リア充爆ぜろ!!
目が覚めると、そこはまさに天国だった。
俺は顔の両側を、何故か枕とは違うフカフカで暖かなモノに挟まれていた。
え?何で?
この状況は何なんだ?!
俺は意味が分からなかった。
何故なら、どう言うわけか俺は両側から、キラリと焰華に抱きかかえられる形で、二人の胸に挟まれて目を覚ましたのである。
お陰で身動きが取れない状態だ。
俺は昨夜のことを思い返してみた。
昨夜は確か、ある程度の方針が決まった俺は、流石に疲れもあってそろそろ休もうかと思い、皆を戻そうとした。
けれど、テンが「もう少しだけ起きてちゃダメ?」なんて可愛らしくお願いしてきたもんだから、あまり騒がないでなるべく早く戻るのを条件に、俺はそれを許可して先に休ませてもらうことにしたのだ。
それが朝起きてみたらこの状態である。
マジで分かりません!!
俺がどうやってここから脱出するか悩んでいると、キラリの瞼が僅かに揺れた。
「う……ん…………あれ~?マスター?」
「あ、起きた?キラリ……」
目を覚ましたキラリを見て、やっとここから解放されると胸を撫で下ろしたのも束の間。
「おはよ。マスター」
「むぐっ!!!!」
甘かった…………。
俺が右を向いた瞬間に、キラリが俺の頭を包んで引き寄せると、俺の顔がすっぽりとキラリの谷間に埋もれてしまったのだ。
その突然な行動に、俺は目を白黒させながら、必死でキラリを引き剥がそうとするが、非力な俺ではキラリの力に適うはずもなく…………俺は諦めるしかなかった。
俺達がそんなことをしていると、頭上からも声が降ってきた。
「狡いですよ?キラリ。私にも代わって下さい」
「…………へ?」
俺が反応するよりも速く、まるで選手交代と言わんばかりに、今度は後ろに無理矢理振り向かせられたかと思うと、またもや谷間に埋まるハメとなる。
「ふがっ!!!!」
「ふふ。お早う御座います。マスター」
俺は必死に焰華を引き剥がそうとするが、これまたやはり無理そうだったので、諦めてしまう情けない俺。
世の男共が見たら、リア充爆発しろ!!と言われてもおかしくない状況だろう。
寧ろ逆の立場なら俺も確実に思う。
こんなオイシイ状況、昨日までの俺なら、想像もしていなかったことだ。
頑張って理性を保とうとするが、いつまで持つか分からない。
DT舐めるなよ!!
頼むから!!早く解放してくれ!!
俺が切にそんなことを願っていると、何やら下の方がモゾモゾと動き出す。
すると、掛け布団の隙間から、陸の顔がニョッキりと現れた。
「…………おはよ。マスター」
続いて、テンの顔も現れる。
「お早う!マスター!ねえねえ!これなーに?」
お前達まで居たのかよ、と言うツッコミを入れたかったが、俺はテンの指差した方を見て、サーっと血の気が引いたのを感じた。
「あら~?」
「まあ……」
「………………」
それに気付いた焰華が、漸く俺を解放してくれたが、俺は今はそれどころではない。
俺の下半身の息子が、それはもうこれでもかと言うくらいに自己主張激しく、元気に起き上がっていたのだ。
掛け布団の上からも分かるくらいに……。
焰華とキラリはジッと俺の下半身を凝視して、テンは小首を傾げていた。
陸に至っては、顔を真っ赤にしてそっぽを向かれる始末である。
「こ、これは違うから!!これは……その……男としてどうしようもないと言うか……」
俺はしどろもどろになりながら、何とか弁明しようとする。
冷や汗が止まらなかった。
穴があったら入りたい気持ちで一杯だった。
「んー……もしかして病気?それなら焰華に治してもらった方がいいよ?」
テンが無邪気にそう言いながら、モゾモゾと再び布団の中に潜ろうとするので、俺は慌ててテンを布団から引き摺り出す。
「こ、こら!止めなさい!!」
「ふふ。私は別に構いませんよ?マスターがお望みでしたら……」
「あら?それなら、その時は私も手伝ってあげるわね?」
俺がテンと格闘していると、焰華は僅かに頬を染めて、キラリは妖艶な笑みを浮かべて、そんな危険な発言をしてくるのだった。
俺は羞恥心も相俟って、とうとう堪忍袋の緒が切れる。
「だーーー!!全員兎に角!すぐに!布団から出なさーーーーい!!」
朝から俺の絶叫が四葉亭に響き渡るのだった。
俺達は今、再び冒険者ギルドの前に来ていた。
朝っぱらから騒いでしまったことを、四葉亭の主人達に詫びて、それから焰華達が従魔であることを説明した。
最初は信じて貰えなかったが、実際に目の前で戻したり召喚して見せたら、一様にポカンと口を開けていた。
こんな召喚士は初めて見たと酷く驚いていたが、何とか受け入れて貰えることに成功したのだった。
ただし、今後は他の客の迷惑にならないようにと、当たり前の忠告をされてしまったが……。
また一つ分かったことと言えば、どうやら焰華達も、普通の人間のように当然ながら飲み食いが出来るようだった。
これまた嬉しいことである。
これなら、これから一人で寂しく食事しなくてもよさそうだ。
俺はもういっそのこと、四人をこのままにしておいても良いかとさえ思えてくる。
まあ、時と場合にもよるだろうけど……。
俺は冒険者ギルドの扉を押し開けて中に入った。
一瞬ギルド内がざわついたが、すぐに水を打ったように静かになる。
冒険者達は、誰も俺と目を合わせようとはしなかった。
昨日の今日だから仕方ないのかもしれないと思い、俺は特に気にもせずに受け付けへと足を進める。
「あ、ユ……」
「アスカさん?!少々お待ち下さい!!」
「は?」
俺がユノを見つけて声を掛けようとするが、ユノは勢いよく立ち上がってそれだけを言うと、慌ただしく二階に駆け上がって行ってしまった。
「……何でしょう?」
「さあ?」
あまりに突然の行動に、俺達はなす術なく首を傾げる他なかった。
すると、程なくしてユノが戻ってくる。
「おい。これはいったいどう言う……」
「すみません。お待たせ致しました。ギルドマスターがお会いしたいとのことで、一緒に来て頂けますでしょうか?」
「はあ?!」
俺がユノに説明を求めようとすると、ユノがいきなりギルマスに会えと言う。
もう訳が分からなかった。
「何で急に…………」
「詳しいことはギルドマスターからお聞き下さい」
普通、昨日冒険者になったばかりの奴に、いきなりギルマス自ら会いたいと言ってくる筈もない。
もしかして、昨日の騒ぎの件のことでかと思ったが、いくらユノに聞いても、ただギルマスから話を聞けの一点張りで取り付く島もない。
俺は仕方無しに腹を括ることにして、ギルマスに会うことにした。
焰華達も同伴と言うことだったので、俺達は揃って二階に上がる。
執務室と書かれた部屋の前まで来ると、ユノが扉を二回ノックする。
すると、すぐに返事が返って来た。
「どうぞ」
ユノが扉を開け、俺達に入室を促す。
こうして俺達は、訳も分からないまま、突然ギルマスと対することとなったのだった。