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 サクラが捕らえられるのを見たゼロツーは、なすすべなく引き下がる。三発撃てば自身をオシャカにする対弩級砲では、この物量を処理しようがない。だからこその撤退だった。

 彼方から輸送ヘリがやってくるのを見て、通信を送る。

『霊亀降下中止!』

『えっ……なんで急に』

『サクラがやつらに捕まった! 迂闊に降下させても無駄だ!』

『そんな——了解』

 輸送ヘリが急な挙動で引き返す。

 自身もまた技術の結晶であり、だからこそ蛮勇を発揮し迂闊に捕まることはできない。

 走り出す。対弩級砲は重量を持っているが、そんなものは知ったことではない。今はただ、撤退に専念しなければならなかった。

 しかし、ゼロツーの重量が足を引っ張り、蝦蟇戦車との距離は縮まっていく。

 敗北のシナリオ。どうせ負けるなら、かっこよく、迷惑のかからない負け方をしたい。

 たどり着いた先の波を返す港を捉えて、すぐさまゼロツーは振り返る。対弩級砲を構えて蝦蟇戦車の額の広い頭部を狙う。

 一発目、的中(ヒット)。内部機関を丸出しにして、わずかな爆発を起こす。これで確信した。奴らは頭部を壊すだけで死ぬのだ。

 二発目、後方に続く蝦蟇戦車へ。的中(ヒット)。爆炎が最初の蝦蟇戦車の内部機関にかかり、お互いを燃やし尽くそうとする。対弩級砲の衝撃のあまり、対弩級砲は強襲型フレームにめり込み、内部機関が次々と故障を起こす。

