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ウサギのお願い

■ウサギカフェ


 僕の実家は一戸建てだけど今はペットは飼っていない。人より寿命の短い動物を飼う事は、別れが悲しいからだ。

 そんな僕の癒しはウサギカフェ。コーヒー一杯で、ウサギと触れ合える至福の一時が提供される、優しい憩いの場所。

 無垢な瞳で見詰められ、モコモコとしたウサギを抱いて撫でているだけで至福の時間を過ごせる。コーヒーを何杯お代わりした事か。

 夏の暑い日、さすがにウサギなんて触っていたら暑苦しいと皆は言うが、店内の空調は適温でウサギとの触れ合いを妨げる物はない。 だらしなくにやける顔を我慢はしない。ここはウサギ好きが集う癒しの場所なのだから。

「ウサギ、好きなんですか?」

 不意に話しかけられて視線を向けると、ウサギの着ぐるみを着た若い女性が目の前に立っていた。一目で重度な廃人だと分かった。

(こいつ、相当の好き者だな)

 店内は涼しいと言っても外では夏。ウサギの着ぐるみを着ているほどのウサギ好き。

 だがウサギ好きに悪い人は居ない。

「ええ、まぁ」

 適当な相槌を返しながらウサギの背中を撫で寛ぎを続ける。女性がいなければ顔を押しつけてすりすりしている所だ。

「ウサギを虐める人をどう思いますか?」

 女性は足元に寄ってきたウサギを撫でながら尋ねてきた。

「最低ですね」

 そんな奴がいたらぶちのめしてやる、と言いたい所だが通報して精一杯かな。

「貴方に助ける力があるとしたらどうしますか?」

 変わった質問ばかりしてくる人だなと思いながら答えた。

「助けるでしょうね」

 普通の答え。それ以上でもそれ以下でもなかった。

「そう」

 満足したのか彼女は頷いて立ち上がると手を叩いた。


■ウサギのお願い


「へっ?」

 気がつくと草原にいた。ウサギも女性も居ない。

「お待ちしておりました、勇者様」

 振り返ると黒い首輪にネームプレートを付けた白いウサギがいた。ただし大きさが幼稚園児ぐらいはある。お持ち帰りをしたいと思った。

 毛並みは整っておりウサギカフェに匹敵する美ウサギだ。抱き締めたいが我慢する。

「私、宮廷侍従のコマと申します。国王陛下がお待ちしておりますので、こちらへどうぞ」

 ウサギが喋っている。口パクのアフレコではなく本物だ。

「あ、ああ」

 流されるままウサギの後に付いていくと、しばらくして小さな村を通った。

「コマ殿、そちらの方は?」

 知り合いらしいウサギがコマに話しかけてきた。するとコマは周囲を見回して響き通る声で言った。

「皆の者、勇者様が降臨なされた」

 コマの言葉に遠巻きに視線を向けていた住民が集まってくる。犬、ハムスター、ウサギだ。ウサギや動物好きにはたまらない。

(何ここ? もしかして天国ですか)

