19 狂乱のドラフト会議
ドラフト会議。ドラフト会議が始まった。
テレビの向こう側には12のテーブルが用意されていて1球団につき4、5人の人間が座っている。
その奥には大きなパネルが設置されている。テーブルのパソコンに名前を入力すると、このパネルに指名された選手の名前が表示される。もしかしたら康介の名前が表示されるかもしれない。
司会の説明が終わり、12球団による一位指名が始まった。この一位指名だけは早い者勝ちではなく、重複した場合は抽選ということになる。
12球団による一位指名。これがドラフトの最大の目玉だ。この一位指名の発表を、野球ファンのみならず日本中の人間が興味をいだいている。
全ての球団がパソコンへの入力を終えた。
後は1球団ずつ発表される。
一番手は青森コアラ。その一位指名がパネルに映った。
神原直樹 投手 縦浜鱈高校
「「「うおおおおっ!」」」
初っ端からの神原一位指名に体育館が揺れた。
(すげぇ。本当に一位指名だ)
そうなるとは思っていたが、いざテレビに名前が載ると驚きの感情しか出てこない。
その興奮が醒める前に次の球団の一位指名が発表された。
島田悟 外野手 深海鮫高校
「島田だ!」「来たー、島田だ!」「象は島田指名だ!」
かつて、甲子園で矛を交えた相手だ。こいつのせいで俺たちの夏が終わったとはいえ、湧き上がる感情は喜びに近い。凄い奴と甲子園で闘った。素直にそう思える。
そして更に3番手、
島田悟 外野手 深海鮫高校
「うお、2つ目!」「島田凄え!」
更に4番手、埼玉マウス。
神原直樹 投手 縦浜鱈高校
「マウス来たー!」「やっぱりマウスは神原先輩だ!」
息つく間もない驚きの連続。それがドラフト一位指名だ。
・・・。
・・・。
11番手、高知アナコンダ
島田悟 外野手 深海鮫高校
「うわっ! 島田5つ目!」「次がラスト!」
アナコンダの指名で、島田の一位指名数が5つと神原を一歩上回った。そして最後、東京ウォッシュベアー。
神原直樹 投手 縦浜鱈高校
「「「うわああああ!」」」
最後の最後で神原と島田が5球団ずつで並んだ。全12球団の内、10球団を二人で占めたことになる。
記者たちのひそひそ声が聞こえてくる。
「やっぱり、神原くんと島田くんが頭一つ抜けていますね」
「そうだな! いっそ、どちらも指名したいって、球団関係者が泣いていたからな!」
「甲子園での激戦もあって、これからも良きライバルとして日本の野球を盛り上げる予感が凄いですよ!」
「ああ、俺たち記者からしてもありがたいことだ」
(ああ、やっぱり2人共、凄えんだな)
康介が興奮する記者たちを見ながらそんなことを考えていると、当の本人は隣の滝崎と手を繋いでいた。
そして、当たり前だが、パシャパシャと写真を撮られている。
(いや、緊張するのもわかるけど思いっきり撮られてんぞ⁉︎)
別にお忍びカップルという訳ではないのだが、それにしても堂々とし過ぎだ。
9割の呆れと少々の羨ましさを康介は感じた。
テレビの向こう側は重複選手の抽選に入った。
まずは神原からだった。
各球団の監督が並び一人ずつくじを引いていく。
5人全員がくじを引いたところで一斉にくじを開いた。
一人の監督がガッツポーズをした。
東京ウォッシュベアーの監督だ。
残りの監督は残念そうに席に戻っていった。
(そうか、アライグマか・・・近場で良かったな滝崎)
そう康介は思った。