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異世界奴隷ニート、ここに極まる ~絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女~  作者: 萩野知幸
1章 絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女
24/27

23 - 翻弄される者6

 リディアの部屋にて繰り広げられるは、奴隷ニートとチート暗殺者の殺し合い。

 観客は王女ただ一人。


「ヒヒヒ!! シネッ!! シネッ!! シネエエエエエ!!」


 理性を失ったラシッドの攻撃が続く。

 一発でも直撃をくらえば即死は免れないだろう。


 ――うお!! あぶねッ!!


 ラシッドが槍で薙ぎ払うと、そこにあった家具や壁が瓦礫の山と化す。

 応接間や隣室、廊下を隔てる壁はもれなく粉砕され、もはやこの戦場は旧リディアの部屋と称した方がいいかもしれない。

 一部、俺が壊してしまったものも含まれるが、請求書はまとめてラシッドさんまでお願いしたい。


 しかし、どうしたもんかな……。

 ありったけの魔力をぶつけてみるくらいしか思いつかないが……。


 ただ、それでラシッドが生きていたら、いよいよゲームオーバーだ。

 守ることだけ考えろとリディアも言っていたし、まだ最後の賭けにでるには早い気がする。 


 足りない頭で精一杯考えていると――


 ……ん、なんだ?


 足音が聞こえてくる。話し声も微かに聞こえた。

 やがてそれは段々大きくなり。


「――これは……!? リディア様! 宗司様! ご無事ですか!?」

「……ふぅ、探しましたよ、リディア王女。いくら他の御客人を非難させても、あなたがご無事でなければ意味がない」


 見知った顔触れが現れる。


 メイドのレイン、館長に……――シェラまで!?


「くるのが遅いと思っていたが、こんなことになっていたとはな……。ニート、私もまぜてもらうぞ」


 くそ、悔しいけど頼もしいじゃないか。


 この状況で嬉しそうな顔をしているのが、なんともシェラらしい。

 レインや館長と一緒に来たところを見ると、首輪の制限は一時的に解除してもらったのだろう。館長の本気度が窺える。

 

 少し遅れて、王国の紋章が入った鎧を着た騎士と、不揃いな格好をした冒険者らしき者がゾロゾロとやってくる。


 おお! なんだこの展開!

 最高かよ!


「私は大丈夫!! 早く宗司に加勢してあげて!!」

「聞いたか!! リディア様の指示は最優先だ!! あっちの奴隷に加勢しろ!! 敵はあの化け物だ!!」


 あの男が騎士の隊長だろうか。残りの騎士と冒険者に号令を掛け、自らはリディアのもとに駆け寄っていく。


 よし、リディアはあいつに任せて大丈夫そうだな。


 館長を交え、3人でなにやら俺の方を見ながら話しているが、よく聞こえない。

 首輪がどうとか言っている気がするので、俺の首輪の行動制限について上手いこと言い訳してくれているのかもしれない。


 問題はこっちか。


「ムダ、ダ! ムダ!! ダレガキテモ、ダレガキテモ!!」

「――な、なんだこいつは……」

「こいつがラシッド……? 人間……なのか?」


 騎士と冒険者達が、慎重に間合いをはかりながらジリジリとラシッドに詰め寄っていく。


「気をつけてくれ! こいつが手に持っている槍は”流転”だ! 半端な攻撃じゃ一瞬で回復するし、身体能力もとんでもないことになってる!!」

「流転? 流転だと!? オリジナルのか!?」


 冒険者の一人に言われ、俺は頷く。


「信じがたいが……。――いや、でもこいつは確かに……」

「ああ……」


 この場にいる者の反応は皆似たようなものだ。

 人間離れした姿のラシッドを見れば、その異常性は一目瞭然である。


「コイヨ!! カカッテコイヨ!! キヒヒヒ!!」


 臨戦態勢は継続しているものの、互いに顔を見合わせるだけで、誰も攻めようとはしない。

 相手の未知数すぎる力を計りかねているのだろう。


 俺が先陣を切るしかないか……。

 サポートに徹したいところだったんだがな。


 戦闘経験の乏しい俺に、人と連携して戦うなどという高等技術があるはずもないわけで……。


 そんなことを考えていると、一本のポニーテールが俺の横を通り過ぎ前へ出る。


「私が行こう」

「シェラ!」


 待ってました! 


