約束
ある日、少女は王子様と出会いました。
そんなお話も、名前を変えるだけであら不思議、アジア風になってしまいました。
アーサー王や円卓の騎士の伝説よりも古い昔々、世界は魔法や呪い、神秘の技に満ち溢れていました。
ヒミョンは大魔女ユンの弟子でした。
ある日、森に薬草を取りに出かけていたヒミョンはポンポン王国の王子サギュンと出会いました。
「誰だ!」
剣を向けるサギュンに驚いてヒミョンは薬草の入ったかごを落としてしまいます。
「誰だじゃないわよ、貴方こそ何様よ!」
激怒するヒミョンの姿にサギュンは目を丸くし驚きました。
「俺は王子だ」
「王子様でも、その前に何か言うことあるんじゃないの?」
ヒミョンは謝罪を求めます。王子様としてではなくサギュン個人として見てくれる相手は珍しい事でした。
ヒミョンと友達になり会いに通っていたサギュンは、お城に戻る日に約束をしました。
いつかサギュンが王位を継ぐ時には、その傍らに宮廷魔女としてヒミョンを迎えると。
宮廷魔女は王の腹臣と言えます。その信頼は愛に変わり寵姫として扱われる事も珍しくありませんでした。現に王族の妾腹として生まれた魔女の子が、大魔女や大魔法使いとして歴史に名を残しています。
サギュンの役に立ちたい一心でにヒミョンは大魔女ユンの下で修行を積み、見習いを卒業しました。
そして悠久の日々を待ちました。
ある日、サギュンと出会った森を散策してると怪我をした村人に出会いました。
彼の名はポゴム。彼女無しの童貞で、美しい魔女の姿に心を奪われました。
「こんな所でどうしたの?」
「王様に御子息が生まれて、そのお祝いに献上する花を積みに来たんだ」
王様。それはサギュンの事でした。
サギュンは他の魔女を宮廷魔女に迎え、そして王妃として添い遂げてしまったのです。
信じたくはありませんでした。ですが約束は忘れ去られていたのです。
「そんな、結婚をして子供までできていたなんて……!」
ヒミョンは呪いをかけました。子々孫々、領民に至るまでの呪いです。
王子誕生から一年目、用意周到に準備された呪いが始まりました。
高熱を出して寝込んだ王子を医師や宮廷魔女が必死に治療しますが、呪いがかかっているのでどうにもできません。
「陛下、畏れながら今晩が峠かと……」
医師の言葉にサギュンは絶望しました。妻は諦めず息子の治療に専念しています。
「チャンサン、母様が付いてますからね。貴方を絶対に助けて見せますから」
手を握る王妃の目の前で金魚のようにパクパク口を開いて呼吸を求めていた王子は息を引き取りました。すっと生命力が抜けていくのが分かりました。
「ヒギィイ!」王妃は悲鳴をあげると我が子の亡骸を抱き締めました。
悲しみにくれるサギュンと王妃でしたが、ポンポン王国を襲う悲劇はこれだけでは収まりませんでした。
領民の間で腐り死んでいく病が流行りました。
「一体、この国はどうなってるんだ?」
「ソーマの一家もみんな死んだ。これでヨンガリの村は全滅だ」
恐怖におののき領民は土地を捨て逃げ出して行きました。それを止めるべき役人や兵士も逃げ出して居るのだからどうしようもなかったのです。
「ミッシェル、お前まで余を残して先に逝ってしまうのか」
ついに王妃も病に蝕まれ死んでいきました。
大臣も貴族もみんな逃げてしまい、一人、お城に残された王様。
そこにヒミョンが現れました。
「ひゃはははは。ざまあああみろ。お前の愛した息子、妻、国、全て壊してやった」
爆笑する魔女に王は剣を向ける気力も体力もありませんでした。
「何故だ」
サギュンはヒミョンに気がついていません。
「約束を破った報いだ」
冷たい目で告げるとヒミョンは呪いの仕上げにかかります。
女を裏切ったゲスな王は生きたまま石にされ永遠の時を刻むのでした。
めでたしめでたし。