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異世界奴隷ニート、ここに極まる ~絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女~  作者: 萩野知幸
1章 絶対に働きたくない俺と絶対に雇いたい王女
10/27

9 - 襲来3

 はあ、お茶が美味しい。


 銀髪メイドのレインが煎れてくれたお茶を飲みながら、俺はソファで精神を落ち着ける。

 正面にはリディアが座っており、その後ろにはレインが控えている。


「よーし、話を始めようじゃないか。聞きたいことは山ほどあるけど、まず二つ教えてくれ」

「うん、いいよ、答えられる範囲ならね。――あ、レインのことなら気にしなくていいからね。口の堅さは私が保証するから。ね? レイン」

「ええ、私の口の堅さはとどまるところを知りません。宗司様がリディア様に協力的である限り、決して他言しないとお約束いたします」


 おっと、のっけから不安にさせてきやがる。

 なんだよ、『協力的である限り』って。


 だが駄目だ。耐えろ俺。

 つっこんだら負けだ。


「……んじゃ、まず一つ目。どうやって俺を探し出したんだ?」

「あ、そんなことでいいんだ? 手当たり次第、職員に聞いてたら知ってる人がいたんだよ。ニートを探してるって言ったら管理番号を教えてくれてね。あとはその管理番号の人物を受付で探してもらっただけ」


 俺がニートを名乗っていることを知っている職員……。


 おばちゃんだな……。

 おばちゃんならニートで通じる――ってか、逆に宗司じゃ通じなさそうだ。


 受付で『ニート』という名前を探すよう依頼してくれていれば、俺には行き着かなかったはずなのに、まさか聞き込み調査で管理番号を先に引っ張ってくるとは。

 抜け目がないというかなんというか。


「宗司は本が好きなんだね。文字も綺麗だし、読み書きは得意なのかな」


 ひえ……。

 個人情報もなにもあったもんじゃない。


「ん……待てよ。俺を特定出来てたなら、掲示板の証言はなんだったんだ? とんだ茶番じゃないか」


 確か、一言御礼がしたいからニートを探して欲しいとか、そんなことが書かれていた。


 管理番号がわかっているなら、いくらでもやりようはあるはず。

 それこそ『本日の呼び出し者リスト』で呼び出してくれればよかったのだ。

 あるいは、人通りが少ない時間を狙って、部屋に直接訪ねてきてくれてもいい。そうすれば、あんな騒ぎにはならなかったのに。


「うーん、私はこれでもこの国の王女だからね。こそこそ動いて、後から事実と違った噂話を流されても嫌だし、どうせなら大胆に攻めようかなって。牽制にもなるし」


 なんの牽制だよ……。


「ねえ、そんなことより、二つ目の質問は?」


 リディアの澄んだ瞳が俺を映す。

 

「いいだろう、二つ目の質問だ。……そもそもだ。なんで俺に会いに来た? まさか掲示板に書いてたように『一言御礼がしたい』、だなんて言うわけじゃないだろ?」

「え……――あ! ああああ!! そうだよ!! それだよ!! どうして忘れてたんだろ!!」


 うお、なんだなんだ!?


 急に奇声を発して立ち上がるリディアに驚き、俺まで立ち上がってしまった。


 リディアがスカートと上着の襟元を正して、咳払いをする。

 そして頭を深く下げ――


「昨日は巻き込んじゃって本当にごめんなさい! ……それと助けてくれてありがとう。これだけはどうしても言いたかったんだ。遅れてごめんね、私ちょっと浮かれてたみたいで……。これ、ほんの気持ちなんだけど受け取って欲しいな。――レイン、お願い」

「はい、かしこまりました、リディア様」


 ほんの気持ち……?


「――いやいや、んなの貰えるわけないだろ!!」


 気持ちがこもって重たそうな小包を持ってくるレインを制止する。


「昨日も言っただろ! あれは俺じゃないって!! 嘘とか冗談じゃなくてマジなんだって!!」

「うん、じゃあそれでもいいよ。もしも、宗司に何の力もなかったとして、私の前に立ってくれたことに違いはないでしょ? 勝てる見込みもないのにさ」

「……え、いや、でもだな」

「――あの場では逃げても殺されそうだった? それでも逃げないよりはマシだったんじゃないかな」

「そ、そこはほら! お前が王女様だったから!! 見返り、とか……――いらないじゃん」


 言っていて自分で気付いた。

 見返りを求めた時点で俺の発言が矛盾する。


「じゃあ宗司は、見返り抜きで私が王女だったから助けたんだ?」

「ん、まあ、そんなところかな」


 あー、どんどん墓穴を掘っている気がする。


「でも宗司、昨日は私が王女だって知らなかったでしょ? 昨日と今日じゃ、少しだけ私を見る目が違うもの」

「え? まじか!!」

「――ふふ、嘘」

「は……? 嘘?」

「そう、嘘。でも、その反応、図星だったみたいだね」


 ぐぬぬ、このアマ……。

 やってくれる。


「そんな怖い顔しなくて大丈夫だよ。宗司が凄い魔法士だってことは、私もレインも誰にも言わないから。奴隷の首輪を外せることもね」 

「…………何が望みだ?」

「望み? そんな脅しのようなことはしないよ。宗司のことを秘密にするのは、私のためでもあるし。まあ、皆に納得してもらうのためにも、ちょっぴり凄い魔法士くらいにはなってもらうけどね」

