表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界奴隷ニート、ここに極まる ~絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女~  作者: 萩野知幸
1章 絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女
5/27

4 - 非日常2

「ふぅ……」


 深呼吸を一つ。

 緊張してきた。


 あー、これ絶対やばいやつだよ。

 めっちゃ睨まれてるし。


 俺達を円形に囲む暗殺者達。布陣は終わったらしい。

 こんな陣形なら普通であればやることは一つ。皆で仲良く『かごめかごめ』を提案したいのだが、生憎、異世界では通じないだろう。


「殺すなら私だけでいいでしょ!! この人は関係ない!」


 女の叫びが小さく反響し、消えていく。

 反応する者はいない。


「くっ……」


 女が悔しそうに唇を噛み締める。


 やはりここは俺の出番のようだ。

 今、重要なのは救援が来るまで時間を稼ぐこと。それくらいなら俺にも出来る。

 見せてやろう、華麗なネゴシエーションを。


 コホン。

 

「……ん? 誰かと思ったらお前かよ! 久し振りだなぁ、おい!!」


 思い出せそうでギリギリ思い出せない。そんな昔の友達を装った俺の演技が冴え渡る。

 対象者を絞られないよう、あえて暗殺者と暗殺者の間の誰もいない方向を向いた俺の機転を褒めてやりたい。


 俺は至って真面目だ。

 命乞いをしたところで状況が変わるとも思えない。

 こういう緊迫した時だからこそ、奇抜な策がいい。


 5人もいれば互いに知らない交友関係があるのは必然。

 友達の友達かもしれない人間に危害を加えるなど、そうそう出来やしないはず。命乞いなんかよりずっと効果的だろう。


 さあ、どう出る暗殺者。


「殺せ」


 ――はわわ!!


 その間、僅か2秒。

 とてつもない判断力だ。


 リーダーらしき男の無慈悲な指示に俺は驚きを隠しきれない。

 友達の友達かもしれない人間になんて恐ろしいことを言うのだろうか。


「ちょ、ちょっと待てって!! 俺だって! 俺俺!!」

 

 くそ、無視かよ!! 

 人でなしめ!


 指示を出したリーダーらしき男は、俺の言葉など聞くつもりはないようだ。

 眉をぴくりとも動かさずに、冷たい眼差しで俺を見ている。


 リーダーらしき男の命令で動いた暗殺者は左右の二人。足を怪我して身動きの取れない女ではなく、まずは元気そうな俺から始末するようだ。


 ――終わりなのか!?

 こんなところで!?


 死が迫っていると理解できるのに、それを実感できない不思議な感覚。死ぬ間際というのは、こういうものなのだろうか。


 暗殺者二人が俺に迫る。

 そして、手に持ったダガーを何の躊躇いもなく突き出してきた。


「やめてええええ!!」


 女の悲痛な叫びが再び響き渡る中、俺は目を強く閉じる。


 ――くッ!!


 死を予感し、覚悟を決めたのとほぼ同時だっただろうか。

 カキンという金属が金属を弾いたような音が耳元で聞こえた。


「なッ……!?」


 声を漏らしたのは左右にいた暗殺者だった。


 なんだ……?


 恐る恐る目を開くと、俺の両側面――俺を守るようにして、魔法陣としかいえない模様が描かれた謎の障壁が展開されていた。


 魔法、だよな……?


 俺に心当たりがない以上、使用者は限られる。

 俺は一番身近な人物の方を振り返った。 


 まさかこの女が――


「え、なに……?」


 ……ないな。

 

 俺は放心状態の女を候補から即座に外す。

 となると……。


「チッ、仲間がいたか……」


 そうか! 救援がきたのか!!


 ここにきて初めて表情に変化を見せたリーダーらしき男を見て、俺は確信する。


 むこうが小芝居を打つ必要性など皆無だし、それ以外に考えられない。

 誰かが、どこからか魔法で俺を守ってくれたのだろう。


「ねえ、今のは……?」

「仲間だろ! 間に合ったんだ!」

「え、でも……」


 女はなにか納得できない理由があるようだ。

 てっきり、女が必ず来ると言っていた仲間がやってきたのだと思い込んでいたのだが、この様子では違うのかもしれない。

 

 ということは、物音を聞きつけた他の誰かが?