 コマはさらに言葉を続ける。

「これで蛮族との戦に勝利する事も出来るだろう! 称えよ、ニンジン!」

「称えよ、ニンジン!」 

 歓迎を受けながら国王の居城、キャロット城に入った。

 謁見の間ではでっぷりと肥えたウサギが居た。王冠とマントで王様だと分かる。

「余がウサウサ・タン王国国王のベスじゃ」

「新居戸です」

 クンクンと鼻を動かす王様がラブリーだった。可愛さに頬が緩みそうになるけど耐えて話を聞いた。

「我がウサウサ・タン王国はウサウサ族、ワンダフル族、ハムハム族の三族協和で成り立っています。しかしながら治安情勢が安定しているとは言えません」

 解説するのは内務大臣のエイミーさん。黒ウサギで艶々した毛並みが素敵です。

「我が国は常々、蛮族の侵略に脅かされて来ました。北のニャン・ニダ族です」

 とろけそうな脳でも、名前からして猫だろうと予想できた。

「奴等に滅ぼされた村の数は十を超えます! どうか我が国を助けていただきたい」

 彼らの期待に胸を張って答えた。

「まかせなさい」

 猫なんて可愛い物だ。自信溢れる僕の答えに、ぺたんとしていた耳と尻尾を振って歓声があがった。

「おおっ! 心強いお言葉です」

 国王は頷いて指示を出した。

「聖剣をここへ!」

 宝物庫から黒光りする剣をハムスター達が運んできた。

「聖剣エクス・キャリバー50じゃ。勇者殿、貴殿にニンジンの御加護があらん事を」

 ニンジンって野菜のアレか?


■ホーケイ会戦


「カナ将軍、部隊の展開完了致しました」

「宜しい。勇者様のご指示を待て」

 平原に戦列を組み展開するウサウサ・タン軍(兎軍)。本陣の天幕が張られた丘から見下ろすと甲冑に身を包んだウサギ、犬、ハムスターの姿が見える。

(迫力無いな……)

 アンゴラウサギに似たカナ将軍を総司令官とする兎軍はニャン・ニダ軍(猫軍)と決戦をすべく兵をかき集めた。戦場はキャロット城前面のホーケイ平原。ここで敗れれば後はない。

 前哨線の味方から狼煙が上がり、しばらくして敵の軍勢が姿を現した。

「あれがニャン・ニダ族?」

「その通りです」

 カナ将軍の返事に目を疑った。ニャンと付くぐらいだから猫だと思っていた。

「虎じゃねえか!」

 虎の顔に筋肉ムキムキのマッチョマン達が攻めてきた。

 やるしかない。やらないと自分がやられる。やらないかと言われたらやるに決まっている。

 僕はラッコの背中に乗って戦場を駆けた。目指すは敵の先頭集団。最初に士気を砕き、勢いを味方につける。それが狙いだ。

「でやああああ!」

 降り下ろす聖剣は敵の兜を叩き割った。頭蓋骨まで達したらしく、苦悶の表情を浮かべて虎が倒れる。予想外の威力だった。

 エクス・キャリバー50は圧倒的切れ味を見せた。まるで豆腐のようだ。

「にゃ~ん!」

 気の抜ける悲鳴をあげながらマッチョマン達は倒れていく。味方の兵士が止めを刺してくれるので、さくさくと進んだ。

「勇者様に続け!」

 ばったばったと切り殺される虎男達。遂に敵の士気は崩れ逃げ出す者が現れた。前衛が崩れると本隊。見かけ倒しの烏合の衆だった。

「今だ! 全軍、打って出ろ」

 カナ将軍の指示で兎軍は追撃を開始した。兎軍は北へ北へと攻め登り、ニャン・ニダ族は最後の拠点、ペク山に籠った。

「私は約束しよう。この戦で蛮族を討ち滅ぼし、祖国に平和をもたらすと。称えよ、ニンジン!」

「称えよ、ニンジン!」

 カナ将軍の鼓舞で士気はMAXになった。矢を放ち、一斉に駆け登っていく。


■エピローグ


 僕は一つの種族を滅ぼした。結果として王国を救うためだったが、良いことなのか分からない。

 城に戻ると国王からダイヤモンドニンジンと葉っぱ付き騎士十字勲章を貰った。ウサギ達の感謝が心苦しい。だけど、これで義務は果たした。

 式典が終わると宮廷魔導師が前に進み出てくると呪文を唱え出した。

「さようなら、勇者様」

「称えよ、ニンジン!」と全員が唱和している。

(ニンジンってどういう意味だよ)

 最後まで意味は分からなかった。そして光に包まれた。

 目を開けるとカフェの席。壁の時計は夕方の五時を指している。

(夢?)

 そう思いかけたが、握っていた手のひらを開くとダイヤモンドニンジンと葉っぱ付き騎士十字章が淡い光を放っていた。

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