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リメイク 09 怪物の生まれた日

去年の冬、12月頃に桂馬が新たな変化球の習得を提案をしてきた。

それ自体は大吾も意外じゃなかった。ストレートとジャイロの投げ分けは完成したし、桂馬曰くインパクトピッチングとやらはまだ一欠片も形になっていなかった。というより完成するかもわからない。

なら新たな変化球を習得するという考え形は真っ当だろう。

意外に思ったのは球種だ。


「大吾、カーブ投げないか?」

「カーブ?」

「ああ、今大吾の持ち球はストレートとジャイロストレートの2種類だろ。それにカーブを加えて3種類になれば的が絞りづらくなってピッチャー有利になると思わないか?」

「それはわかるけど、なんでカーブなの? スライダーの方が良くない?」

「まあ、今はカーブよりもスライダーの方が主流だしな。ただ大吾にスライダーは危険だ」

「危険?」

「ああ、ストレートとジャイロストレートは同じような投げ方するから投げ分けるのに苦労したろ? そこに更にストレートと似た投げ方をするスライダーを加えると、感覚が混じって全部おしゃかになるかもしれん。だったら握り方や投げ方が全然違うカーブの方がいい。それにいつだったかマウンドが10センチ低くなってカーブの威力が低くなったって話したろ。なら高いリリースポイントで投げられる大吾はカーブを投げるのに向いていると思う」

「なるほど」


そんなやりとりを交わしてカーブを投げ始めたのだがカーブの練習は凄く楽しかった。

フッと力を抜きながらトップスピンをかけるのが物凄くしっくりきたのだ。

ストレートとジャイロが細心の注意を払ってコントロールすることに比べてカーブは勢いのままに投げることができ、大吾はカーブに夢中になった。

カーブに夢中になったのは大吾だけではなく桂馬もだった。


「大吾! お前の指先に神が宿ったぞ!」


物凄いはしゃぎっぷりだった。普段なんにでも理屈をつける男が神ときた。


「あれだ、指先の訓練がカーブにまで影響しているな! もうにわかキャッチーの俺じゃあ捕球すらままならん!」


更に桂馬は続けた。


「このカーブが完成したら神原を超えるピッチャーになるかもしれないな!」

「いや、さすがに無理じゃない? プロ注目の甲子園投手だよ?」

「それだけのカーブだということだ! これを完成させて監督に会いに行くぞ!下剋上だ!」


その後、カーブが完成して監督に会いに行っても相手にはされなかったが、それでもカーブの存在が自信となりプロテストも受ける気になれたのだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


8回に入って藤大吾は手がつけられなくなった。

八代はその原因であるカーブを要求した。


ファンと、跳ね上がって落下したボールがキャッチーミットに収まった。バッターはバットを振る事すら出来なかった。


(そりゃな、ヘルメットの上から落ちてくるボールをいきなり捉えるなんざ無理だろうよ)


そう思う。正直、八代がバッターだったとして1打席や2打席でボールを打てるとは思えない。バッターに絶望を植え付けるかのような球だ。

そして更に、


スパン! と落ちるジャイロストレートがバットの根本に当たりファーストゴロとなった。


カーブがピッチングに加わったことでストレートとジャイロストレートが生きてきた。

バッターは全くタイミングを取れていない。

今なら、最初にカーブを投げなかった理由も少しはわかる。


(次は・・・初球いってみっか)


5番打者に初球カーブから入った。

バッターはバットを振らなかった。あるいは振れなかった。


(カウントとして使える。決め球としても使える。緩急がついてストレートも生きる。便利な球だ)


2球目は外に外したストレートだったがバッターが無理に手を出した。

ボテボテと内野に転がった打球はサードが危なげなく処理した。


(追い込まれてからのカーブを嫌ったか・・)

(さて次はどうすっかな)


八代はリードするのが楽しくなってきた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ったく、フロントの奴らはテメエの無能を棚に上げて文句ばっか、くたばっちまえよ!」


埼玉マウスの監督は怒り浸透だった。

彼が監督に就任して3年たったが1年目と2年目はリーグで3位以内であるAクラス入りを果たしたのだが、今年はトラブル続きでドベ争いだ。

おかげでフロントからの文句が凄い凄い。


「大体、俺が来る前は万年ドベ争いだっただろうが! 助っ人の外人が使えないのだってそもそもテメエらが押したんだろうが! 俺はフィリップがいいつったのに!」


とにかく、今年は投手がパッとしない。ベテランはパワーダウンするし、若手は伸びてこねーし、助っ人は嚙み合わねーし。おまけに守備の要の正捕手が故障ときたらそりゃポロポロ点を取られるけどだからって俺にどないせいつーのかくそったれがボケ死ね!


「とにかくピッチャーだピッチャー! ピッチャー、ピッチャー、ピッチャー! どっかにいいピッチャーはいねえのか⁉︎ そしてフロントは死ね!」


フロントからの延々とした小言を聞かされたストレスを吐き出しながら監督はグランドにやってきた。

近くにいたコーチに話しかけた。


「おう、ちょっとはいいのがいるか? できるならピッチャーで?」


正直期待はしていなかった。だから、


「はい。えらいのがいますよ!」


と、即答されたのはビックリした。

先ほどまで頭の中の大半を占めていたフロントへの文句を瞬時に追い出し真剣な表情でコーチに尋ねた。


「どいつだ?」

「今、マウンドにいるでかいのです。名前は藤大吾18歳です」

「18か、若いな」


そう呟きながらマウンドを見ると確かにピッチャーはでかかった。


「確かにでけえな」

「はい、資料によると2メートル8センチだそうです。体格に恵まれているので先発で起用したのですが今まで一本のヒットも打たれていません。特に前の回から投げ始めたカーブは素晴らしいですよ」

「おいおい、あんまり褒めるといざ実物を見たら肩透かしになりそうで怖いんだがなぁ」

「大丈夫です。それはありえません」

「・・・」


そこまで言うか? と思ったがそこまで言われたら期待せざるを得ない。

そんな期待で胸を膨らませている監督の前でピッチャーは動き始めた。

振りかぶり、カーブを投げた。

それを見た監督は、


「・・・・・・・・・・・・・・・・あいつ、合格な」


長い沈黙の後でそうコーチに言った。



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