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スマホに写らぬ赤い花

作者: しまりす

スマホに写らぬ赤い花

作者:縞栗鼠

『お母さん、見てみて!』


頻しきりに母の手を引く小さな女の子。


彼女は路傍に咲く1輪の赤い花を指差し目を丸くして観ている。


『あら、綺麗な、お花ね。』


母親は娘の頭を優しく撫でて彼女の視線まで腰を下ろした。


『お母さん、この、お花の名前は何?』


母親は、しばらく考えこんだ後、答えた。


『お母さんも、こん綺麗な、お花初めてみたわ。』


『スマホで写真を撮って、後で調べてあげるわね。』


娘は母親に『うん!』と笑顔で頷うなづてた。


すると二人の後ろに、いつからいたのか長い髭ひげを蓄えた老人が立っていた。


老人は、柔らかな表情で二人に声を掛けてきた。


『こんにちわ……お嬢ちゃんには、あの赤い花が見えるのかな…』


小さな女の子は大きな声で『うん!、おじぃちゃん、見えるよ。』と答えた。


老人は次に母親にも訊ねた。


『お母さんにも、あの赤い花が見えますかな?……』


母親は、少し口ごもった様子で遅れて答えた。


『見えるような…見えないような、おじぃさんには見えますか?』


老人は頭を縦に振って答えた。


『ここを通る人は多いが、あの赤い花に目を止める人は少ない。』


『いや、少ないというより見えないと言った方が正解やもしれんのう。』


『あの赤い花は通る人の心の鏡花という。』


『赤い花を可愛い、綺麗だと感じる心の持ち主しか見えない代物じゃよ。』


老人はしゃがんで女の子の視線まで腰をおろして話した。


『あの花が可愛く、綺麗なのではなく……』


『お嬢ちゃん……お前さんの心が清く可愛く美しいので、あの赤い花が見えたのじゃよ。』


そう言うと老人は再び笑顔で会釈をして、いずこともなく姿を消して言った。


『お母さん、面白いおじぃちゃんだったね。』


小さな女の子は小声でクスッと笑いながら母親に話した。


母親は赤い花が写らぬスマホを見つめていた。


彼女も、また幼い頃、母親に連れられてこの河川敷きの川辺を散歩していた記憶が甦えっていた。



彼女の母、つまり娘の祖母との思い出である。


彼女に頻りに、せがまれてカメラのシャッターを切る祖母。


『お母さま、あの赤い花、とても綺麗ですね。』


祖母は困惑した顔で、彼女に答えた。


『そうね……綺麗ね。』


いつから、そこにいたのか長い白髭しろひげを蓄えた老人が私に訪ねてきた。


『こんにちわ…お嬢さんには、あの赤い花が見えるのかな…?』


『はい!、わたし、見えます。』


私の心の鏡花……遠い記憶のお話し。


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