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人機狭間の魔纏機姫〈フランケニズム・マトゥウィザーズ〉  作者: 郁崎有空
一章 ある時始まり、今でも続いて
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2

 長く細身のスプーンでアイスを掬い、なめらかに口に流し込んだ。

 ナツミは舌に感じた味を少し楽しんで喉を通る。そして、アイスとプリンを同時に掬って、また口に流し込んだ。

「久しぶりのパフェだけど、変わらず最高だね!」ナツミが上機嫌な声色で言った。

 向かって座るホナミは顔を緩ませて既に食べ終えて長椅子に背中を預けている。そして、口の端についたクリームに気づいて舌でかっさらった。

「うん、うん。今日は何ヶ月ぶりかの贅沢だった」

 その様子を小春は苦笑して見ていた。気まずそうにクリームソーダを吸い上げる。

「ところで、小春ちゃんはパフェ食べなくて良かったの?」

「悪いけど今日はパフェはいいかなー、なんて」

「えー……こんな機会なかなかないし食べないと勿体無いのに」

 そう言ってホナミは注文パネルを兼ねたスクリーン・テーブルを裏に取り付けられたスイッチでタッチパネルに切り替え、先ほど食べたパフェを追加注文した。コック帽を被ったマルチロイドは注文を受けると細長いアームを器用に使って慌ただしく働きだした。

 ホナミはせこせこと働くマルチロイドをじっと睨んで呟いた。

「……やっぱりあれが悪い。あれがバイトの需要をことごとく減らしやがるからこっちが苦労するんだ」

「まあ維持費が払えるほどの大手チェーンなら、人間と違ってほとんど失敗しないし給料の要らないマルチロイドを使う方が効率が良いだろうからねえ」

 ナツミの言葉に相槌を打って、ホナミがため息をついた。

「わたしのあがり症は悪くないと思うんだ。やっぱりマルチロイドに問題あると思うんだわ」

 そうしてマルチロイドを観察しているうちにマルチロイドの一体がパフェを持ってやってきた。

 ホナミは無愛想にマルチロイドからパフェを受け取り、スプーンで中身をえぐって口に放り込んだ。自棄になってパフェをもそもそ食べるホナミは、先ほどから打って変わって幸せそうに見えた。



 カエルのホログラムは相変わらず同じ動きをしていて、そんなカエルに人々は興味を示さずデパートに出入りしていく。ナツミたちも見慣れているため例外ではなかった。

「いやあ美味かったな」

「また行けるときに行きたいねぇ。自腹で」

「そこ強調する必要ないでしょ」

「ホナミちゃんがバイト始めてから自腹で」

「教室での件なら謝るから許してくれ」

「あれとバイトは関係無いから、あれをする勇気でバイト始めればいいでしょ」

 含み笑いでからかうナツミに、ホナミが必死にすがっているよそで、小春は空を見上げていた。

 エアカーのない景観の澄んだ空。少し赤っぽく陽がくれていた。

 エアカーがなく、空が管制されない。それは空が憧れの象徴でありつづけることを意味するが、同時にそれは誰しもの盲点ともなり得るものだった。

 一年前の第一次構造物災害(ファースト・フォール)。一定範囲の生命エネルギーを貪る謎の円筒構造物——のちに吸魂型(タイプ・ヴァンパイア)と呼ばれるようになった——が降下された第一次構造物災害。それは、降下した一帯をおぞましい廃墟に変えた。

 そうして第一次構造物災害の生存者はたった二人と言われているが詳細は明かされていない。

 そして、小春は第一次構造物災害がもたらした変化を許していない。それは街の一部から一変した生気のない廃墟よりも、生気のない街を埋め尽くすミイラのような骨と皮だけのおおぞましい死体よりも、それはずっと身近なものだった——

