俺の愛しい従魔達
俺は、冒険者ギルドで無事に登録を済ますと、ユノに紹介して貰った【四葉亭】と言う宿に一つ部屋を取ることにした。
料理も美味いと言う話だったので、暫くはここを拠点として活動するつもりだ。
「ふう~…………さて、やるか!」
俺は緊張と期待で高鳴る鼓動を抑えながら、一度大きく息を吐き出すと、壁際に寄り両手を床に翳す。
「……〈召喚〉焰華、【テン】、【陸】、【キラリ】」
すると、床に魔法陣が描かれたかと思うと、そこから俺の呼び掛けに応じて、四体の俺の従魔達が人型として現出した。
テンは、身長百二十センチメートルくらいで髪は緑色にショートヘアー、額に大きな丸い宝石を嵌め込んであるのが特徴的な、可愛い女の子の【カーバンクル】と言う魔獣だ。
魔獣の姿だった頃に、俺がその愛くるしさにやられて、苦戦しながらも最初にテイムした従魔だった。
陸は、テンと同じくらいの身長で、黒髪に地面スレスレまであるロングヘアーの、これまた可愛い女の子で、【ベヒモス】の魔獣。
キラリは、身長は百七十センチメートルほどあり、少しウェーブがかかった金髪に、顔の横には鬼のようなお面を下げ、民族衣装のような服を着て、腰には鏡の破片で作られたようなベルト?が巻かれている【バロン】と言う魔獣である。
俺は自然と生唾を飲み込む。
心臓が煩いくらいに鳴っていた。
何かを話さなければいけないと分かっていても、喉がカラカラで中々言葉が出てきてくれなかった。
四人も、ただジッと俺を見詰めてくるだけだ。
すると、テンが唐突に床を蹴ると俺の足に飛び付いて来た。
「っ?!」
俺はつい体を強ばらせる。
テンは、俺の足にしがみついたままで、俺を見上げて口を開く。
「マスター!」
「はぅあ!!」
その顔はまさに反則である。
テンは、はにゃんと顔を崩して、天使のような愛くるしさで俺を見てきたのだ。
そんな顔をされて、平静でいられる男はいない。
すると、いつの間に近付いてきていたのか、今度は陸が俺の服の裾を掴んで、俺を見上げての第一声が、
「……マスター」
「ふぐっ!!」
これまた可愛過ぎる。
テンみたいに表情が変わるわけではなかったが、テンとはまた違った愛くるしさがあり、、俺の心を鷲掴みにしする。
最早、鼻血を噴き出す寸前であった。
俺は決して変態ではない!
犯罪的に可愛過ぎる二人が悪いのだ!!
俺は、誰に弁明するでなく、心の中で自分に言い訳をする。
俺はもう辛抱たまらずに、二人にガバリと抱きついてしまった。
「テン!陸!」
傍から見たら、間違いなく勘違いされそうな行動だったが、二人は特に嫌がる素振りもせずに、俺のされるがままに身を委ねてくいた。
寧ろ、喜んでるように感じたのは、きっと俺の気のせいではない筈だ。
「あらあら。羨ましいわね~」
俺達がそんな事をしていると、キラリが頬に手を当てて「ほう」と言う色っぽい溜め息を吐きながら、俺達を羨ましそうに見ていた。
正直な気持ち、俺としても焰華とキラリに抱きつきたい衝動はあったが、流石にそれはマズイ気がしたのだ。
焰華とキラリは、テンと陸とは対照的に、大人の色香があった。
いくら従魔とは言え、俺も一人の男だ。
速攻理性を持っていかれそうで、危うさがあったのだった。
「キラリも……久しぶり?でいいのかな?焰華はさっきあったばかりだけど、さっきは本当に助かったよ。ありがとう」
「ふふ。マスターの望みを叶えるのが、私達従魔の役目ですから」
焰華が優雅に微笑む。
俺はそんな焰華に笑い返すと、少々寂しくはあったが、テンと陸を離して椅子に腰掛けた。
皆にも座るように促すと、皆はベッドの上に腰を下ろす。
「まさか、こうして皆と話が出来るようになるとは思わなかった」
「ええ。私達もよ」
俺は感慨深く言う。
キラリの言葉に、他の三人も頷く。
けれど、次に俺は真面目な顔付きになり、四人に聞いてみた。
「……教えて欲しいんだ。皆のこと……それにこの世界のことを」
「…………申し訳ありません。私達も良く分からないのです。気付いた時には、この姿で話すことも出来て……マスターのこともちゃんと記憶にあるのですが……こちらの世界のことは私達も最低限の知識はありますが、おそらくマスターにお話出来ることは何も…………」
焰華が心底申し訳なさそうに肩を落として謝ってくる。
「あ!いや!別に分からないならいいんだ!!だからそんな落ち込むなよ!!な?」
それに俺の方が慌ててしまい、すぐに焰華を慰めるように言うと、漸く焰華の顔に笑顔が戻ってホッとする。
「まあ、分からないなら調べればいいだけの話だよな?まずやるべきことは、この始まりの街には、確か図書館があったはずだ。ここでどれだけ調べ物が出来るかは分からないが、調べれるだけ調べてみよう」
皆が俺の話を真剣に聞いてくれていた。
「次に、身分証を手に入れる為に冒険者になったはいいが、思いの外規則がしっかりしてて、面倒そうだ。特に、Cランクまでは多分自由があまりないだろう。だから、さっさとBランクまで登り詰める必要がある」
「そんな簡単に出来そうなの?」
キラリの最もな質問に、俺は軽く首を振る。
「普通なら無理だろうな。このパンフレットに書かれている、それぞれのランクの規定Ptはそれなりに高い」
「ならどうやって……」
「裏技を使う」
俺はニヤリと笑う。
「……裏技?」