 背後は港だと分かっている。火花散る金属の肢体を数歩下がり、三発目を次の蝦蟇戦車の頭部に向ける。

 こういうのを背水の陣っつったかな。そう思い返しながら、最後の一発を発射する。三発目、的中(ヒット)。同じく爆発を起こし、辺り一面は炎に包まれた。

 反動に身を任せ、ゼロツーは海に投げ出される。バラバラになるパーツが海へと散り散りになり、意識には既にノイズが走る。

 鹵獲されるのと、今ここで死ぬのとなら、どっちがいいとサクラは思っただろう。

 俺はあらかじめ組み込まれたプログラムがそれを許さなかったし、プライドの高いサクラならきっと、死ぬことを選んだのかもしれない。しかし、正直確信はなかった。

 俺の判断は正しかったのか。彼女は蝦蟇戦車ごと燃やし尽くされて、本当に良かったのだろうか。

 闇色の海へと沈み、パーツは散り散りになっていく。データを転送すれば、決して死ぬことはない。しかしそれは、己が許さなかった。

 もし俺もあの世に行けるなら、彼女の死に付き添わなければならない。償わなければ、サクラの運命は悲惨すぎると、そう思えたからだ。

 最期にさよなら、と言いたかった。らしくない身勝手を許してくれ、と言いたかった。

 しかし今は、そんな言葉も深い海の底に消える……。




 褐色烈風騎(カッシキホバー)が唸り、警邏車両(パトカー)を背後に速度を上げる。

 不二さんがこの件を処理するまでの間、わたしたちは晴れて特殊犯罪者だ。

 ひと気のある市街に出たばかりに、彼らは発砲を躊躇している。第四次構造物災害の一件があろうとも、一般市民を巻き込めないからだ。

 人や車にかいくぐって進んでいき、あちこちでクラクションや罵詈雑言が飛び交って、ひとつのリズムを奏でていた。

 ようやくひと気の収まったところに出て、二人はそれぞれの仮面を外す。なにげない話をする時に、こんな仮面は必要なかった。

「殺してくれればよかったのに」

「人殺しは犯罪だからね。わたし良い子なので」

 ナツミはそういうと、スズナは苦笑する。苦笑に気付かれなくても気付いても、こういう話を一向にやめないその姿に、懐かしさがあった。

「それにしても、あいっかわらず運転荒くない……?」

「こっちのがスリリングだよ」

「知らないわよ。もっと普通に走れないの?」

「おあいにく、ちっちゃな頃から悪ガキなので」

 エキゾーストノートをやかましく吹かし、速度を上げていく。意識さえすればヴェールが風向を逸らしてくれるため、機体の限界に付き合える算段だ。

 警邏車両も流石に追わなくなり、都市部を離れて山道に入る。ナツミ個人の感想だが、ここは走り放題だった。

「そういえば、荷物置いてっちゃったけど大丈夫?」

「あっ……」

「まあ、大したものは入ってなかったしいいよね。スズナちゃんの忌まわしきゴスロリ衣装も、警察に押収されてなかったことに!」

「いや、それは……」

 衣装の話に反応して、意味深に口をつぐむ。ナツミは背後を一瞥し、何かを察する。

「もしかして……今着てる?」

「……うん」

「そっか……」

 ナツミのかすかにうわずった声を、スズナは感じ取る。スズナにとって、彼女のことはまだよく分からず、それがどんな意味なのかを分からない。だから後悔しないよう、一歩先に進むことを決めた。

「好きだよ」

 単純だが、その単純さゆえに相手の感情を知れる便利な言葉を、耳元で呟く。エキゾーストノートが一瞬静まり、走る軌道がわずかにずれた。

 ただその動作ひとつが、スズナは嬉しかった。

「いきなり馬鹿なことを言うのはやめてくれないかな。わたし女の子だよ?」

「あんたが先に言ったんでしょうに……」

「あ、あれは適当に言っただけだよ。ああ言えば動揺するかと思って。まさかスズナ様わたしが本気でそんなこと言うと思っておりました?」

「違うの?」

「……友達として、ね?」

 烈風騎が先ほどよりも速度を増す。カーブ間近だったために少し曲がりきれず、烈風騎がフレームを擦って火花を散らす。

 その拍子に、スズナはさらにナツミの腰を抱き、身体にもたれかかる。愛しさを自覚すると、今まで考えなかったことをしてしまう。

 背後からナツミの腕に無数に刻まれた赤い傷跡をぼうっと見て、胸が苦しくなる。この傷跡は、裏切った自分への償いだった。

「ごめんなさい」

「うん、だからもうちょっかいかけるのはやめてね」

「そういうことじゃなくて、あたしのせいでナツミの身体に傷跡が出来たじゃない?」

「そっちか。まあいいけど、とりあえずそこまで身体を密着させるのやめない? 正直、落ち着かないっていうか……」

「やだ」

 首を振って断ると、ナツミがため息をつく。吹く風が少しだけ優しくなったのを感じて、スズナは笑みを浮かべた。

 兄さん、あたしがそっちに行くとしたら、まだだいぶ先かもしれない。

 だから、そんな妹の裏切りを許してくれると、そう願っています。

 さよなら、またいつか。



 脱力して背もたれへと倒れる。スズナのぶじが確認され、須藤(すどう)ミオは安堵した。

 ナツミさんは上手くやってくれたんだ。瞼を閉じて、ミオはふとそんなことを思った。

 アキラさんは今頃何をやっているのだろう。自らの意思で特災課を離れたあの人は、どんな人生を過ごしているのか。

 散り散りになったものが簡単に戻ることがないのは分かっている。ただ、少し寂しさがあった。

 今回の一件で、特災課は警察組織に問題視されることになる。下手をすれば解散だってありえなくはない。

 ただ、信じたかった。死なない限り、繋がりは途絶えることはないことを。

 それでも止められなかった繋がりというものは、確かにあった。そのことを思い出しながら、ミオは眠りにつく。

とりあえずひと区切りつきましたが結局終わらせられず、そもそも僕も続きを書いてないので、実質エタるというやつかもしれません。


設定がごちゃごちゃしてて、こっちの手に負えなくなったからです。ははははは。


気まぐれで時々ジャンル変えてなんか書くかもしれないですけど、まあ過度な期待はせずに…期待してる人いたのか?どうなんだろ、分からん…。


んじゃ、そういうことで。

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