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異世界奴隷ニート、ここに極まる ~絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女~  作者: 萩野知幸
1章 絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女
17/27

16 - 繋がり3

 館長室から出ると、二人の女が俺を待ち構えていた。


「お、終わったか!」

「あ、宗司! おかえり」


 一人は黒いポニーテールの軽鎧姿、シェラ。

 もう一人は、布成分多めのファッション的な鎧を着たリディアである。


「おう、ただいまー……って、そうじゃない。シェラがここにいるのはわかるけど、なんでリディアまで?」


 昨日、俺の魔法が暴発した際、状況の説明を求めるシェラには『気持ちの整理をするから一日待ってくれ』と頼んだ。

 なのでシェラがここにいることに疑問はないが、リディアに関しては俺は知らない。


 まあ、様子見といったところだろうが。


 二人の間にある物理的な距離や雰囲気から察するに、親しい仲というようには見えないが、だからといって知らない間柄でもないようだ。シェラも名家の育ちだというし、面識くらいはあるのだろう。

 中身はおいといて、見た目だけなら二人とも気品に満ちており、なんともえる組み合わせである。


「なんでってお前、この後、王女と本契約を結ぶ約束もしているんだろう? 聞けば私より先約だというし、予定があるのなら先に言って欲しかったものだな。事前に時間の指定をしてくれれば私だって合わせることはできたというのに」

「え……? あ、いや、すまん、確かに時間と場所くらいは指定すべきだったな。でも、ちょっと待ってくれ。誰と誰が本契約を結ぶって?」


 俺の予定表にはそんな予定は存在しない。

 俺は情報の発信源であろう人物を見る。


「私と、宗司がだよ。そうなればいいなーってね?」

「……なんだ、妄想の話か。そういうのは外部に出力しないでくれると助かる」


 ただでさえシェラは騙されやすい性格をしているのだ。

 変なことを吹き込まないで欲しい。


「ん? どういうことだ? 約束していたわけではないのか?」

「ああ、安心してくれ。そういった事実は一切ないから」

「……ふむ、よくわからないが、それならどうして王女がここにいるのだ?」

「だから、俺もそれを聞いたんだろ」


 今度は俺とシェラ、二人でリディアの方を見る。


「私はただ宗司が館長さんに呼び出されたって聞いて、心配で様子を見に来ただけだよ」

「ってことは、大体何があったかってのも知ってるわけか」

「あはは、もちろんだよ。魔法で宿舎前の丘を吹き飛ばしたって館内じゃ話題になってるもん。いやはや、さすがは宗司さんといったところですね」

「そりゃまあ、あんだけド派手にやらかせば人の目に付かないはずないか……」


 あー、胃が痛い。

 ここ最近、俺の奴隷ニート生活は徐々におかしな方向に進み始めている気がする。


「それじゃあ、宗司、何があったのか聞かせて? もう私、心配で心配で朝ごはんも食べられなかったんだから」

「いや、話すのは別に構わないけどさ。それが”心配”って顔かよ」


 飢えたハイエナの方がまだ表現として近いのではないか。 


「失礼だなー、乙女心は複雑なんだよ。そんなことより早く聞かせて欲しいな。館長室で話したこと。会話形式でさ」

「――んあ!? 会話形式!?」


 思わぬ要望に変な声が出てしまった。


「うん、会話形式。やっぱり恥ずかしいかな?」

「いや、恥ずかしいか恥ずかしくないかっていったらそりゃ恥ずかしいけどさ。絶対おかしいよな。何が悲しくてこんなところで一人二役を熱く演じなきゃいけないんだよ」

「じゃあ私の部屋に来る?」

「場所の問題じゃねえよ!! 普通に説明すればそれで済む話だろ! ようは丘を消し飛ばした経緯が知りたいって話だよな?」


 当事者は俺一人だけなのだから、登場人物も俺一人で十分だ。

 俺の話に館長はいらない。


「それは聞かなくてもわかるから大丈夫だよ。魔力の暴走が原因でしょ? 私が知りたいのは館長室でのことかな。場の雰囲気とか会話の流れとか、そういうのが知りたいんだよね」

「え……。なんで魔力の暴走のことを知ってるんだ……?」


 そのことはシェラにも話していない。

 知っているとすれば、魔力を暴走させた張本人の俺と、つい今しがたその話を伝えた館長くらいだ。


「だって、それくらいしか考えられないもの。ただごとじゃなさそうな雰囲気だったって、シェラから聞いたしね。どうせ加減を考えないで全力で魔法を使おうとしたんでしょ?」

「なんでわかるんだよ……」

「それはだって私だし、ねえ?」

「あー、うん、まあいいや。でも、魔法を使うのに全力で挑んだのは悪いことじゃないだろ? 問題は俺が制御できなかったってことなんだから」


 結果あの暴発である。

 俺がしっかり自分の魔力を制御できていれば、あんなことにはならなかっただろう。


 しかし、リディアは俺とは違う見解をお持ちらしい。「うーん」と首を傾げて口を開いた。


「それはちょっと違うと思うよ。制御ができなかったら魔力を身体に留めることすらできないからね。むしろ、あれだけの魔法を撃てるほど魔力を溜められたんだから、宗司の魔法の制御力はずば抜けてるくらいだよ」