「小春ちゃん、空に何かあるの?」

 ナツミが小春に倣って空を見上げ、ホナミも二人につられて見上げた。

 車ひとつない変わらぬ夕空。未来になっても変わることのない大空は、夕陽に染められる青空と散り散りの雲があるだけだった。

 ナツミは空に目を凝らして見たが、特にこれといったものは見当たらなく、首をかしげた。

「特に何もないけど……」

「いや、別になにかあると思って見てたわけじゃなくて、その……考え事してただけだから……」

「なんだ、そういう——」

「おい! なんだ今の⁉︎」

 ナツミを遮って、ホナミが空を見上げて大声をあげた。小春が肩をすくめて含み笑う。

「あのさ……今時『UFOいたぞー! なんてな! 実は何もいませんでしたー』なんて小学生でもやらないと思うんだけど」

「違うって! 一瞬、空の一部が歪んだんだって!」

「ホナミちゃん、もういいよ。パターン変えてもそれ自体がマンネリズムだよ」

「わたしも見てたけど特に何も起こらなかっ……た?」

 PGがけたたましく音をかき鳴らした。誰のPGからなのかを確かめるより早くナツミが気づき、距離をとって通話に出た。

『やあ、ナツミ。愛犬ゼロツーだ』

「……何の用? 大した用事じゃないなら切るけど」

『良い知らせだ。君のいるデパートの駐車場に神像(ルーク)が降下するとのことだ』

「それ全然良い知らせじゃないね。友人とデパート来たら隕石が降ってきたって。それで避難警報は?」

『急かすなよ。じきにうるさいほど鳴るから安心しろやい』

 直後、デパートのスピーカーやPGから警報の不協和音が重なり重なって一帯を不穏にさせた。

『円筒構造物降下警報』と、でかでかとしたフォントが、PG窓やデパートのホログラムディスプレイからも表示される。次々と添付した災害予測範囲のマップデータを開いて、我先にと出口に逃げ惑う。

『ほらきた』

「分かってたのにすぐにやらなかったってどうなんだろうね。そのタイムロスで何人被害者が増えることやら」

『公にする前に手順ってもんがあるんだろうな。大体、そのタイムロスをカバーするのは君だろ? 魔法少女さん?』

「次に魔法少女の話したら主任に廃棄処分届出すから。んじゃ、早急に現場に来るように」

『あいよ。来るまでには仕事減らしとけよ』

 通話が切れた。周囲は逃げる人で溢れていて、そんな中で何者かに腕を掴まれ引っ張った。

 掴んだ先の姿を見るとホナミだった。

「なーにのんびり電話してんのさ! ほら逃げるぞ!」

「えっ……ちょっと——」

 ひとまず離れようとも人の流れに逆らうことはできず、このまま自然に抵抗することは不可能に等しかった。

 不可抗力の如く駐車場の外へ引き込まれる。このままもがこうともそれは無駄な努力でしかなかった。

「かくなる上は……!」

 安全装置を解除。犬歯のスイッチが解放されたのを感じ取る。軽く息を吸って強く噛み合わせると全身を巡る神経が加速して、景色は鈍重を映し出した。

 加速装置と共に解除された身体の強靭な人工筋繊維の出力制限を解除、掴むホナミの手を軽く引き剥がす。マネキンの如く微動だにしない人と人の間をすり抜けて、人の出尽くしたデパート入り口の柱に鞄を隠す。静かで孤独な世界の中でナツミは呟くように詠唱した。

「秘めし焔よ、内なる魔石よ。紅く魔纏(まとい)て、我が身を燃やせ。制御解除(デ・コード)

 詠唱から舞い踊るように腕から胴へ、脚へ撫でると、エネルギー・ヴェールを経由して操作するナノマシンで構成された衣類はエネルギー・ヴェールに弾かれて宙へ舞い上がった。

 一糸纏わぬ姿を同じように再び撫でていき、舞い上がった流体金属に再び包まれた。それは、足部を包んで靴となり、袖や丈のない流体金属のコーティングスーツになり、拡がっていた紅いヴェールがその上を柔らかく包み込む。足を彩り、コーティングスーツの上にドレスを飾った。周囲に舞うヴェールを膝丈より短いヴェール・スカートを巻き上がるほどにくるりと回ってなびかせて、羽衣の如く身体の周囲へ巻き取った。

 再び歯を噛み合わせ、加速装置を解除。神経加速は終わり、世界を鈍重に留める氷が溶け、再び世界はいつもの速さを取り戻す。

 周囲を確認して誰の姿もないことが分かると鞄のジッパーを開け、片側にジョイントの突出した三十センチほどの認証式伸縮杖(コードステッキ)と黒光る面頬を取り出した。ジョイント以外はバトンにも似た認証式伸縮杖(コードステッキ)を軽く一振りすると、ジョイント付近の吸入口からエネルギー・ヴェールが内部へ吸入し、ジョイントごと内部の伸縮筒(しんしゅくとう)を三倍ほどに伸長させる。

 長いステッキを携えたまま別の手で、目から上と口を空けた猛々しい見てくれの面頬を装着。その面頬は十六の少女に似合うとは言えない見た目だったが、そのインパクトは正体を隠すのに十分だった。

 受信機が耳にしっかり嵌ったことを確認する。面頬の口元付属のマイクの状態も確認。オールグリーン。

「こちら一期二番、一ノ宮ナツミ。ただいま神像降下予定地付近にて魔纏石を解放しました。これより降下予定の神像攻略を開始します」

『ああ、よろしく頼む。毎度のことだが、くれぐれも鹵獲や破壊のないよう立ち回り、何かしらで危うくなったら即時退却を心掛けるように』司令の怠そう声が、埋め込み型スピーカーに届いた。