 歌舞伎の声掛け――大向おおむこうになった気分で、舞台に上がるシェラに声援を送る。


「先に言っておこう。貴様と行うのは決闘ではない。こちらは私以外の命もかかっているのだから、そこは諦めてくれ」


 シェラが剣を抜き、ラシッドと対峙する。

 両者は既に互いの間合いに入っている。

 

「――キヒッ!!」


 先に仕掛けたのはラシッド。

 槍を突き出しシェラの心臓を狙う。


「速いな、そして鋭い……」


 左半身を引き、シェラは最低限の動きで回避する。


「――だが心がない。隙だらけだ」


 意味深長なことを言いながら、今度はシェラが剣を振るう。

 ラシッドが突き出した腕を切り落とす勢いで振り下ろされた剣は、ラシッドの腕に食い込んでいくが――


「ムダダ!! ムダ!!」


 斬った腕が瞬く間に再生していく。

 刃が通り過ぎると同時に肉がくっついていくので、まるでシェラの剣がラシッドの腕をすり抜けたように見えた。


「面妖な……。――ならばっ!!」


 再び繰り出されるラシッドの槍を潜り抜け、シェラがラシッドの胸部目掛けて剣を突き上げる。

 剣はラシッドの身体――心臓のある辺りを突き抜けている。普通の人間ならば絶命間違いなしの一撃だ。


 だが……。


「う、嘘だろ……?」

「どうなってるんだ……」

「これが流転の力……」


 外野が言葉を漏らす。

 援護する機会さえ見出せないほどの一瞬の攻防ではあったが、絶望を知るには十分な出来事だった。


 ――そこまでやっても駄目なのかよ……。

 

「キヒヒヒヒ!!」


 ラシッドは苦悶の表情すら浮かべない。

 剣が体に刺さっていることさえ気付いてないのではないかと疑ってしまうほどだ。


「ツギハ、ドウスル? アタマ、デモ、ネラウカ? ヒイッヒッヒヒ!!」

「――ふん、そうさせてもらおうか」


 一方、シェラもまったく闘志は衰えていないらしい。シェラの動きに迷いは感じられない。

 ラシッドが槍を振りかぶったのを見ると、シェラはラシッドの体から剣を引き抜き、一歩二歩と引いてその攻撃を回避する。


「援護するんだ!! 近づく必要はない!! 遠くから攻撃できるものは火力を集中させろ!!」


 冒険者の一人が魔法で火球を作りながら言った。


「囲め! 一箇所に集まるな! 狙われるぞ!!」

「ここからなら!!」

「うおおお!!」


 魔法や弓を扱えるものが、次から次へとラシッドに攻撃を浴びせていく。

 前衛陣は後衛に攻撃がいかないよう、一歩前へと進んで武器を構えている。


「ゲヒヒッ!! ムダ! ゼンブムダ!!」


 ラシッドに当たった攻撃は傷を与えるが、すぐに再生してしまう。

 

「無駄ではないな」


 火球の爆煙に紛れ、シェラがラシッドの間合いに再び入り込んだ。

 

 そして――


「ハッ!!」


 シェラがラシッドの槍を支える手の指2本を根元から剣で切断し、さらに回し蹴りでラシッドの横っ腹を打つ。


「――ギヒッ!!」


 ラシッドの体を突き飛ばすには至らないが、僅かにバランスを崩させる。

 そこへシェラが次々と追撃を入れていく。


 まず、剣を振り上げラシッドの槍を打ち上げる。

 指とバランスを失ったラシッドに槍を支える手段はなく、槍――流転は天井に突き刺さった。


 次に、首。

 武器を失ったラシッドにシェラは容赦なく襲い掛かる。

 腕を斬った時とは比較にならない速度で、ラシッドの首を跳ね飛ばす。


 最後にその首を剣で串刺しにして――


「ニート!!」


 俺を振り返り、シェラが叫ぶ。


「――まかせろ!!」


 呼ばれるとは思っていなかったが、体は咄嗟に反応した。

 今を逃せば次はない。ここが正念場だ。


 俺の全力を以て、ラシッドを狙い打つ。

 力を一箇所に集約し、ラシッドの頭を粉々に吹き飛ばすイメージで魔法を放つ。


「――いい加減死んでくれ!!」

「キ、キヒ……。キギギヤアアア!!」


 俺の魔法――レーザーのような白い光に包まれ、ラシッドの頭がボコボコと膨れ上がりひしゃげていく。


「グヒャ――」


 そのまま弾け飛んだ。

 良い子にはまず見させられない光景だ。


 …………。


 ――やったんだよな……?