「いや、ちょっぴりも何も魔法が使えない俺にどうしろっていうんだよ」

「何もしなくていいんじゃないかな。宗司は今まで通りゆっくり図書室で本を読んでいればさ。私が『宗司はちょっぴり凄い魔法使いです』って言えば、後は周りが勝手に騒いでくれると思うよ」


 そういう問題じゃないと思うんだが……。


 とはいうものの、既に賽は投げられてしまっているのだから俺にはどうしようもない。

 それこそリディアの言うように黙って本を読んでるくらいしか出来なさそうだ。

 人の噂も七十五日とはいうが、王女という証言者がいる場合についても適用されるのだろうか。


「……なんかもうどうでもよくなってきたな。それで結局、お前が俺に会いに来たのは、謝罪と感謝の言葉を伝えるためだったってことでいいのか?」

「そうだね」


 リディアがカップを傾け一息入れる。

 その後、カップをテーブルに置くのと同時、「半分」という単語がリディアの口から微かに聞こえてきたのを俺は逃さなかった。


「――半分!? 半分って言ったよな今!?」

「え? レイン、聞こえた?」

「いいえ、私には何も……」


 もうね、本当この二人はもう。

 いくらなんでも、あからさますぎる。


「よし、じゃあお前の目的はこれで達したわけだ。俺はもう帰っていいってことだよな?」

「――あ、ずるい! そういうのはずるい!!」

「ずるくない!! じゃあな!」 


 面倒なことになる前に帰ろう。

 急いで帰ろう。


「レイン!」


 リディアに呼ばれ、レインが頷く。


「――不肖、レイン、歌います。曲は『外れない首輪の唄』。……コホン。く、く、首輪が外れそうー、なにかの拍子で……あ、外れちゃいまし――」

「外れちゃ駄目だろ!! ああ、もう! わかった! わかったから、やめてくれ!!」


 そうだった。


 首輪の件のせいで、俺は逃げられない。

 首輪を外せることは内緒なのに、この二人にはバレているんだった。

 そのことを、すっかり忘れていた。


「よかった、考え直してくれたんだね」

「強制的にだけどな」

「ふふ、宗司は面白いね」

「そいつはどうも」


 もうツッコム気力もなくなってきた。

 というか、もともと俺はツッコミタイプではないんだ。


「で、他に何の用があるんだ?」

「うん、まあ、大したことじゃないんだけどね。これに署名が欲しいんだ」

「は、署名?」


 レインから一枚の紙を受け取る。


「……雇用契約書?」

「うんうん!」

「ほほお、なるほどね」

「どうかな? 待遇とかは交渉に応じるよ?」

「……破っていいか?」

「駄目だよ!!」


 待遇とかそういう問題ではない。

 雇用契約を結ぶなど言語道断。俺は奴隷ニートであることに誇りを持っている。


「何を血迷ったか知らないが、俺はお前の求めているような人材じゃないぞ。護衛なんて絶対に勤まらん」

「それは私が決めること――って言っても宗司は納得してくれないよね。……うーん、やっぱり簡単には頷いてくれないかぁ。そんな気はしてたけどね」

「まっ、そういうわけだから、大人しく他をあたってくれ」


 リディア的にもそれがいい。

 俺が言うんだから間違いない。


「……まずは情報収集からかな。宗司が奴隷に拘る理由を調べて、それから……――うん、面白くなってきた!」


 聞いてないし……。




****  





 結局、俺はその後すぐに解放された。

 リディアが俺のことを調べようと張り切っていたのは心残りだが、調べられたところで俺が最終的に雇用契約書にサインしなければいいだけの話だ。

 首輪の件に触れられることもあれ以降なかったし、きっとリディアも本気で脅すつもりはなかったのだろう。


 ふぅ……、さすがに疲れたな。


 自室に戻った俺は、椅子に深く腰を掛ける。


「今日はもう部屋でゆっくりしてよ……」


 今朝の一件は、既に館内に広まっているはず。

 図書室でユー君とゴブに色々と報告したかったが、今日はもうやめだ。

 明日から本気を出そう。


「――ん? これは……」


 机の上に一枚の手紙と、両手にちょうど乗っかりそうな木箱が一つ置いてある。

 サイズ的には、感謝の気持ちと称してリディアが俺に渡そうとしたものと同じくらいだろう。 


「先回りして俺の部屋に置いたってことか……? 最短距離で戻ってきたはずなのにどうやって……」


『私のために受け取って下さい。あなたが魔法士を名乗れるよう、これを送ります』


 手紙にはそう書かれている。


「……魔法士を名乗れるよう? ったく、なんだってんだよ……」


 ――げ!


 木箱の中には、魔装具らしき指輪と、金貨が詰まった小箱が入っていた。

 小箱の蓋にはメモが添えられており、それによると、この金貨は血で汚してしまった衣類の償いらしい。


 やりすぎだ……。


 魔装具は高級品だし、金貨だってこれだけあれば俺の一生分の服が買えてしまうだろう。


 ……しゃあない、後であいつの部屋にこっそり戻しておくか。

 

「――っと、まだなにかあるな」


 木箱の奥底に入っていた一枚の紙を取り出す。


 まったく、今度はなんだ?

 一枚に纏めればいいのに。


『返品は却下。王女からのプレゼントを付き返すと不敬罪で投獄されちゃうかも? ただし、この雇用契約書に署名して返品するのなら許されます』


 雇用契約書を裏紙にして、そんなことが書かれていた。

 

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