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野良猫と櫻

「猫実ーっ! 遅ーいっ!」

「おにーちゃん! 成海さん来たよーっ!」

 玄関からそれぞれ違う意味で騒がしい声が響く。

 須河家の朝は今日も騒がしい。

「鳴海っ! お前はさっさと自分の準備をしろ!」

 猫実は自分の準備をほっぽりだして猫子とガールズトークに耽っている鳴海を無理やり引き戻した。

「わりぃ猫子! ちょっと待て」

「1分経つ毎にジュース一本!」

「鬼かよ!?」

 宗吾との一件から一週間。

 猫子と猫実は一緒に学校に行っている。

 幸い相手が猫実という事で噂にはなっていない。

 それはそれで好都合だが……。

 逆を返せば万人一致で俺に彼女は出来ないと思われてるって事なんだよなぁ。

 猫実は虚しくて長い嘆息を吐いた。

「お兄ちゃん、 準備できたよ」

「んえっ! じゃあ行くか」

「うんっ!」

 二人は揃ってドタバタと玄関に向かった。

「悪い猫子! 待たせたな」

「ジュース7本」

「お前……ちゃんと計ってたのかよ」


 朝の喧騒な学校の廊下。

「なんで私がたちわるいのよ!?」

「だから何度も言ってるだろ? 流石にまじでジュース奢らせるかよ! しかも全部コンポタってセンスイカれてるだろ!」

 そんな騒がしさにも負けない程の怒声が飛び交う。

「あんたが遅いのが悪い!」

「それがたちわるいんだよ……」

 この一週間で猫実の朝に大きな変化が生じた。

 それは朝からめちゃくちゃカロリーを消費するようになったことだ。

 実際今朝もこんな感じでいつの間にか痴話喧嘩が始まっていた。

「あぁほら! 教室ついたぞ」

 猫実は子供のように喚く猫子を無理やり黙らせると教室の戸を開けた。

「須河 猫実……!」

「んぇっ!? はい……?」

 いつの間にか目の前に女子生徒が怖い顔で立っていた。

「櫻子……?」

 猫子も何がなんだかわからないのかキョトンとしている。

 そんな中、 櫻子は猫実の腕を鷲掴むと、

「ちょっと、 来て!」

「え、 おい!」

 そのまま力づくで引っ張っていった。

 結局最後まで訳がわからなかった猫子はただただ立ち尽くすしか無い。

「え、 告白……?」

 しまいにはそんなあり得ない予測すら脳内を駆け巡った。


 櫻子は猫実を女子更衣室に連れ込んだ。

 ここには窓がなく蛍光灯の光しかないので何だか不気味で寂しい。

 櫻子は混乱している猫実を壁に取り付けられたロッカーに放り投げると勢い良く壁に手を突いた。

 ドンッという大きな音が鳴り響く。

 のわっ! 壁ドン……。

 こいつ何でこんな怖い顔してんだよ。

「あ、 あのぅ? 何でしょう」

「…………」

 あ、 シカトですか。

 櫻子はなぜか猫実の顔をマジマジと見ている。

 いや、 観察している。

 え、 告白……?

「あのぅ? 顔近くないすか?」

「え……?」

「だから、 顔」

 猫実の言葉に櫻子の顔が突然赤くなった。

 しかたなく猫実が櫻子をどかそうと肩に手をかけると、

「キャッ!」

 短い悲鳴と共に鮮烈な平手が飛んできた。

 その痛みに猫実はその場で悶える。

「痛ってぇーっ! 何すんだよ」

「だっていきなり触るから!」

 櫻子はいつの間にか距離を取っている。

「それはお前が邪魔だったからだろ!」

「邪魔ってあんたねぇ?」

「んだよ、 つか何でこんな所に……」

 そういやそうだよ俺何でここにいるんだよ。

 つかここ女子更衣室だよな。

「な、なぁ。 この時間ってここ人来るのか?」

「たまに来るわよ」

「はぁ!? ふざけんな、 見つかったらどうすんだ!」

「大丈夫、 私が襲われてたって事にするから」

「なおさらダメだろ!」

 でも実際そうなったら言い訳が効かない。

「もういい、 俺は戻るぞ!」

「待って! 話があるの」

「あぁ? 告白ならお断りだぞ」

「何でそうなるの! つか勝手にふらないで!」

「はぁ、 じゃあ何だよ?」

「猫子の事よ……」

 櫻子の声音が突然落ちた。

 その声音から今からする話が大切な物だと猫実は何となく感じ取った。

「猫子とはもう関わらないで」

「どうして?」

「貴方じゃ彼女は支えられない」

 支えられない?

