と繰り出されるヤタガラスの攻撃を軽々と避け、ヤタガラスの縄張りから脱出した。
そして烏丸は、故郷ドングラに帰ってきた。
烏丸が村に入った途端に歓声が聞こえた。
「ヤタガラスの群れからどうやって逃げたんだい?」
「君の身体能力には毎度驚かされるよ。」
「君はこの村の希望だ!」
そんな歓声に応えながら、烏丸は自宅へと入っていった。
「父さん…」
入ってすぐにある木の椅子に烏丸の父親が座っていた。
何度も継ぎ接ぎされた服に、生気のないような真っ白な顔。
とても生きているようには見えない。
「ほら、いつもの薬だぜ。」
そう言って烏丸は、粉々にしたヤタガラスの羽を渡す。
「ありがとうな。これがとても効くんだよ。」
そう言って父親は薬を飲む。
「父さん、少しは元気になったかい?ヤタガラスが最近どんどん少なくなっている。多分、危険を察知して別の場所に移動しているんだ。このままだとここら辺の森にヤタガラスがいなくなってしまう。」
「恭二、もう父さんのことは心配しなくて良い。自分の命の終わりぐらいわかる。もう長くないじゃろう。あと数日の命じゃろうな。」
「そんなこと言わないでよ。まだ薬はあるんだ。俺がまた取ってくるよ。」
烏丸はそういって、また家を出た。
「今度は少し遠くへ行ってみようかな。」
そう呟きながら、烏丸は村から少し離れた森へ行った。
そこで不運にも、この森の主ブラッディタイガーに会ってしまった。パワーもスピードもある村人が絶対に会ってはいけないモンスターの一つだ。ブラッディタイガーが繰り出す攻撃を間一髪で避けていたが、しだいに避けきれなくなり武器を持っていないこともあり、烏丸は瀕死の状態まで追い込まれた。
「クソ!攻撃する隙も逃げる隙もねぇ。」
烏丸はすでに一歩も動けない状態。
死を覚悟したその時、物凄い衝撃音が聞こえて、ブラッディタイガーが倒れた。
「ブラッディタイガーの攻撃を避け続けるたぁ、村人にしては良いスピードだ。」
烏丸の前に一人の男が立っていた。
歳は二十歳過ぎだろうか。
二メートルはあろうかと言う長身に、鍛えられた筋肉を持ったバケモノのような男だった。烏丸がその男に釘付けになっている時に、ブラッディタイガーが起き上がってきた。そして男に襲いかかった。
だが、男は冷静に次の攻撃を繰り出す。
それは、出どころが見えないような連続パンチ。
あっという間にブラッディタイガーを倒した。
「虎次郎ガトリングとでも名付けけるかな。おお、名前を言い忘れてたな。俺ぁ千田虎次郎ってんだ。お前戦士の素質があるな。今度俺の住んでる街に来てみな。俺が鍛えてやるぜ。グランティスっつう街だ。よろしくな。ほんじゃ。」
そう言って千田は、走ってどこかに行ってしまった。
そして、烏丸は、命からがら帰った。村に入るとなんと、千田がいた。
「なんで…」
「いや、走ってたら村があってな、食料を買い込んでおこうと思ったんだ。すまんがもう行くぜ。」
そう言ってまた風のように走って行った。
「なんだ?あの人は…」
そんなことを言いながら、烏丸は家に入った。
入るとすぐ父親が、真剣な顔で「さっき、戦士がこの村に来たな。」
と行ってきた。「お前もあの戦士のあとを追え。ついでに言っておこう。お前はわしの子じゃない!お前が赤子の頃、わしに助けられたんじゃ。そしてこの村人とは思えない身体能力。分かるか?…」
ここでやっと烏丸は父親の言いたいことを理解した。
「お前は村人じゃない!!」
驚きの余り絶句した。烏丸自身もそうではないかと薄々思っていたことだった。
「さあ行け!わしを構うな!早く!」
その日の夜、烏丸の父は亡くなった。まるで寝ているかのように静かな顔をしていた。
こうして烏丸は追い出されるかたちで家を出て行った。
だが、その背中には確かに覚悟があった。
父の遺産で馬を買い、食料も買い込んだ。
そして烏丸は村から出た。
そう、この物語はここから始まる。