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28 エピローグ 狂乱のドラフト会議の次の日

  ドラフト会議の翌日、大吾はガラリと変わった周囲の視線に若干の戸惑いを感じながらも、いつも通り授業を終え、校舎の裏の裏の部室に向かった。

 中に入ると既に桂馬がいた。


「よお、有名人」

「おはよう桂馬。……俺、有名人かな?」


 なんせ、昨日まで全くの無名だったのだ。周囲の視線は変わったが、自分の意識がまだ切り替わっていなかった。


「今朝、コンビニでスポーツ新聞をざっと眺めてきたんだが、どれも一面が大吾だったぞ。怪物登場とか、縦浜鱈の巨人とか、前代未聞の決闘騒ぎ……とかな。朝のニュースだって、昨日のドラフト会議やってたしな」

「そぉか……」

「まあ、プロ野球選手は見られてなんぼだろう。今の内に視線に慣れとけ」

「そうだね……頑張るよ」


 会話を続けながらも着替えを終えた。

 そして、練習を始めようかという所で部室のドアが開いた。

 日暮くんかな? そう思ったのだが違った。

 現れたのは神原だった。

 予想外の登場にちょっと驚いた。

 まさか、お礼まいりか? などと一瞬思ったが、さすがに違うだろう。


「どうしたの神原?」


 大吾の質問に神原は簡潔に答えた。


「負けを認めに来た」

「はい?」

「だから負けを認めに来た。昨日の勝負はどちらかが負けを認めるルールだっただろ? 俺はまだ負けましたと言ってない。だから負けを認めに来たんだ。昨日の勝負は俺の完敗だ」

「…………律儀だな、おい」


 桂馬が呆れた様に言った。大吾も同感だ。


「どちらかというと自分自身の為なんだ。監督への言い草は受け入れられないけど……そこだけは譲れないんだけど、でもお前は凄い奴だった。もし、お前がいたら俺は1番じゃなかったかもしれない。それを認めなければ、俺は先へと進めない」

「…………えーと、ありがとう?」


 大吾は戸惑いながらも、そう言った。

 同じ高校で同学年で早くから頭角を現していた神原は、大吾にとっても特別な選手だった。いつか、追いつきたいと思っていた。そんな神原に凄い奴だったと言われたのは、嬉しいは嬉しいのだが、昨日の事もあってなんとも微妙な気持ちだ。

 そんな風に戸惑う大吾に比べ、神原は気持ちの整理をつけた分ストレートだった。


「そしてだ……負けを認めた上で、改めて勝負を挑みたい。今度はプロ野球で、投手として藤大吾と戦いたい」


 その戦意溢れる真っ直ぐな視線で、大吾の意識も切り替わった。

 それは大吾にとっても望むところだ。

 やっぱり神原と競うなら、打者ではなく投手として競うべきだ。


「いいよ。勝負しよう」

「よし!」

「それで、どんな勝負にする?」


 そこで、神原は意表を突かれた様な表情で止まった。


「………………」

「まさか、考えてこなかったの?」

「…………そうだ」


 負けましたと告げる事と、勝負を受けてもらう事に頭が一杯で、その先まで意識していなかったのだ。

 呆れた様な大吾に、神原は慌てて言った。


「こういうのは、俺だけじゃなく二人で決めるべきだろう!」

「……そりゃ、そうだけどさ……」

「むしろ、藤の意見を優先するよ!」

「……いや、いいけどね……」


 若干、呆れつつも大吾は勝負方法を考え始めた。

 大吾の意見を優先してくれるそうだが、だからと言って自身に有利な勝負を持ちかけようとは思わない。出来るだけ公平な勝負がいい。

 まず、真っ先にペナントの順位争いが頭に浮かんだ。けど、それはチームとチームの戦いであって、個人の勝ち負けにはそぐわない気がした。

 なら、個人成績が妥当だが、勝ち星、防御率、奪三振、どれも今一つしっくり来ない。

 そうやって、色々と考えていたら、ふと名案が生まれた。

 抽象的な概念だが、ある意味凄くシンプルだ。


(うん、これでいこう)


 大吾の腹は決まった。


「神原、日本一にしないか? 日本一の投手」

「日本一の投手? …………! それって日本で1番凄い投手になるって事か⁉︎ 日本一になった方が勝ちって事か⁉︎」


 神原はあぜんとした。


「うん、そう。神原がどうかは知らないけど、俺は日本一の投手になりたい。だから、神原と競うなら、どちらか日本一の投手になれるか? それで競いたい」

「……………………」


  大吾の提案を聞いた神原はしばらく固まっていたが、やがて震えだした。そして爆笑した。


「………………はっ、はは……ははははっ! お前、すっげえな⁉︎ あははははっ! いいよ! それで行こう! どっちが先に日本一になれるかで勝負しよう!」


 神原は笑い声を収めて、真剣な顔で藤大吾に宣戦布告した。


「俺は、誰にも負けない日本一の投手になるさ!」

「負ける気はないよ。神原にも、他の誰にも」


 それが始まりだった。

 昨日の決闘騒ぎはただのプロローグ。

 これから日本の野球界を、いや日本全土を揺るがすことになる伝説的存在、『怪物』藤大吾と『至宝』神原直樹、その二人の戦いが始まるのだ。


 宣戦布告を終えた神原は、もう、じっとしてられないとばかりに足早に部室を出ていこうとしたが、ドアに手をかけた所でクルッと振り向き、


「ああ藤、俺たち色々あったが、それでも同じ縦浜鱈だ。だからプロ野球、お互い頑張ろうな!」


 笑顔でそう言うと、今度こそ部室を出て行った。

 嵐が去った後、残された二人は顔を見合わせた。


「なんというか、アレだな……世紀の瞬間に立ち会った気分だ」

「そう?」

「そうだよ! ……それにしても、昨日あれだけやられて、もう立ち直ってやがる。流石というか何というか、超一級品という気がするな」

「そうだね……強敵だ」

「手強いライバルがいて、お前の人生、楽しそうだな大吾?」

「うん。そうかもしれない」


 大吾も、もうじっとしていられなかった。一刻も早くトレーニングを始めようとした所で、再び扉が開いた。


「すいません。日直があって遅れました!」


 遅れてやってきた太陽は、慌てた表情でわたわたと着替えた。

 準備を整えた太陽は張り切って言った。


「よーし! 頑張ります!」

「元気一杯だな、太陽」

「昨日の藤先輩と桂木先輩の投球を見たら、なんかこう、ガーってなっちゃって」


 太陽は二人に宣言した。


「藤先輩! 桂木先輩! 僕、いつか必ず縦浜鱈の一軍になってみせます!」


 それに二人は笑った。


「期待しているぞ、後輩!」

「頑張れ日暮くん。俺もプロ野球頑張るから」

「はい!」


 そして、3人は今日も今日とて校舎の裏の裏で、野球を始めるのだ。


これでドラフト編終了です。見て頂いた方、あまり更新スピードが速くない、自分の話を待っていた方、ありがとうございます。これで一度完結します。

また、プロ編の話を期待している方もいてくださるのですが、続きが自分の中で決まっていません。一応、1年目の大吾の話をあれやこれや考えているですが、まだしっくりと来ないです。

ですのでプロ編が開始するのには時間がかかると思います。期待してくれている方、申し訳ありません。


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