 どういう事だ。

 友達になるだけだぞ、 別にそんな大それた事じゃ……。

「貴方はまだ猫子の心の闇をしらない」

「あいつの闇?」

「そう、 そしてそれを理解して守る気概も勇気もない。 だから猫子から離れて」

 何を言ってるんだよこいつ。

 闇ってなんだよ、 ちゃんと説明しろよ。

 でも猫子がそれを話してくれなかったって事はやっぱり俺を信用してないって事なのかな……。

「わかった?」

 へっ、 こいつ澄ましやがって。

 離れろか……。

 生憎、 それは

「わからねぇ……」

「は!? 貴方、 話聞いてた?」

「あぁ、 ちゃんと聞いたさ」

 その上で出した答えだ。

 あいつが俺の事信用してるかなんて知らねぇ。

 俺はあいつを信じると決めた。

 だから、 離れる訳にはいかない!

「お前には悪いがそれは聞けない」

「どうして!?」

「友達だからだよっ!!」

 突然声をあらげた猫実に櫻子は少し面食らった様子だった。

 だがすぐに口調と態度を正すと、

「バカじゃないの? 私は認めない絶対に」

「お前の許可なんて知らねぇ」

「勝手にしろ! 絶対に猫子をあんたの好きにはさせないから」

 怒りがマックスに達した櫻子はそのまま更衣室を勢い良く飛び出していった。

 その烈火の様な行動は流石の猫実にも理解しかねる。

「なんなんだよ……」

 そんな行き場の無いイライラを今は口に出すしか発散する方法が無い。

 はぁ……俺も行こう。

 猫実は草臥れた様子で更衣室を後にした。

 その時、 遠くから視線を感じた気がしたが構ってる気力はなかった。


「ねぇ猫実、 櫻子しらない?」

 帰りのHRも済み、 ようやく訪れた放課後をエンジョイしようとクラスが雑然としていた時、 猫子が怪訝そうに尋ねてきた。

「え、 知らねぇな……どっかにいんじゃね?」

 ただ、 その質問は猫実の心を無駄に締め付ける物だ。

「居ないから聞いてるんでしょ!」

「いやいやキレんなよ……」

 それに俺が知るわけが無いだろう。

 今朝いろいろあったし……。

「ねぇ、 あんた何か知ってるでしょ?」

「は、はぁ!? なんの事だよ……」

 話はやはり今朝の事に飛び火した。

 猫実は必死にはぐらかすが、

「怪しい……」

 猫子は疑り深そうに猫実の顔を覗きこんでいる。

 まずい……このままじゃやり過ごせねぇ。

 誰かっ、 助け……、

「猫実っ!」

「宗吾っ!?」

 危機一髪、 会話に宗吾が飛び込んできた。

 だが、 その様子は慌てていて何やらただならぬ事が起こったような……。

「猫実っ、 八木 頼斗って知ってるか?」

「あぁ、 知ってるけど……」

「じゃあ、 やっぱり!」

 宗吾は何やら自分の中で勝手に物事を完結させている。

「なんだよ?」

「あ、 あぁ! その頼斗が言ってた今朝更衣室に連れ込んだ女を人質に取った。 早く助けに来ないと不味いことになるって。

 誰だよその女?」

 今朝、 更衣室に連れ込んだ女だと!?

 そんなの一人だけだ……。

「春野……櫻子」

「あんたら更衣室でまさか!」

「違うだろ! 今慌てるのそこじゃないから! それにお前が想像してる様な事はやってないから!」

 猫子はなぜかホッとしている。

 いやいや、 それどころじゃ。

「今はとにかく探すしかない」

「あぁ、 そうだな。 手分けしよう」

「見つけたら、 連絡すれば良いのね?」

「そゆこと」

 まさかの事態になった。

 櫻子が拐われるなんて……。

 早く助けなければ、 申し訳が立たねぇ。

「んじゃ行くぞっ!」

「おぅ!」

「うんっ!」

 三人は景気付けに声をあげるとそれぞれ別の方向に駆け出した。


 どこだよ櫻子!

