表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リズ  作者: 雪見だいふく
1/1

村長の息子






「ねえ、こっちにおいでよ。一緒に遊ぼう」


声変わりする前の少年の声が私に話し掛ける。


「なんで皆と遊ばないの?」

「放っとけよ。そいつ、魔女の血が流れてるんだから一緒にいたら呪いをかけられるぞ」


ありもしないことを並べる男子に、私は気分が悪くなって森へと駆ける。


「あ、待って!」


少年が呼び止めるが、私は構わず家へと向かった。








十年後―――…


私は17歳になり、立派な淑女に成長した。

色素の薄い金髪と青い瞳をフードに隠すように深く被り、森を出て村へと向かう。

異端のような見目をしているため、村人からは魔女と呼ばれているが、たった一人だけ私の名前で呼ぶ人がいる。


それは―――…


「リズ」


あの頃とは違う落ち着いた低い男性の声が、私を呼んだ。

フードから少し顔を上げると、少し癖のある黒髪に、柔らかい茶色の瞳、リズより頭一つ分高い背丈の青年がこちらを見て微笑んでいた。

村長の次男である彼は、精悍な顔立ちと誰にでも人懐こく優しい性格のため、皆から好かれていた。

それは村から疎まれているリズにも同じ態度で接してくれる。


「…こんにちは」

「こんにちは。今日はお買い物?」

「…はい」


リズの隣にやって来て一緒に歩きながら、彼は色んな質問をしてきた。

昨日は何して過ごしたのとか、何を食べたのかとか聞いてくるが、リズは目を合わさないで当たり障りの無い返答をする。


「リズ、僕を見てよ」

「……嫌です」


このお願いも5年程前から繰り返されているが、一向に変わらない。

彼はリズの容姿を気にしておらず、むしろもっと見たいと言ってくる。

そうしてこのお願いをされた次は……、彼が屈んでリズの顔を仰ぎ見る。


「リズは可愛いね」

「ありがとうございます」


リズは努めて自然に返したが、いまだに何度も言われているこの言葉には内心動揺する。


(本気じゃないくせに…)


リズはぐっと言いたいのを堪えて、前を向いて歩き進める。

すると、彼は歩みを止めた。

リズは振り返ると、彼は真っ直ぐにリズを見ていた。


「ねえ、リズ。僕は本心しか言葉に出さないよ。今言ったのも本心だ」


いつも柔らかい雰囲気の彼が、珍しく真顔で訴えている。

リズは思わず、彼を見つめた。

彼の柔らかい茶色の瞳が揺れていた。


「っ…、だとしても私にはどうでもいいことです」


リズはこの空気に耐えられなくなり、再び目をそらして足を進めようとした時、彼が回り込んできてリズの行く先を阻む。


「どうして僕の言葉を信じようとしないの?」


近くなった距離にリズは動揺を隠せない。

何故今日はこんなに食い込んでくるのか。


「そんなこと言われても、信じられないからです。もういいでしょう?買い出しに……」


リズは彼の横を通り抜けようとしたが、彼はリズの腕を掴んだ。

ドクッと胸が高鳴り動けないでいると、彼はリズの両腕を掴んで目を合わせてくる。


「リズ、僕ももう限界なんだ。君に避けられるのは終わりにしたいんだ」


切実な目で訴えてくる彼に、リズは目をそらせなかった。


「僕は…、リズが好きだ。もうずっと…。君と夫婦(めおと)になりたい」


リズは一瞬何を言われているのか理解できなかった。

ただ彼の揺れている瞳からは、本気なのだと分かっていた。

リズは何故か、ぽろっと涙を溢す。

彼はぎょっとした顔をした。


「り、リズ。ごめん、そんな泣かせるようなことを言ったつもりじゃ……。ごめん、嫌だった?」


おろおろする彼がおかしくて、リズは泣き笑いをする。

彼は目を見開いて、リズを見つめた。


「違います。そんなことを言われるとは思っていなくて」

「リズ…」


ポロポロ溢れる涙を、彼がゆっくり優しく、指で掬い取る。


「これは…、どういう涙なのか聞いてもいい?」


リズは返事をする代わりに、彼に抱き着いた。

彼はリズの行動に驚きを隠せない様子で、抱き締め返そうとしても出来ないようだった。


「私は皆に嫌われています」

「…そんなことないよ」

「私は皆と容姿が違います」

「君はきれいだよ」

「……私は……」

「…うん」


リズが彼を抱き締める力を込めれば、彼もリズを抱き締め返す。


「私は、あなたが好きです」


震える声で言うと、彼の抱き締める力が一層込められた。


「リズ……。っリズ……」


彼はリズの名前を何度も呼ぶ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