リメイク 05 怪物の生まれた日
ピッチャー藤のまま三回が終わろうとしていた。
八代だけでなく、コーチ陣もこの大男に少なからず期待を寄せているのだろう。因みにBチームはすでにピッチャーが二度変わっている。
(実際たいした球だ)
大吾のストレートを見て八代は素直にそう思う。
大吾のストレートはスピードこそないが2メートル8センチの身長と長い腕を最大限に利用してうち下される。そしてスピンがいい。
一言でストレートと言ってもピッチャーによりキレはまちまちだ。それこそプロ野球のトップは別次元のノビを見せる。そしてこいつのストレートはスピードこそ全然足りないがストレートのキレと伸びはトップ連中とほぼ遜色がない。
高さとスピン。二つの要素が落ちてくるのに浮くという形容しづらい球を作っている。
そして、もう一つ・・・。
アウトローぎりぎり一杯に投げられた落ちる球がストライクを奪った。
(このジャイロも曲者なんだよな)
落ちる球でありながら伸びる球、これまでほとんどの打者が振り遅れている。
たぶん、この大男だから威力があるんだと思う。
高いところから投げ下ろしているから角度が付きボールが落ちる。もしこれが身長180センチとかだったら落差のない棒球なはずだ。
(高いリリースポイントといい、自分の身長を生かしまくってんな)
(にしても・・・いくらなんでもおかしいよな)
インハイに投げ込まれたストレートがつまりファーストゴロに終わった。
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三回の裏のベンチにて、八代は大吾に尋ねた。
「なあ、大吾」
「なんですか先輩?」
「これまで違和感はあったんだ。でもさっき確信したんだが・・・」
「だからなんです?」
「お前、実はもっと速いストレート投げられるだろう?」
「・・・」
「・・・」
「・・・スピードだけが良いストレートの条件って訳じゃないと思うんです」
「それは、つまりもっと速い球投げられるってことだよな?」
途中からそんな気はしていたんだが本当にそうだったらしい。
「なんで気がつきました?」
「ストレートのスピードと回転数がおかしい。その筋肉のつき方でそのスピードはおかしい。何より幾ら何でも普通のストレートとジャイロストレートが同じ球速ってのはおかしいだろ? ストレートを抑えていなけりゃこうはならねえだろう?」
135、もしくは140近いスピードが出るのではと八代は疑っている。
「いや、俺の友人の理論なんですけどストレートとジャイロストレートを意図的に同じ球速に合わせることで・・・」
「いやいや、別に怒る訳じゃねーから。お前がそれでいいなら初対面の俺が口を挟むことじゃねーから。ただちょっと興味があるだけだ。で、実のところ最速幾つよ?」
「・・・・・147キロ」
「ふざけんなよテメエ!」
一瞬で沸点を越えた。
「怒らないって言ったじゃないですか⁉︎」
「黙れ! 俺は悪くない! 悪いのはお前だ! 147キロ⁉︎ お前、それだけタッパがあって147出るならそれだけでプロになれるんじゃねーか⁉︎ ああ⁉︎ 一体どんな馬鹿な理由があって20キロもスピード落としてんだよ⁉︎」
「いや、だから俺の友人の理論なんですけど・・・」
「ああ、いい。いい。納得出来る訳はねーから喋るな」
「そうですか・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・で、お前は147キロ出す気はあるのか?」
「ありません。そんな練習はして来なかったです。いきなり投げてもコントロール出来ません」
(しんじらんねー馬鹿だ。しんじらんねー馬鹿がいやがる)
八代は頭を抱えた。
そんな八代に大吾は言う。
「手を抜いて投げている訳じゃあないんです。スピード以外の要素で勝負しているんです」
「うるせぇよ」
八代は反射的に答えた。
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〜甲子園の実況〜
「さあ、三回の裏に試合が動きました。4番の赤坂君がセンター前ヒット! 一点をもぎ取りました!」
「1番のセーフティーに2番のバント、3番の進塁打とまさに皆で奪った一点です」
「さあ、このまま縦浜鱈高校が逃げ切るのか⁉︎ それとも深海鮫の巻き返しがあるのか⁉︎ まったく目が離せません!」
「いやぁ、好勝負ですね」