 空が真っ赤な怪しい炎に包まれた頃。

 もう大分駆けずり回った。

 教室を周り中庭で手がかりを聞いてはまた教室へ。

 なんでこの学校こんな広いんだよ!

 これじゃ人を隠せそうな場所なんていくらでも……。

 正直、 もうお手上げだった。

 心当たりは全て回ったしこれ以上人から何か聞き出せる気もしない。

 長い影がまるで自分を嘲笑っている様だ。

 もう、 自分で考えるしか……。

 猫実は焦る脳内に必死に学校の地図を呼び起こした。

 そして見た所にマークをつけていく。

 どんどん未開拓域が少なくなっていき、 やがてゼロに……。

 あれ?

 一ヶ所いや一項目だけ未開拓のままなエリアが。

 しかもそこはこの学校に大量に点在している。

 それでいて俺は、 俺たちは踏み入れない。

 踏み入る事が許されていない、 そうそこは、

「女子トイレ……」

 あそこは流石にノーマークだった。

 というか眼中になかった。

 なぜなら櫻子を拐った不良も男だからだ。

 そんなに俺が憎いのかよ……。

 女子トイレって言ったら俺たち男子には禁忌であり、 そこに立ち入るには自分の男としての尊厳と高校生活の輝かしい日常全てを捧げねばならない様な異世界でありパンドラの箱だぞ!

 そんな所にしかも女連れで立ち入るなんて、

「羨ましすぎっ……馬鹿すぎるだろ!」

 口ではこう言うが現在の猫実の表情はだらしなく緩みきっている。

 だが、 状況は好転した。

 場所の目処がついた。

 確か南棟の4階にほとんど使われないトイレがあったはずだ。

 多分、 奴等はそこにいる。

 その前に連絡を。

 猫実はポケット取り出すと、

「もしもし宗吾。 居場所がわかった、 南棟の4階の女子トイレだ」

「女子トイレ!? 羨ましすぎだろ……」

「そうじゃないだろ? とにかく早く迎え」

「了解した!」

 それで電話は切れた。

 よし、 後は猫子か……。

 猫実は今度は猫子に電話をかけた、 だが。

「繋がらない……」

 まさか……!

 一瞬、 最悪の事態が脳裏を過った。

 猫子は紛れもなく女子だ。

 だから、 俺たちとは確実に考え方が違う。

 もしかしたら初めから女子トイレを視野に入れていたかもしれない。

 そしてもしそうだとすると……。

「あいつ捕まりやがったな!」

 それが最悪の事態。

 そして今一番リアルに近い予測……。

 猫実は残す力を全て使い全力疾走で校内を駆けていった。


 南棟の4階の更にその隅に位置するトイレ。

 ここはそもそも南棟に教室が少ないのと隅に追いやられすぎているという理由から放課後の利用者は0に等しい。

 更に今は黄昏時の紅い日射しでトイレ全体が怪しげに光っている。

「あんた達何女子トイレに入ってんのよ! 変態!」

「なんで男ってこうも女子トイレに宗教的な何かを感じるのかしら」

 そしてズレにズレまくっている二人の少女の怒声。

「うるせぇ! てめぇら腹立てるとこちげぇだろ!」

 不良のリーダーよ貴方は正しい……。

「何よ、 女子トイレの何が悪いのよ!」

「いや、 そうじゃなくて……まぁ、 良い。 てめぇらはただの囮、 てめぇらを拉致ってあの野良猫を誘き出す為のな!」

 そう、 櫻子と猫子は現在拉致られている。

 だが、 二人に怯える様子はない。

 猫子に至っては楽しんでる……?

