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異世界奴隷ニート、ここに極まる ~絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女~  作者: 萩野知幸
1章 絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女
20/27

19 - 翻弄される者2

「館内で死人が出ました」


 銀髪メイドのレインの衝撃的な報告に、リディアをはじめ俺達の表情も自然と険しくなる。


 奴隷の館において訓練や決闘中に命を落とす者はいるので、報告内容自体はさほど珍しいものでもない。

 しかし、そんな珍しくもない話をするために、今まで図書室に姿を見せなかったレインが、わざわざこの場を訪れてまで報告にくるだろうか。

 

 レインが俺達を一瞥してから、主であるリディアを見る。

 恐らくは『場所を変えますか?』という無言のメッセージ。それに対するリディアの返答は――


「いいよ、話して」


 考える素振りも見せずにリディアが答える。


 館内で死人が出たことはいずれ館内に告知されるだろうが、レインの報告はきっとその先をいくものになる。

 不吉な予感、それも俺に大きく関わりのある事柄だと、なぜだかそんな予感がした。


「今しがた敷地内で二人、敷地外で8人の他殺体が発見されました。犯人は消息不明。現在も敷地内に潜伏している可能性は極めて高いかと。犯行は単独で、相当腕の立つ槍の使い手によるものだと予想されます」

「外の8人は冒険者?」

「はい、4名で構成されていたAランクの冒険者パーティーが二つです。いずれも的確に心臓を一突きにされており、冒険者側の武器には犯人を傷つけた形跡はありませんでした」

「Aランク冒険者パーティーを一人で……」


 レインの報告にリディアが顔を俯かせる。

 だが、それも一瞬のことで、すぐにリディアは顔を上げて再び口を開いた。


「直接犯人の顔を見た人はいないんだよね?」

「残念ながら……」

「館の対応は?」

「まずは来館者を避難させているようです。奴隷への告知・避難はそののち順次行っていくと。ただ、奴隷の避難がいつになるかはわからないとも聞いております」


 『こんな時に』とも思うが、館側からすれば、やはり優先すべきは客なのだろう。

 それに、犯人側の目的がわからない以上、より狙われそうな者から逃がしていくのは合理的だ。来館者には要人も多いし、そういった者の方が狙われやすいのは世の常である。


「了解、要は手伝えってことね。館長って立場も面倒事が多そうだし、こればっかりは仕方ないか……。レイン、至急館内に私名義で緊急告知を流すよう手配して。それと私の監視――護衛にきてる連中を全員避難誘導に当たらせて」

「かしこまりました、リディア様。それではさっそく――……いえ、やはりもう一点だけよろしいですか? 気掛かりなことがありまして」

「ん、なんだろ?」


 何か思い出したのだろうか。

 レインが難しい顔をしながら言葉を続ける。


「館内で殺害された者は二人と先ほど申し上げましたが、そのうちの一人だけ殺され方が他とは異なっておりましたので、その報告です」

「そっか、そういえば館内の被害者について聞いてなかったね。二人とも職員?」

「一人は職員です。ですが、もう一人は断定できかねる状態で……。十中八九、奴隷だとは思うのですが……」


 レインの言葉が意味するところ。

 それは――

 

「首から先がなかったってこと?」


 俺の心の声をリディアが代弁してくれた。


 この世界の殺人において――特に奴隷殺しの際によく使われる手口である。


 たとえ死体を焼いて身元をわからないよう工作しようとしたところで、死体に首輪があれば、そこに彫られた管理番号が身元を証明してしまう。だからこそ、誰を殺したか知られたくない者は、現場に首から上を残さない。顔と首輪がなければ身元の判明が一気に難しくなるからだ。

 無論、死体そのものを見つからないようにするのが一番手っ取り早い手法だが、そこは時間や手間との兼ね合いだろう。

 

「いいえ、それが妙なことに首は切断されていたのですが、現場に残されたままだったんです。まるで首輪だけが持ち去られたような……」


 なるほど……。

 これがレインの”気掛かり”か。


 異常というほどではないにしても、確かに気になる。

 9人の目撃者を殺した犯人が、10人目――標的を殺すことに成功し、標的のみに最低限の隠蔽工作をしたと考えるべきか。


 あるいは奴隷になりすまして敷地内を自由に動き回るため……?