 ――いや、この際なんだっていい。

 これはチャンスだ。


「敵は最低でも二人だ! お前らは二人一組でそいつらをぶっ殺してこい!! こっちは俺がやる!!」


 リーダーらしき男がそう言うと、後方二人と、側面にいた暗殺者二人が密林の中に消えていく。

 この場に残ったのは、俺と女、そして正面にいるリーダーらしき男だけだ。


「あんたは行かなくていいのか? 言っとくが俺の仲間は強いぜ?」

 

 心の中で『多分』と付け足し、俺は強気に出る。

 少しでも相手に警戒心を植え付けられれば儲け物だ。

 

「ふん、くだらん。あんな出来損ないの魔法を使う奴が強いわけねえだろうが。数にも入らねえよ」


 それなのに二人一組で4人も向かわせたのは誰だったかな。

 まあ、逆上されても困るし、言わないけど。


「せっかく人が忠告してやったのに残念だ。信じる信じないは勝手だが、俺の仲間は全部で5人いてな。一人は、もう大分前にお前らのことを知らせに館に向かっているはずだ」

「……ほお、それで?」

「今から撤退するならまだ逃げられると思うぞ? 正直、ここでお前らが引いてくれれば、俺達としても被害を抑えられて助かるんだがな」


 もちろん全部出任せである。

 こんな出任せで撤退してもらえるとは微塵も考えていない。

 とりあえず会話を繋げて時間を稼ぎたいというのが本心だ。


「くくく……――あーはっはっは!!」


 突如として、大笑いするリーダーらしき男。


「実をいうと迷ってたんだよ。今ここでお前らをぶっ殺しちまったら、隠れているクソ野郎共に逃げられちまうんじゃねえかってよ。……だが、そんなことは考えなくてもいいようだなぁ」


 どうやら楽しいお喋りの時間はお終いらしい。

 男の口調や挙動から俺はそれを察した。


「既に一人、逃げられてるってんなら、一人も二人も変わんねえ。見つけた奴だけぶっ殺して上にはありのままを話すさ……――なあ、おいッ!!」


 男の仕事には秘匿することも含まれているという口振りだったが、ほんの些細なきっかけで崩れる程、男にとっては脆いものだったようだ。


 都合のいい言い訳を手に入れた男が、勢い良く迫り来る。


「やれるものならやってみな……」


 うわー、なんか言っちゃってるよ俺。

 そもそも自分の力じゃないし。


 ってか、これやばいって!

 さっきの二人よりやばそうじゃん!!


「死ねやあああああ!!」


 目前まで迫る男。

 

 男がダガーを振りかぶった瞬間、防御魔法を貫通される未来、防御魔法による援護がない未来を想像するが、俺はそれをすぐに振り払う。


 不安はなるべく悟られたくない。

 どうせ、びびったところで結果は変わらないんだ。


 ――目を背けるな、俺!!


 精一杯目を見開いて、自分の頭上から振り下ろされるダガーに視線を集中させる。

 

 直後――


「くそッ!」


 男のダガーが俺に触れそうになったところで、先ほどと同じ障壁が現れた。

 ダガーは障壁に阻まれ、俺には届かない。

 それでも男は諦めずに何度もダガーを突きつける。


 カン、カン、カンと鋭い音が何度も続く中、俺はなんとかドヤ顔仁王立ちを維持するが、内心では恐怖におののく身体を叱咤するのに精一杯だ。


「どうなってやがる!? こんなデタラメな魔法が!! くそッ、くそッ、くそがッ!!」


 縦から横から正面から。あらゆる角度から襲いくる二刀流のダガーの連撃。その全てを障壁が受け止める。

 相手のダガーの勢いや角度に応じて障壁のサイズも変わり、多いときには一度に3つの障壁が展開されている。

 一瞬のうちに4回、5回と攻撃を繰り出す男も凄いが、それ以上に俺を守ってくれている魔法士が凄すぎる。

 同時に存在する魔法陣の数だけ魔法士がいるはずなので、救援に来てくれた人数は最低でも3人。そのあまりにも完璧すぎる連携は、もはや神業としかいえない。


「凄い……」


 女の言葉に俺も同意する。


 惚れちまいそうだぜ……。

 ありがとう、まだ見ぬ助っ人さん!!

 

「そろそろ諦めたらどうだ?」


 R指定が入りそうなほど怒り狂った形相ぎょうそうをした男に、俺は提案してみる。


 というか諦めて下さい。

 怖くてちびりそうです。


「おい!! 魔法士はまだ見つからねえのか!? こんだけ魔法を使ってんだぞ! 詠唱の一つや二つ見つけられねえのか、無能が!!」


 やっぱり俺の言葉など聞く耳を持たないらしい。

 一向に戻ってこない部下を罵倒しながらも、俺への攻撃が止むことはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