「あいつは来ないよ。 私の為なんかに……」

 そう言ったのは櫻子。

「ほぅ、 どいした急に弱気になって? ようやく怖じ気づいたか?」

「そんなこと……っ!」

「来るよ……あいつは」

「猫子?」

「来ないわけないよ猫実はきっと来る」

「どうして。 そんな義理は……」

「あるよ!」

「え……」

「だって櫻子は私の大切な人だから」

 櫻子に向けられた子供の様な笑み。

 この状況でこんな笑いが出来るのは、

「ほんとに……信じてるんだ」

「え、 なんて言った?」

「何でもないよ」

 櫻子はそう言うと再びリーダーを睨みつけた。

「悪いけど弱気にはならない! さっきの言葉も撤回。 私はあいつを信じる!」

 そう信じるしかない。

 どんなに勝算が無くても、 どんなに不良が嘲笑おうとも、 猫実ならきっと来る。

 猫実なら……!

「櫻子っ! 助けに来たぞ!」

「猫実っ!」

「遅いよぉ」

「野良猫っ!」

 絶対にやって来る。

 猫実は勢いよくトイレに突っ込んできた。

 そして直ぐ様辺りを見回す。

 不良十数人にこの前のリーダー。

 んで、 櫻子。

 あと……猫子!?

「お前やっぱ捕まったのかよ!」

「うるさいわね! というかやっぱって何よ!」

「だー! うるせぇ、 今はお前と喧嘩してる暇ない!」

 さて、 今度こそヤンキーの息の根止めてやる。

 猫実はリーダーを凄まじい威圧で睨んだ。

 だがリーダーも慣れたのだろうか、 もう怯まない。

「けけけっ、 馬鹿な奴だ。 この人数を一人で相手にするのか?」

「別に難しくねぇよ」

「そうかよ、 だったらやっちまえ!」

 その号令で不良達が一斉に飛びかかってくる。

 猫実も戦闘体制に入る。

 だが、 その時ようやく気がついた。

 今の猫実は絶対に勝てないという事に。

 なぜなら、

「俺……暴力捨てたんだった」


「グフッ……!」

 抵抗できない猫実に不良達の容赦ない拳が炸裂する。

 それでも猫実は痛みに歯を食い縛りながら猫子と櫻子の前から退こうとしない。

「猫実、 もう止めて!」

「どうして戦わないの!」

 二人はもう見ていられないと言った様子で必死に声をあげる。

 それでも猫実は絶対に退かない、 だからと言って抵抗もしない。

 だって……。

「猫子に裏切られたくないから……暴力を捨てるって約束したから……」

「そんな……私の為に」

「猫子はともかく、 なんで私にもそんなに必死になるのよ!」

 櫻子……それだよ。

 俺がここを退かない理由。

 お前を守ろうとしたわけ。

 そりゃ、 当たり前だろ?

「猫子はお前の事を信じてるんだろ?」

「……っ!」

「……当たり前でしょ!」

 へっ、 俺は本当にアホなのかもな。

「友達が信じてる人間なら、 俺も信じる! だから逃げない、 猫子も櫻子も二人とも全力で守る」

 二人はいつの間にか声をあげるのを止めていた。

 何を思っているだろう?

 バカらしいと思ったか、 それとも……。

「櫻子っ! うえっ、 猫子ちゃん!?」

 猫実がふと感慨に耽り始めた時、 再び辺りが騒がしくなった。

「おせーぞ、 宗吾」

「ははっ、 派手にヤられたなぁ猫実」

「うっせぇ」

 宗吾は猫実の前に立ち塞がった。

 これで大丈夫だろう。

 そう思うとふっと全身の力が抜けてきた。

 立ってるのも辛い。

 しかたない……しばらく眠ろう。

 猫実は静かに瞼を閉じて背後の猫子に体を預けた。

「猫実? 猫実っ!?」

 消えていく意識の中、 猫子の叫びだけが最後まで耳に響いていた。


「ん、 んぐ~」

 ん、 暗い?

 あ、 あれ息が。

 あ……やばい死ぬ!

「……っ! んがっ、 がふっ!」

 猫実が目を覚ますと突如としてとんでもない息苦しさを感じた。

 というかもう息を吸えなかった。

 ちょっ、 まじで!

 猫実は、 必死に手をばたつかせ抵抗を試みる。

 すると何かが自分の顔にしがみついて居るのだと何となく分かった。

 助けて……っ!

