短編・夏のある日
「うへぁ。あっつ……い」
照り付ける日差しに訴えるように、空を睨む。
もしも視線に、殺す能力があったとしたら、私は迷わず太陽を殺すだろう。そんくらい、この暑さが今だけ憎らしいのだ。
「冷蔵庫、アイスあったかな……」
占有していた扇風機の前からのっそのっそと動いて、冷蔵庫の中を物色。
開け放った瞬間、ヒンヤリとした冷気が漏れ出してきて、それが心地よい。汗で濡れた身体から熱が奪われる。
「あー最高。生き返ったって気がする」
けれども何時までもこうしてはいられない。さてさて、目当てのモノは……と。
アイスの箱はすぐに見つかった。
がさごそと箱の中身に指を突っ込んでみる。が、空を切る。
覗き込むと、中には何も入っていなかった。
「マジか」
今の私には死活問題だった。絶海の孤島に取り残されたに等しい。この炎天下の中、外へ出ることはミッションインポッシブル。だけど今すぐにアイスが食べたい。
この二者択一は、あまりにも絶望すぎる。
おお、神は私に死ねとおっしゃるのですか。
日本の主神はアマテラスオオミカミとかいう頭上で輝いているやつだった。わりと聞こえるように死ねって言ってた。
「ファッ●ンゴッド!」
中指を天に突き付けても現状は変わらない。
どうにかしてこの暑さを乗り切る策を講じよう。
「心頭滅却すれば火もまた涼し――」
暑いときにこそ、熱くなれ! お米食べろ!
――たぶんそんな感じの言葉だ。お米は食べなくてもいい。
薄いシャツはもう汗ぐっしょり。いっそのこと、お風呂に入るのも良いかもしれない。
やめた。めんどい。
二秒で自分の案が棄却されてしまった。
だってめんどうくさがりなんだもん。しょうがない。
となると残された道は、夜になるまで動かない。それがいいのかもしれない。
ナマケモノだってそうして生きてるんだ。私の場合はナマケモノと違ってほぼ無意味のぐでぐでだが、有意味・無意味はここでは大差がない。
「あづ~……」
扇風機の前の特等席にまた戻った。
はぁ。やっぱこの場所がオアシスなんだな。