「え、そういうもんなのか? 途中で制御できなくなったのに?」


 制御力がずば抜けてる人間は、魔力を暴走なんてさせないと思うのだが。


「それは魔法の制御力――技能や才能の問題じゃなくて意識の問題だろうね。体内で変換した魔力量と、イメージした魔法の釣り合いが取れなかったんだよ」

「んと、つまりそれは俺のイメージが悪かったと?」

「そういうことかな。例えるなら10トンの金属でこーんな小さな指輪を作ろうとしたみたいな? どうやっても使い切れなかった部分が行き場を失って溢れちゃったんだと思うよ」


 なんということだ……。

 そうだったのか。


 あの時、俺がイメージしたのはロウソクに火を灯すような指先サイズの炎だ。

 実際には、まだ魔法を撃つ段階まで練習は達していなかったが、終始、意識はしていた。

 それなのに、俺が丘を消し飛ばせるような魔力を生成してしまったものだから、過剰すぎる魔力が溢れてしまったのだろう。身体や部屋が熱くなっていったのはそれが原因というわけだ。


「と、いうわけらしいぞ、シェラ」


 本来、俺が語らなければならない事を全てリディアが話してくれた。

 経緯はどうあれ、これでシェラとの約束は果たせたことになる。

 

「…………」

「ん? シェラ? 聞いてたか? ――っておい!! よだれよだれ!!」


 俺の声に「ジュルリ」と気持ちの悪い返事をするシェラ。

 色々残念すぎる。


「すまない。つい興奮してしまって……。だが、安心してくれ。ちゃんと話は聞いていたさ。聞いていたからこその興奮だ。ふふふ」


 なんで誇らしげなんだこの女は……。


「と、とにかく……。これで二人とも用件は済んだわけだよな。若干1名、突拍子もない要望ゆえ期待に副えなかった人物もいるが、そこは受け入れてくれ」

「えー、せっかくここまで来たのにお預けなんてずるいよ。部屋の防音対策がしっかりしてたせいで全然聞こえなかったしさ。あ、声にするのが恥ずかしいなら、お芝居の台本みたいな感じで――」

「却下」

うたにして今度聞か――」

「却下!」

「レインに館長役をやらせるから――」

「却下却下!! 駄目なものは駄目だ! ったく、次から次へとよくもまあそんな良からぬアイディアが浮かんでくるもんだな」


 リディアがブーブーと不満をたらすが知ったことではない。

 王女様に現実の厳しさというものを教えてやらねば。

 

「ちょっと待ってくれ! 私だってまだ何も済んでないぞ! 時間やルールの取り決めもまだだし、この決闘申請書にはお前が記入する欄だってあるんだ。提出も二人揃っていないとできないしな」


 シェラが懐から一枚の紙を取り出し、俺に見えるように広げる。


「は? 決闘申請書?」

「そうだ! 昨日、『一日だけ待ってくれ』と言っていただろう。まさか忘れたとは言うまいな?」

「いや、うん、忘れてないさ。忘れてないけど……」


 勘違いです。

 だってそれ決闘の話じゃないし。


 うーむ、どうしてあのタイミングでそう捉えてしまうかなぁ……。

 

 魔法を暴発させた後に、部屋の外にいたシェラから『何があった』と聞かれたから、俺は『気持ちの整理をするから一日待ってくれ』と答えたんだ。

 あの時、決闘を匂わせるような言葉はなかったはずなのだが、どうしてそれが決闘の約束になっているのだろう。世の中には不思議がいっぱいだ。

 

「ふふ、シェラ、宗司が嫌がってるよ。宗司は決闘だなんて望んでないんじゃないかな」

「なに……? そんなはずはない! 見ろ! この燃えたぎるような瞳を! これは闘いを渇望する戦士の目だ!」

「うーん、寝不足で目が充血してるみたいだね」

「いいや、違うな。これは闘志の炎が瞳に宿っているからだ。その証拠にほら、私の瞳もこいつと同様赤く染まっているだろう? 血が沸くような闘いを前にすると、我々のような人種はこうなってしまうのさ」

「うん? シェラも寝不足なだけじゃないかな。どうせ興奮して眠れなかったんでしょ」


 一体この二人はどういう関係なんだろうか。

 いまいち距離感がわからない。

 

「ね、寝不足など関係ない! 断じて違うぞ!!」

「あ、興奮して眠れなかったのは事実なんだ? ふふふ」

「ぐっ、王女! 戯れはそのくらいにしていただきたい! 大体、王女こそ私のことは言えないはず! 先ほどはニートと雇用契約を結ぶなどと言っていたが、ニートにはその気がないようではないか。その手に持った雇用契約書はさっさとしまった方がいいと思うがな」

「え? 雇用契約書? ……あ、本当だ。なんでこんなもの手に握ってるんだろ?」

「とぼけるつもりか!?」


 気が付けば蚊帳の外にいる俺。

 

 まあいいか。

 用件も済んだことだし。


 言い合いをする二人を俺はただ眺める。

 険悪な雰囲気ということはまったくなく、むしろそれと逆の印象を受けるのは俺の感受性がおかしくなってしまったからだろうか。


 初めは離れていた二人の距離も今では手が触れ合うほど近くにいるし、なんというべきだろうか、言葉では上手く言い表せないが、見ていて安心感がある。

 口では色々と言っているが、内心ではそれを楽しんでいるような……。

 少なくとも仲裁に入ろうとは俺にはどうしても思えなかった。


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