テンがこてんと小首を傾げる。
「ああ。と言っても、実際に出来るかどうかは、明日ギルドに行って直接聞いてみないと分からんが……もしそれが出来るなら、皆にも手伝って貰うことになるが構わないか?」
俺が確認するように四人をざっと見回すと、真っ先にテンが元気よく手を挙げて、飛び跳ねながら嬉しそうに返事をしてくれた。
「はいはい!ボクお手伝いする!」
「ふふ。もちろん、喜んでお手伝いさせて頂きます」
「ええ。何をするかは分からないけど、マスターの頼みなら断る理由も無いわよね?」
「……ん。頑張る」
皆が頼もしく、それぞれ思いに答えてくれる。
俺は、そんな皆を見て、胸の中に温かなものが広がるのを感じた。
俺が召喚士を選んだ理由は、とても単純なものだった。
剣士にしろ魔導士にしろ、その他の職業だろうと基本パーティーが鉄則だろう。
ソロでやるにしても、最初は良くてもいずれ何処かで行き詰まる。
それはそれで、別の楽しみ方もあるかもしれないが、俺はちゃんと冒険を楽しみたかったのだ。
せめてゲームの中では、周りの目も気にすることなく自由に、そして強くありたかった。
そんな願望も多少はあったかもしれない。
けれど、パーティーが必然になりそうな職業を選ぶと、人付き合いが苦手な俺は、必ず孤立するような気がした。
それは、俺の被害妄想なのだと思う。
それでも、ゲームの中でもそんな事態にはどうしてもなりたくなかった。
そこで目に止まったのが【召喚士】だったのだ。
職業ランキングを見てみても、不人気であることは間違いなかった。
コメントには、「ステータス低過ぎ!」とか「雑魚職」だとか、「従魔に戦わせて自分は戦わないなんてチキンすぎだろ!!」などなど……皆が好き放題召喚士を扱き下ろしていた。
それがまるで、俺自身を罵られてるような気がしてならなかった。
それに、召喚士ならもしかしてパーティーとかクソ面倒臭いことをしなくても済むのではないかと思ったのだ。
だから俺は、迷わずに召喚士を選択したのだった。
皆が言うように、確かに召喚士はめちゃくちゃ弱かった。
どれだけ雑魚モンスターを倒しても、中々思うようにレベルは上がらないし何回も死ぬし……従魔を手に入れるなど夢のまた夢のような気がして、何度もジョブチェンジして諦めようかとも思ったが、俺は結局そうしなかった。
もしかしたら、半ば意固地になっていたのかもしれない。
そうして、頑張って漸くテンを手に入れた時は、本当に死ぬ程嬉しかったのを覚えている。
ゲームの中では会話することは無かったが、それでも俺が話し掛けたり撫でてやると、可愛らしく鳴いてくれるのが堪らなく愛おしくて仕方がなかった。
それから、順調とは行かずとも、二人で力を合わせて焰華をゲットし、続いてキラリ、陸をゲットしていった。
今思うと、本当にあそこで諦めなくて良かったと心から思う。
確かに、決して楽な道のりではなかったけれど、諦めなかったからこそ、今こうして皆と会話が出来るのだから。
過去を思い返し、目尻が熱くなるのを感じた俺は、咄嗟に皆から視線を外すと、慌てて話を続けた。
「そ、それから!新しい従魔も見つけてみたいんだ」
俺がそう言うと、テンが何故か悲しそうな顔をして聞いてきた。
「……それは、ボク達はもういらないってこと?」
「…………は?」
何故そうなるのか分からず、俺は目が点になる。
他の面々の顔を見てみると、テンと同じ気持ちなのか、暗い顔をしていた。
俺は大いに焦り、慌ててそれを否定する。
「ち!違う違う!!そんなわけないだろ?!」
「…………ほんと?」
陸が上目遣いで聞くので、俺は首が取れんばかりに縦に大きく振った。
俺のそれを見て、皆は心底ホッとした顔になる。
ああ!!今すぐ抱き締めたい!!
と内心思ったのは内緒だ。
俺は一つ咳払いをすると、改めて皆の目を見ながら話すことにした。
「俺が新しく従魔を手に入れたいのは、【従魔枠】が増えていたこともあるからだ」
召喚士になりたての頃は、従魔は一体までしか持つことは許されない。
そして、一定のレベルが上がる毎に二体・三体……そしてMAXで四体までが、ゲーム時の俺の限界だったのだ。
けれど、アカシックレコードを入手した俺は、その制限はもうない。
どうやら、無制限に従魔を持つことが出来るようなのだ。
当然、そこまで際限なく従魔を手にするつもりはないが、今後のことを考えて、ある程度の保険は必要だろう。
「それに、魔王を本当に倒すにしろそうでないにしろ、今のままでは多分駄目な気がする。さっきの冒険者達は弱かったが、それがこの世界の平均だとは思わない…………つか、思いたくないし、まだ魔物達の力量も未知数だからな」
テンは、分かってるのか分かってないのか、頻りに「うんうん」と頷いていた。
俺はその可愛さに、また顔が緩みそうになるのを必死で我慢した。
「あ、あとは……他にも試してみたいこともあるからな!」
「試したいこと……ですか?」
「うん。まあ、それはその時に、な」
俺はそこら辺は少し濁してみた。
これからどうなるか分からないが、最初こそ多少不安はあったけど、これ程心強い仲間が居るのだから、後は楽しむだけだと、これからの異世界ライフに思いを馳せるのだった。
こうして、今後の大まかな方針を決めると、漸く俺の長い一日が幕を閉じたのである。