「猫実っ! 目が覚めたのね!」

 そう猫実が本気で死を覚悟した時パッと視界が明るくなった。

 場所はトイレじゃない、 中庭か……。

 日はまだ辛うじてある。

「猫子……」

 目の前、 吐く息がかかる程の至近距離に猫子がいた。

 猫子は猫実の肩に手を回している。

 どうやらしがみついていたのはこいつらしい。

 別にてめーの貧相な胸に埋もれてもこれっぽっちも嬉しくないわ!

「お前、 殺す気かぁっ!」

「……っ! だってぇ」

「…………お前、 泣いてる?」

「うるさいっ!」

 猫子は泣いていた鼻頭を真っ赤にしながら瞳をぐしょぐしょにしながら。

 それはもう、 子供の様な大号泣だった。

「猫実、 もう帰ってこないと思った! ずっとこのままかとおもったぁ!」

 そう嗚咽まみれの声で叫ぶと今度は猫子が猫実の胸に顔を埋めてきた。

 そっか、 怖かったんだな。

 ……ちょっと、 嬉しいかも。

 んでもって…………なんかかわいい。

 猫実は泣きじゃくる猫子の頭にぽんと手を置くと、

「ありがとな心配してくれて、 そんでごめんな」

「バカバカバカっ!」

「あぁ、 悪かったよ」

 だから俺の服で鼻水拭かないで……。

「学食……ラーメン、 大盛り……奢れ」

「は!?」

「学食のラーメン奢れって言ってんの!」

 ガバッと顔を上げた猫子の顔はもういつもの顔だった。

 確かに涙でぐしゃぐしゃだが。

 いつものあざとくてガキっぽくって、 そんないつもの猫子だった。

 だからさっきまで少し穏やかだった俺もいつもの調子に戻らないといけない訳で。

「ふざけんなっ! んなもん、 自分で買えっ!」

「やだっ! 高いもん!」

「そんなん俺も一緒だぁっ!」

「うるさいっ、 猫実のクセにぃ!」

「うっせぇっ、 猫子のクセにぃ!」

 そうやっていつも通りを謳歌する。

 つか、 宗吾と櫻子。

 その意味有り気な視線なに!?


 誘拐騒動もひと段落つき猫実達は帰宅すべく昇降口に集まった。

 そろそろ、 日も落ちそうだ。

「猫実ーっ! 早く来いよっ」

「櫻子も早くーっ!」

 まだ、 靴を履き替えていた猫実と櫻子に既に昇降口を出て外にいる二人が声をかける。

「お、 おぅ! ちょっと待て」

 猫実は慌てて靴を履くと二人に向けて駆け出そうとした。

 その時、

「あ、 あのっ!」

「ん……?」

 櫻子に呼び止められた。

 呼び止めた本人は顔を真っ赤にさせてなぜかフルフルと震えている。

 その様子は何だか怯えている様にも恥ずかしがっている様にも見える。

 え……なんだ。

 正直、 戸惑うしかない。

 そんな猫実に櫻子は震える声で言った。

「今日は……ごめん」

「何が?」

「貴方の事、 貴方が猫子をどう思っているのか。 私は誤解してた」

 あぁ、 なんだそんな事か。

「別に気にしてないよ」

「そっか……ありがと」

「おぅ、 じゃあ猫子のそばに居ていいか?」

「う、 うん」

「あぁ、 ありがとう」

 櫻子はまだモジモジしている。

 まだ、 伝えたい事でもあるのか?

「そ、 それとさ! もう一つ良い?」

「ん、 なんだよ?」

「あのその……えっと」

「ん、 どした?」

 いつまでもモジられても困るんですけど。

 出来れば早く!

「私もそばに居ていい?」

「……っ!」

 なんだ、 そんな事さっさと言えよ。

「当たり前じゃん、 友達だろ」

 その猫実の返答に櫻子はパァっと表情を明るくさせると、

「ありがと! じゃあ行こっ!」

 と言ってヒョコヒョコと昇降口を出ていった。

 まったく女子ってのは……。

 そんな事を思いつつ猫実も校門を目指す。

 でも、 結局話して貰ってない。

 櫻子にも猫子にも……。

「猫実ーっ! 早くしないと奢らせるよ!」

「うっせぇっ!」

 猫子、 お前の心の闇っていったいなんだ?


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