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異世界奴隷ニート、ここに極まる ~絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女~  作者: 萩野知幸
1章 絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女
19/27

18 - 翻弄される者1

 この国の奴隷制度が大きく変わったのは、俺がこの世界にくるよりずっと前のことだ。

 今でこそこんな夢みたいな生活をおくれている奴隷だが、昔は酷かったらしい。


『税を納めない者、重大な罪を犯した者、捕虜となった者。これらをクラベスの国民として扱わず、よって法の適用外とする』


 国の公言により、法の守護がなくなった者が次々と捕らえられ奴隷として売買されるのに時間はいらなかった。奴隷絡みの事件が頻発し治安が悪化するのにも。

 『どうせ奴隷になるのなら』、『このまま奴隷として死ぬのなら』。一切の希望のない奴隷階級が逆に奴隷を駆り立てた。

 当時の国王がとある奴隷グループに暗殺されるたのも、そんな背景があったからこそだろう。


 そして、物語はそこで一旦幕を閉じ、数ヵ月後、新たな幕がシーラ王妃――リディアの母親によって開かれる。


 シーラ王妃は奴隷の管理を全て国で受け持つ新奴隷制度を定め、その手腕で次々と変革を進めていった。

 困窮で奴隷落ちした貧困奴隷と、罪を犯して奴隷落ちした犯罪奴隷とを区別し、前者を国の投資で発足した奴隷の館に収容するという現行の制度も、シーラ王妃によって作られたものである。

 客には奴隷の紹介料、奴隷からは労働先の紹介料――3年間給金15%を徴収し、さらに奴隷の雇用に税を課すことで、奴隷の館の運用を成功させたのだ。


 奴隷制度をはじめとするシーラ王妃の改革は、国民からも絶大な支持を得て、全てが順調に進んでいるかと思われた。

 保守派によりシーラ王妃が暗殺されるまでは……。


 急激な変化は、一部の者に不満を募らせるのも早かったのだろう。

 暗殺、暗殺とそれでいいのかとも思うが、どこの世界でも似たようなものらしい。

 

 結果として、新奴隷制度の変革は娘であるリディアに引き継がれ、今である。




「いやー、しかし驚いたな。俺の今更感もそうだけど、リディアがそこまで大掛かりなことをしてたとは」


 今日も俺達は図書室でまったりしていた。

 俺とユー君とゴブの常連組に、リディアとシェラの時々参加組を加えて5人。俺の両隣にゴブとユー君が座り、正面にリディア、その後方で剣を振っているのがシェラである。

 このメンバーで図書室に集まるのも何回目だろうか。リディアとシェラが来ても挨拶一言で済ませられる程度には慣れてしまっていた。


「ふふ、見直した? サインしたくなっちゃった?」


 誇らしげな顔をしながら雇用契約書をちらつかせるリディア。


 こんな奴でも実は凄い奴らしい。

 あれもこれもこいつの立案だったとは。


 特に驚いたのは、奴隷の首輪を導入したのがリディアだということだ。

 世界に三つしかない伝説的な魔装具のオリジナルのうち一つがクラベスにあるようで、それを使って奴隷の首輪を製作していったんだとか。奴隷の首輪も元は変哲もない金属の首輪らしく、その特殊な魔装具で魔法を付与することで、はじめて奴隷の首輪として機能するらしい。


 こんなこと俺達に話していいのかと思うが、どうやら一般常識レベルの知識だったらしく、俺以外――ユー君はまだしも、ゴブとシェラまで知っていたのだから俺の無知っぷりが露見されてしまった。


奴隷の首輪(これ)で僕達の行動が制限されているからこそ、こうして館内でなら自由にできるわけだからね。首輪をされるまでは、地下にある鉄格子の部屋で監視されながらの生活だったらしいよ」

「あー、らしいな。まあ、首輪がなきゃ館の外にも行けちゃうからな。全員に監視をつけるわけにもいかないだろうし」


 そんなことをすれば人件費がいくらあっても足りないのは明白だ。


「うんうん、ゴブ、その頃からココにいたからよくわかる。3日に一度、牢屋の外に出られて、だけど、決められたことやらなければいけませんでした。剣の日、弓の日、本の日。ゴブ、本の日は嬉しくてたくさんはしゃいだ。そんな気がする」


 気がするだけかよ……。


 俺もユー君も奴隷生活は長いほうだが、ゴブほどではないので、そこら辺は人づて――あるいは本で読んだ程度の知識しかない。


 3年前。俺が奴隷の館(ここ)に来た時には、既に今とあまり変わらない素晴らしい暮らしが待っていた。

 俺がきてから大きく変化があったことといえば、クエストと称した雑務――清掃、営繕、警備など様々な館内業務を奴隷自身に行わせることで、人件費を削減すると同時に奴隷の収入源を設けるシステムが作られたくらいだろうか。

