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24 狂乱のドラフト会議

 〜9月のとある日のやりとり〜


「桂木先輩! 僕も藤先輩みたいなカーブを投げたいです!」

「諦めろ太陽。お前には無理だ」

「ええっ⁉︎ バッサリ⁉︎」

「あれは大吾の身長あっての代物だ。高いところから投げ下ろすから強力なんだ。40センチも低い太陽が真似できるもんじゃない」

「でもでも! こう、僕だって指を鍛えれば、ぎゅんぎゅん曲がるんじゃないですか?」

「確かにあいつのスピンのかけ方は異常だ。ボールがリリースされた時、ボールが飛び跳ねるからな。そっからストライクゾーンに落ちてくるんだから更に異常だ。でもそれは指を鍛えたからだけじゃない。あいつには他のピッチャーより、スピンをかけられる余裕があるんだよ。背が高いからな」

「?」

「俺は理屈で物事を考えるのが好きでな、大吾のカーブの異常さもアレコレと考えたんだ。それでだな、テニスなんかでサーブが速い奴は大抵背が高い。遠心力や振り子の理屈だな。野球だって背の高い方が有利だ。まあ、あいつは速い球を投げないんだがな。そして、ここからが俺の考えなんだが。背が高いと速い球を投げやすいということは、遅い球だって、より少ない労力で投げられるということだと思う。そして、その分余力ができる。その余力分、スピンに集中できるんだよあいつは」

「えーと、つまり……難しくてわかりませんでした」

「まあ、本当に正しいのかは俺にもわからんから気にするな。要するに大吾と太陽は全然違う人間だということだ。太陽は自分の良さを伸して、悪いところを補えばいい。まずはフィジカル、ついでコントロールだな。それに、新たな変化球を習得するのもいいかもしれん」

「わかりました。…………あっ! だったら僕もジャイロボールを投げたいです!」

「……ジャイロは絶対に止めとけ。ストレートが死ぬぞ。大吾はそれで山ほど苦労したんだ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 野球の投手と打者の勝ちと負けは意外と曖昧なところがある。

 例えば投手が三振を取ったならば、それは投手の勝ちだろう。

 でも、野球には3回に1回打てれば打者の勝ちという言葉もある。

 2回三振を取られても、3回目に打てれば打者の勝ちだ。

 実際にもしプロ野球で、年間打率3割3分を打てるなら、そいつは首位打者を狙える傑物だ。

 試合の状況も関わってくるだろう。例えどれだけ凡退を繰り返しても、最後に決勝点を入れたのなら、例えそれが犠牲フライであっても打者の勝ちと言う人間はいるだろう。もちろん、逆に投手は負けてないと言う人もいるだろう。

 5打席で4三振、1本塁打。これをどちらの勝ちと見るだろうか?

 とまあ、野球の勝敗と違い、投手と打者の勝敗はその境界が曖昧だ。

 ……。

 ……。

 ただ、7打席で7三振というのは、誰が見ても打者の負けとしか言えないだろう。

 そして、


 バン!


 高い高いリリースポイントから外の低目へと落下した落ちる球が、神原から8個目の三振を奪った。

 その光景を康介は呆然と見ていた。

 言葉が出てこない。言葉にならない。


(こいつ……ここまでかよ⁉︎)


 藤はドラフトに指名された。マウスの監督は神原と同等と評価した。カーブに関しては日本一とまで言ってのけた。だが、康介にはどうにも受け入れられないものがあった。

 それは、藤が三軍だったからだ。三軍行きになるような実力しかなかったからだ。康介が一年の時の藤の印象は薄い。でかいけど大した事ないな、それが全てだ。

 そんなあいつが今、神原を圧倒している。

 最早、別人としか思えない。

 9打席目。初球、インハイへのストレート。それに神原はスイングするが、タイミングが一歩遅かった。ボールがファールゾーンに転がっていく。

 顔を歪める神原。

 わかる。その気持ちが康介には良くわかる。藤を打ち崩すには、まず速くないストレートが狙い目だろう。

 だが、ギリギリまでコントロールされて、思いっきり伸びてくる。おそらく球速以上に打ちづらい。

 次は同じコースに同じストレート、かと一瞬思ったがボールが落ちた。2ストライク。

 多分、神原も康介と同じように迷ったんだろう。それで勝負が決まった。

 3球目も落ちる球(縦スラか?)だった。辛うじてバットに当たるが前に飛ばない。この落ちる球、どうにも伸びるみたいだ。神原はどうしても振り遅れている。

 そして、4球目、カーブ。

 それに康介は魅入ってしまう。神原の応援をしているのに魅入ってしまう。

 藤のカーブは凄まじい曲線を描く。遠目から見てもこの変化。打席に立っている神原からは、どんな変化をしているのか想像もつかない。

 このカーブを打てる気が全くしない。カーブなんて遅い球を、打てないと思う日が来るとは思いもしなかった。

 実際に神原は空振りだった。これまでの8打席と同じように!


(これで……これで9連続三振!)


 神原が9連続三振。その全てをこの目で見ていたが、それでも信じられない気持ちで一杯だ。

 神原はバッティングだって悪くない。少なくとも縦浜鱈では1、2を争う打者だ。今年の夏は5番だったが、仮に4番だったとしても文句は出なかっただろう。

 4番だった康介も、神原に負けてないとは思えても、確実に上回っているとまでは思えないのだ。

 その神原がここまで一方的にやられている。

 今年の3月、『あの時』の桂木の言葉を思い出した。


 “監督、今の大吾は神原より上です! なんなら、そこにいる一軍連中に投げさせて下さい! 1人残らず切って落とせます! 相手にすらならないはずです!”


 その時は不快に思っただけで信じなかった。

 今は否定できない。半ば、力ずくで認めさせられている。


「直くん」


 隣にいた滝崎が呟いた。

 康介が視線を向けると泣きそうな顔をしていた。

 無理もない。それぐらいこっ酷くやられている。


(もう、終わりだろ)


 そう思う。多分、見ている全員が勝敗はついていると思っている。

 でも2人は勝負を続けようとする。いや、負けたと思った方が負けを認めなければならないのだ。なら神原が負けを認めなければ終わらない。


「どうすんだよ、神原?」


 康介は力なく呟いた。







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