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リメイク 08 怪物の生まれた日

「なあ桂馬、本当にこのスピードでいいの?」

「ああ、お前の身長から投げ下ろせば充分な威力になるはずだ。なあなんで左投手は有利だと思う?」

「そりゃ、珍しいからじゃない?」

「その通りだ。じゃあなんでスピードのないアンダースローがプロ野球でも見かけると思う」

「それも珍しいからじゃない?」

「その通りだ。要するにバッティングの基本は成人男性の右投げをいかに効率よく打つかを追求しているんだ。だから、それに当てはまらないピッチャーは一種のアドバンテージがある。それは大吾にも当てはまる。平均より遥かに高いリリースポイントから投げられる大吾の球を打とうとすればそれだけで理想のバッティングが崩れる。それにジャイロストレートを加えれば更に打ちづらい。たとえスピードがなくても十分通用するはずだ」

「わかった」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


藤大吾は6回を終えて未だパーフェクトだった。

とはいえ打者のタイミングはあってきている。

8番打者の打球は三塁間を抜けてもおかしくなかったし9番打者の打球は外野を越えかけた。

それでも芯を食わせないこいつの投球は大したもんだが、それも限界だろう。


(ストレートは枠から外して低めのジャイロで勝負するか)

(ヒットは打たれるだろうが、大きいやつだけは避けねえと)


そんな風に八代が考えていると大吾が声をかけてきた。


「あの、先輩」

「ん? どうした」

「そろそろ、変化球を投げたいんでサイン決めてもらっていいですか?」

「・・・・・・・・・・・は?」


八代の時間が止まった。いや、八代だけじゃない同じベンチにいたコーチなんかも愕然とした表情で大吾を見ている。


(え? つまり、それは・・・)


「・・・お前・・・変化球投げられんの・・・?」

「はい。カーブを」

「ほうカーブか・・いや、いいよなカーブ・・最高だよなカーブ・・・・・・・・・・だったらなんで最初から言わねーんだ!」


八代は爆発した。


「そんな怒鳴らなくても」

「うるせぇ! これが怒鳴らずにいられるか! お前プロテスト受けに来てなんで縛りプレイやってんだよ⁉︎ 馬鹿なのかテメーは⁉︎」

「いや、最初はストレートだけで投げるよう友人から言われてて」

「オメーは友人から言われればなんでも従うのか⁉︎ それはプロになるより大事な事なのか⁉︎」

「はい。大事です」


そこに躊躇いはなかった。


「ああ⁉︎」

「あいつが俺につき合ってくれたから今の俺がある。だからあいつの言葉は俺にとって絶対です」

「・・・・そうかよ」


八代は力が抜けた。


「で? テメーのお友達とやらはなんで変化球を封印させていたんだ?」

「封印というか、最初は二つのストレートの威力を確かめろと言われていました」

「あん、どういう事だ?」

「俺は友人の理論をもとに今のピッチングを作り上げたんですけど、投げる機会がなくて実際に試すのはこれが初めてなんです。だからスピードが無くても俺のストレートは通用するって事を実感しなきゃいけなかったんです。じゃなけりゃ俺はピンチの時にカーブしか投げられないピッチャーに成り下がってしまう」

「つまり・・・・お前はカーブの方が得意な訳?」

「はい」


大吾は自信満々に頷いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(とりあえず、試してみるか)


7回の表、八代は早速カーブのサインを出した。

大吾は頷くと、ストレートと変わらないフォームで動き出し、ボールを投げた。

そして、八代は投げられたボールを目で追えなかった。


(は?)


八代だけじゃない。バッターも完全にボールを見失っていた。あるいは審判すらも。


ヒュン!


一拍置いて頭上からボールが降ってきた。

トップスピンのかかった縦のカーブはストライクゾーンを通り過ぎると地面にバウンドして八代の後ろに転がった。


「ス、ストライク?」


審判が自信なさげにコールした。


(ま、まじかよ・・・)


本日二度目のパスボール。だが全く質が違う。最初のパスボールは大吾を侮っていたことが原因だ。

だが、今のパスボールは違う。こいつならかなりのカーブを投げるんじゃないかと予測して、それに対処する為に集中していたのだ。

にもかかわらずボールに反応できなかった。


(いまのは・・・カーブ・・・なのか?)


2球目もカーブを要求した。


ビュン!


今度は見えた。高い。リリースポイントから更に上に跳ね上がっている。見上げなけりゃボールを追えない。すっぽ抜けたんじゃないかと思えるようなボールはある地点で上昇を止め、そこから急降下してストライクゾーンに飛び込んだ。


パン。


今度はかろうじてキャッチング出来た。

ふー、とため息をつきながら、ふと周囲の異変に気がついた。

みんな静まりかえっている。こいつのカーブに言葉を失っているのだ。その気持ちが八代にはよくわかる。


(こんな・・・こんなカーブが存在していいのか?)


そんな事を思ってしまうくらい常軌を逸した球だ。

八代は二軍とはいえプロ野球の世界に3年いる。これほどのカーブを見たことは一度もない。


(3球目は・・・)


八代はちょっと迷いなからも3球目もカーブを要求した。予感と確信があった。

予感は3球カーブを続けても打たれないということ。

確信はこれからこいつが打たれようが打たれまいがプロテストに受かるであろうことだ。

そして、予感はほどなくして現実となった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜甲子園の解説〜


「おおっと、神原選手6球目もスプリット! バッター三振に倒れました」

「深海鮫野球部、三塁残留でチェンジとなりチャンスを生かせませんでした」

「おしかったですね。ですがまだ点差は1点です。まだまだ勝負はわかりません」

「そして深海鮫野球部の監督が動きました。これは・・・」

「ピッチャー交代ですね、1番の大柳君をファーストに背番号14番小桜君がマウンドに登ります」

「小桜君は左のアンダースローです。右のオーバースローになれた縦浜鱈ナインは戸惑うのではないでしょうか?」







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