 ラシッドの耳障りな声はもう聞こえない。


「――うおおおおお!!」

「さすが剣聖!!」

「すげえぞ!! なんだよ今の!! なんちゅう魔力だよ!」

「剣聖の剣も、お前の魔法も凄すぎだっつの!!」

「やるじゃねえか!!」


 まさに大歓声。

 いや、俺も滅茶苦茶嬉しいけど。


「宗司!! よかった!! よかった!!」


 リディアが飛びついてくる。


「おい、馬鹿! 汚れるぞ!」


 第一声がそれかよと、我ながら思う。

 でも、傷は魔法で塞がっているとはいっても、俺は血だらけなんだから気になるものは気になる。

 俺はエチケットにはうるさい男。


 抱きついてくるリディアに対しどうしたものかと考えていると館長と目が合った。


「――ん? ああ、すまないね。ただ、こんな表情のリディア王女を見たのは初めてだったものでね。なに、私のことは気にしないでくれたまえ」


 「さあ、続けて続けて」と含みのある笑顔の館長。

 こういうのが沸いてくるのも問題だ。


 冷やかしを入れてくる冒険者や、殺意がこもったような目で見てくる騎士に、俺は乾いた笑いしか出てこない。

 ただ、「よかった、よかった」とそればかりのリディアを引き剥がすのは気が引けるし、今はこのまま耐え凌ごう。


「おい、ニート。私にも何か言うことがあるんじゃないか?」

「ん、どうしたシェラ。そんなに怖い顔をして」

「まったく……、まあいい。あの状況では仕方なかっただろうしな」

「……あ、剣!! すまん!! まったく頭になかった!!」


 シェラの剣が柄を残してなくなっていた。

 ラシッドの頭ごと俺が魔法で消し飛ばしてしまったようだ。


 高そうな剣だったよな。

 剣の魔装具とかいくらするんだ……。


 以前、リディアから貰った金貨――クリーニング代は残っているが、それだけでは弁償できる気はしない。

 

 頼りたくはないが、リディアに相談するか……。

 ったく、本当ならあいつに請求書を叩き付けたかった……の……に……?


 ラシッドの成れの果て。床に転がっていた胴体がない。


 ――な!? どこへ!? 


「ユル、セナイ……。ユルセナイ……」

「――上か!?」


 信じられん。

 どうやって? ――いや、それよりも!!


 見上げると、ラシッドの胴体が天井をへばりついていた。

 腹の部分が口のように裂け、そこから言葉を発しているようだ。 


「――なっ!! いつの間に!! ニート――は無理か……。ちっ、誰か! あいつを叩き落とせる者はいるか!?」


 シェラが察してくれたように、俺は先ほどの一撃で魔力を使い果たしてしまった。

 何人かが、魔法を詠唱しているが――


 駄目だ! 間に合わない!!


 ラシッドが槍を手に持つ。


「ユルセナイ! ユルセナイッ!! オマエダケハ、ユルセナイッ!!」

「ニート! リディア!! 避けろ!!」


 ――投擲!?


 ラシッドの投げた槍が凄まじい速度で俺とリディアに迫る。

 

「宗司!?」


 避けられない。

 魔法も使えない。


 ――くそッ!! こんな!! こんなことって!!


 死にたくない。

 リディアも死なせたくない。


「――うおおおおおおおおお!!」


 リディアを押しのけ、俺はただがむしゃらに目前に迫る槍を掴む。

 たとえ身体を強化していても止めることはできない。そんなことはわかっている。


 だというのに。


 ――え? あれ? 軽い?


「宗司!! ――え?」

「なんだと!? あれを受け止めたのか!?」

 

 リディアとシェラが驚いているが、一番驚いているのは俺自身である。

 なぜだろう。槍が軽い。

 受け止めたというより、置いてあった槍を手に取ったかのような不思議な感覚。


「…………キヒ、ヒヒ! ソウカ、オレハ、ハジメカラ……。キヒヒッ!! キヒャヒャヒャヒャ――」


 ラシッドの身体が塵となって消えていく。

 同時に俺が掴んだ槍も、流転本来の形――緑色の小さな宝石に戻っていく。


 どういうことだ。わからないことだらけだ。


「何をしたの……?」


 リディアに聞かれるが俺にだってわからない。

 この場にいる全員が俺を見ている。なんか説明を求めているようだが、無理なものは無理だ。


『――やっとつかまえた。もう逃がさない……』


 え? なにこれ?

 嘘だろ、え、今どこから?


 追い討ちをかけるようにまた一つ謎が増える。


 今、確かに知らない女の声が聞こえた。

 微妙にエコーがかかってたし怖すぎる。


 そういや、流転には意志があるとかどこかの誰かが言ってたよな……。


 まさかとは思うが、試しに俺の手に中にある流転をそっと地面に置いてみる。


 数秒後。

 シュンと地面にあった流転が消え、再び俺の手の中に流転があった。

 

 ――おう、なんというミステリー……。


 ふん!!

 

 今度は窓の外に投げてみた。


 …………。

 10秒くらい待ってみたが、俺の手に戻ってくる様子はない。


 ふっ、他愛ない。

 敗北を知りたい……。


 そう思った束の間、俺のポケットに違和感が。

 ポケットに手を入れ確かめてみると。


 手品かな? 


 そこには緑色に輝く流転があった。

 

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