序章②
俺は、何故か真っ白な空間に立っていた。
「ここ……何処だ?俺は確か……」
俺は先程までの記憶を手繰り寄せる。
魔王城で魔王と対峙した俺は、三日三晩の死闘の末、何とか魔王討伐に成功した。
すると、倒れた魔王が急に光りだしたかと思うと、そこに水晶玉のような球体が現出する。
俺はそれがアカシックレコードかと思い触れてみるが、触れた瞬間にまたもや眩い光に包まれ…………そして、この空間に居たと言うわけだ。
「……これはどう言う事なんだろうな?」
俺は訳が分からず、一人首を傾げる。
だが、誰も居ないと思った空間に、何処からともなく声が響き渡った。
「やあ!魔王討伐おめでとう!」
「っ?!」
俺は咄嗟に後ろを振り返る。
そこには、白髪でひょろっとした見知らぬ男が立っていた。
「…………誰だ?あんた」
俺は身構えると男を睥睨した。
けれど、男はそんな俺に対して軽薄そうな笑みを浮かべ、まるで友人に話すように語りかけて来たのだ。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ。……来栖飛鳥くん?」
「?!何で…………俺の名前」
「ふふふ。それは勿論知ってるよ。何せ僕は神様だからね!」
「かみ……さま……?」
男は事も無げにそんな事を言い出す。
これはもしかしたら、隠れイベントなのかもしれないと思った。
けれど、そんな俺の考えをまるで読んだかのように、男はそれを否定する。
「あ!因みに言っとくけど、これはゲームの続きでも何でもないから」
「は?それはどう言う意味だ?」
更に意味が分からない。
これがゲームでなくて、何だと言うのだろうか。
「んじゃ、説明させてもらうね?あ、立ち話もなんだから、まあ、取り敢えず座ってよ」
何処から出したのか、真っ白な空間に突如ちゃぶ台と座布団が現れる。
今時ちゃぶ台って…………。
と思ったが、俺は言われるがままにその座布団の上に腰を下ろす。
男は俺が座るのを確認すると、一つ咳払いをしてから勿体ぶるように話し出した。
「んとね、まずは君がプレイしていた【アカシックレコードオンライン】だけど、あれは僕が作った物なんだよ」
「………………は?」
いきなり突拍子も無い事を言い出す自称神の男。
「あはは。最初は皆驚くよね~?」
「……皆と言う事は、他にもここに来た事があると言う事か?」
「……へえー、やっぱり頭は悪くないみたいだね」
自称神は目を細めて、まるで俺を値踏みするように見てきた。
俺はそれに無意識に嫌悪を抱き、ついと目線を逸らす。
「ふふ。君の言う通り、今迄ここを通過していったのは…………確か十二人だったかな?」
「十二人か……」
それだけで、大体の推測は出来る。
「聡い君ならもう気付いてると思うけどね、魔王に戦いを挑んだ人数だよ?」
「……やっぱりか」
「うん!ただし、実は本当に魔王に勝っちゃたりしたのは君が初めてなんだよ?!凄いよね?!」
自称神は、大仰に両手を広げて、楽しそうに告げる。
「………………」
「あ、あれ?嬉しくないの?」
「……別に。それで話の続きは?」
「むむ~……意外とクールなんだね?まあ、いいけど……」
自称神は、少し不貞腐れながらも話を続ける。
「で、実はゲームの世界は異世界として実際に存在している。そして、当然魔王も存在するわけなんだけど……困った事に、その魔王が異常に強くてね~」
「神様とやらでも勝てないのか?」
「んにゃ?勝てるよ?」
自称神はあっけらかんと言う。
「は?勝てるなら……」
「けど、僕達神様は、基本地上のいざこざには手出し出来ないんだよ。出来る事と言えば、それとなく加護や恩恵を与えてあげる事くらいかな?」
「……ああ、なるほど」
それには俺も納得する。
神様が何でもかんでも解決してしまう世界など、つまらない以外の何物でもないだろう。
そんな世界があれば、人は成長なんかせずに滅びるに違いない。
俺自身も過去に色々あって神頼みをした事はあるが、結局は自分でどうにかするものだと割り切ってもいた。
「……うん。やっぱり君は、物分りがいいね」
「…………それはどうも」
褒められてる筈なのに、何故かそんな気になれないのは、俺がまだこの自称神を信じきれてないせいかもしれない。
「んで、話を戻すけど、あの世界の子達では、どうも魔王を殺せなさそうだから、こっちの世界の子を送ってあげようって事になってね?でも、ただ送るだけじゃ、無駄死にさせる可能性もあるじゃない?だ・か・ら!ゲームを作ってみました!!」
パンパカパーン♪
何処からか、ファンファーレのような音楽が鳴り響く。
「………………」
「あ……やめて……そんな目で見ないで……」
俺が白けた視線を向けると、何故か自称神が顔を赤らめる。
こいつと居ると疲れる…………。
「はあ~……で?要するに、その世界に行って実際に魔王を討伐して来いって?」
「ご明察!!」
自称神は親指を立てて、俺に満面の笑みを向ける。
「……それに拒否権は?」
「んー……別に構わないけど、そうすれば、君にはここで起きた事、話した事の全ての記憶をデリートさせてもらうし…………何より、このゲームは二度とプレイ出来なくなるよ?」
ピクリーー。
俺の眉が上がる。
「…………何だ?それ……いくら何でも横暴じゃないのか?」
「気持ちは分かるけどさ、元々僕の目的はこちらの子をあちらに送る為にゲームを制作したわけだし、折角魔王を初討伐してくれた有能な子が見つかったのに、その子を態々手放さなくちゃいけないわけだし……それぐらい当然じゃない?」
「………………」
こいつの言ってることも一理ある。
何よりこいつが制作者であり、目的の為の手段としてゲームを作ったわけだから、それを拒否すると言うことは、ゲーム事態を否定すると同義と言うわけだ。
俺は暫く思案してから口を開く。
「幾つか質問がある」
「ん?いいよ~。何でも聞いて?」
そうして俺は、この胡散臭い神様から幾つか質問して聞き出すと、異世界【イザスト】へ行く事を決意するのだった。
「それでは、良い異世界ライフを♪」
自称神がそう言うと、俺の足元が突如眩く光りだし、俺の意識が徐々に薄れていく。
その薄れゆく意識の中、俺の視界には自称神が妖しく笑っているのが見えた。
「…………君が無事魔王を倒せることを心から願ってるよ?」
こうして、俺こと【来栖飛鳥】は、地球と言う世界から忽然と姿を消すこととなったのだった。