 ――いや、それは無理か。


 奴隷の首輪の頑丈さは俺もよく知っている。契約が有効な限り――国の立会いのもとで誰かと雇用契約を結ばなければ外すことは不可能だ。

 たとえ強引に奴隷から首輪を剥ぎ取ったところで、接合部分を外せないのだから装着する手段がない。刃物や魔法を使おうと傷一つ付けられないし、第三者が勝手に契約を履行・破棄することもできないので、使い道はないと思うのだが。


「うーん、難しいね。もっと情報がないとなんともいえないかな。何かのメッセージかもしれないし、怨恨や宗教、偽装の線も捨てきれないね。こっちも進捗があったら教えてくれると嬉しいな。報告ありがと」

「御心のままに」


 レインは静かにそう言うと、リディアと俺達に会釈して去っていく。

 くるりと反転した際にただよってきたフローラルな匂いに俺は心持ち癒された気がする。

 

「よくできたメイドだな。一家に一人欲しいくらいだ」

「うちの自慢のメイドだからね。いくら宗司の頼みでもあげることはできないかな」

「そいつは残念」


 ちょっとした軽口が張り詰めた空気を和らげる。

 とても本を読んでいられる状況ではなくなってしまった今、どうするべきか。まずはそこから話し合う必要がありそうだ。 


「……どうする? とりあえず避難しとくか? すぐに緊急告知も出るだろうし」

「今回のケースだと避難場所に指定されるのは闘技場だよね」


 ユー君が反応してくれる。


「ああ、建物外の事象になるから、ここからなら第一闘技場だろうな」


 館内の避難経路は頭に入っている。


 俺もユー君も避難は初めてではない。むしろプロ級だ。伊達に奴隷歴は長くない。

 ゴブにいたっては、緊急告知が流れる前に席を立つレベルである。

 

「リディアもそれでいいか?」

「…………――え? あ、うん! そうだね、いいと思う!」


 心ここにあらずだな。


 ぶっちゃけ館内で一番狙われる可能性が高いのはリディアだろう。

 それは館内で一番危険なのはリディアの周囲ということになるわけで……。


 本人が気付いてないはずないよな。

 あんまり一人で背負いすぎないで欲しいもんだが……。


 そう思ってはいても、気の利いた言葉一つ出てこない自分が情けない。


「決まりか。ならば私も従おう。悔しいが、首輪をしていてはまともに戦うこともできないからな」

「ゴブも問題ありません」


 俺が考えている間にも話は進んでいく。


 ――いかん、らしくないな。

 悩んでいてもはじまらないか。


 シェラの気が変わる前に行動に出るとしよう。


「よし、行くか」


 確認の意を込めて俺は再度全員の顔を見る。


「うん、行こう」

「ああ」

「グギャ!!」

「うん」


 4人の声が一つになる。

 そしてそれを後押しするように――


「警戒レベル4! 警戒レベル4! 全員避難を開始してください!! 避難場所がわからない場合は近くの案内図で確認してください!! 繰り返します――」


 避難を促す声が遠くの方から聞こえてきた。


 警戒レベル4か。

 やっぱそれくらいにはなるよな。

 

「――4!? 今警戒レベル4って言ったか!?」


 誰かが席を立ち声を張り上げて言うと、それに釣られるように次々と皆が席を立つ。


「4!?」

「何があったんだ!?」

「大丈夫なの!?」


 警戒レベル4というレアケースに図書室内が騒然となっていく。


「急いだほうが良さそうだな」 


 図書室の利用者数から考えて、出口が順番待ちになるということはなさそうだが、こちらにはリディアがいる。

 今はまだ大多数が状況把握に精一杯でリディアのことにまで気が回っていない様子だが、皆が皆、リディア――大好きな王女に『何か手伝えることはないか』と群がってきたりするようなことがあれば厄介だ。

 いくら善意でとはいえ、それぞれに答えている時間はないし、こんな状況では収拾がつかなくなるかもしれない。


「そうだね。皆には申し訳ないけど……」

「気にすることないさ。結果としてお互いのためになるんだからな」

「お互いのため?」

「こんなところで王女親衛隊を作られても困るだろ」

「……あはは、それは困るかもね」


 苦笑いするリディアを中央にして歩き、俺達はそのまま図書室を後にした。



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