 他にもあるかもしれないが、すぐには思い浮かばない。


「首輪をつけないと守ることもできないなんて情けない話だけどね……――ううん、ごめん、独り言。時間は掛かるかもしれないけど、必ずもっとよくしていくから任せておいて!」


 リディアにも色々と思うところはあるのだろう。表情が若干ぎこちない。

 ただ、必死に頑張ってくれているということだけはなんとなくわかる。こういうところもリディアが皆に慕われている理由の一つなのかもしれない。

 

「リディア様……。ありがとうございます」

「グギャギャ! 十分いつもゴブは幸せ。感謝!」


 ユー君とゴブに合わせて俺も一言「ありがとな」と礼を言っておく。

 奴隷ニート生活を支えてくれている人への感謝を俺は忘れない。


「あはは、どういたしまして」


 そう言いながらスッと俺に雇用契約書とペンを差し出してくるリディア。

 丁寧なことに署名欄のところが丸で囲まれて、わかりやすくなっている。

 

「確かに感謝はしてるけど、それとこれとは話が別だ。生憎、俺は知らない大多数の為に今の生活を捨てられるような立派な人間ではないんでな」

「――そう思っていた。リディア、お前に出会うまではな……」

「こらこら、勝手に台詞を付け足すな」


 決め顔イケボでなんか言っちゃってるリディアの頭を軽く叩く。


「――あいたっ! ……もう、ひどいなぁ」

「そう言いつつなんでそんなに嬉しそうな顔してるんだよ……」

「ふふ、なんでだろうね?」


 相変わらずこの女は……。

 何を考えてるのかまったくわからん。


「ソウジ、いい加減観念する。王女様の護衛できるの凄いこと。ゴブは友達として誇らしいです。誇らしすぎて、私はソウジが少しだけグチャグチャになればいいと思っています」

「ゴブまで俺の敵かよ。ってか、本音を出しすぎだ」

「ギャギャ!! 失礼いたしました!」

「ったく……。俺の今後の人生が一筆で変わるわけだからな。そう易々と雇用契約なんてたまるか」


 王女護衛なんて引き受けたら最後、生活時間の大半が城になってしまう。必然的に一般に知られるわけにはいかない情報も手に入れてしまうだろうし、後戻りが出来なくなるに決まっている。『機密事項を知られてしまったからには、このまま君を帰すわけにはいかない』的な。


「難しく考えすぎだよ。とりあえず働いてみて、無理そうだったらやめればいいんじゃないかな」

「よく言う。俺の目にはここに『強制終身雇用』って書いてるように見えるんだがな」

「……あらら、気付いてしまいましたか」

「あららじゃねえよ、悪質すぎんだろ」


 ネタだと信じたいが、これにサインをすればルート確定するくらいには影響力のある分岐だと俺は思っている。ノリでサインするような迂闊な行動は致命傷となるだろう。

 毎度毎度、知らないうちに、俺の手の届く位置にそっと置かれている決闘申請書もまた同様である。


「ん、どうした急に私の方を見て。……む、さてはようやく私と戦う決心が――おい! なぜ視線を逸らす!!」


 危ない危ない。

 ギリギリセーフだ。バレてない。


「おい! 聞いているのか!! 今絶対に私の方を見ただろう!!」


 ああ、わかっているさ。

 現実逃避していただけだ。

 

 シェラが振るっていた剣を鞘に収めてこちらに歩いてくる。

 

 はてさて、今日はどう言いくるめてやろうか。

 考えを巡らせていると、思わぬ来客者が階段から現れ、俺の思考が停止する。


「お話の途中申し訳ございません」


 いつぞやリディアが連れていた銀髪のメイドである。名前はレインだったはず。


「リディア様、お話があります」


 レインがリディアの横に立ち、安定の無表情で口を開く。

 やや目尻が上がり、神妙そうな顔つきになっているような気がしなくもない。


「……あんまりよくないお話っぽいね。5段階評価にすればどれくらい?」

「3.5……――いえ、3.7ですね」

「3.7かぁ。聞きたくないけど、そういうわけにもいかないよね」


 5段階評価とはいったい……。

 流れ的に深刻な事態に陥った感じなのに、二人の会話のせいで緊迫感の欠片もない。


 そのことを言葉にしようとして俺は口を開きかけるが――


「館内で死人が出ました」


 レインの口から発せられた衝撃的な内容を前に、俺は言葉を呑んだ。

 

 

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