「了解です」

 面頬を操作して通信を終える。神像降下までまもなくと言ったところだった。

 ナツミは遠くで一般市民の避難を促していたマルチロイドへ軽く敬礼する。専門外の避難を任せっきりにするためのせめてもの礼儀だった。

 左手に持った伸縮杖を腕慣らしに回し、得体の知れない相手が刻々と迫る暮れて赤い夕空を見上げた。

「犬は空を飛ばないぞ」

 子供のような声が足元から聞こえた。足元に顔に一つしかないカメラアイをぎょろぎょろ動かす奇妙な犬が座っていた。

 ナツミの相棒であり、生物らしさの感じられない戦闘用機械犬(メカドッグ)は、白い大型犬を辛うじて思わせるフォルムに、ムチのような硬質の尻尾をシャカシャカ振っていた。

「神像降下に向けて気構えしてただけだよ。もし仮に空からゼロツーが飛んできたら、はたき落として踏みにじる」

「ははは。世紀の魔法少女様に踏まれたらパーツも残らないな」

「は? まだ言うかこの犬畜生。あるSF小説じゃあロボットは三原則で人を言葉でも傷つけられないようになってるのに随分無神経だな!」

「今時ロボット工学三原則はねえだろ。大体、傷つけない逆らわない犠牲にならないってだけのガバガバ規則に従ってロボットがまともに動かせたら先人は苦労しなかったろ——おっ、丁度降下一分前ってところか」

 空からの刺客に呑気な会話をやめ、お互い身構える。

 地に向かって一直線と言わんばかりに落とされる黒い円筒状の神像。空からは小さく見えるが、実際は十五メートルもあるため、降下だけでも被害は小さくない。これら一体であらゆる建物は形を失い、生きとし生けるもの全ての呼吸も許されなかった。

 一部ではこれを「神罰」と謳われているが、一方ナツミの周りの関係者はそれを「虚言癖」と揶揄して、数えられないほどお笑い種にしている。これは神の使いなどと大層なものではなく、人によって作られた構造物に過ぎないからだ。

 そして今、構造物が地に放たれようとする。

 ナツミは表情を変えずに、脳の内蔵コンピュータに受信したデータをインストールした。インストールはものの一秒経たずに終了した。

「こっちの降下予測位置の地図データのインストール完了したよ」

「こっちもすでに完了している。手早く済ませて帰るぞ」

 ナツミは脳内に送られた地図データの降下予測位置を確認してその位置に向かう。今は手に彩りを与える程度の役割しかないPGでステッキをぐっと握る。ジョイント部に沿った排出口から、内部に吸入されているエネルギーを高出力で放出させる。エネルギーは高熱を帯びて紅く、ステッキに火球を取り付けたようなそれはまさしくハンマー部を極限までに熱した戦棍のそれだった。

 ついに神像は何台もの車ごと地を砕いて着地した。こぎれいに黒で塗りつぶした巨躯を曝け出したそれは、見てくれに対して静かな着地を行い、黒一色の中で目立たない幾つもの排気口から轟々と熱を放出した。

 神像は何故か降下時に衝撃波を発生させない。理由は判明されていないが、恐らくは実験データを取るための悪趣味な信念に基づくものだと推測している。

 幾つもの排気口の下を一周するように設置されている蓋が一斉に開く。煌々として毒々しいほどの赤眼が暗い周囲に光を放った。これこそが神像の能力が起動する前兆だった。

「ゼロツーは吸魂、要塞、レーザー、音響兵器と来て次は何をするタイプだと思う?」

「そうだな。次は車が関わったものであると推測するよ。こんな警備マルチロイドが闊歩する場所をわざわざ降下位置に選んだんだし、被害者が少なくなることは目に見えてるもんだろ」

「……珍しく鋭い。いつもその調子なら有能ロボットなのに」

 ナツミは皮肉を吐き捨て、落ち着き払った様子でステッキを構えた。能力も分からず不用意に突っ込めば、最悪の事態を引き起こしかねない。まずは先手を神像側に譲る。

 神像は全方位を神々しく照らすばかりで特に動きはない。違和感を感じた時には、後方から数台の自律走行車が突撃を図った。

 先に感づいたゼロツーは車の間を縫ってかわし、遅れてナツミは体を翻し地面を蹴ってボンネットに跳躍。そして二度目の高い跳躍で車体がへこむほど踏み込み、広い着地点へと距離を取った。

 ナツミに寄り集まっていた車は間もなく衝突——することもなく急停止。それぞれ後退してナツミの方向へ変えた。

 神像ではなく自動操縦車が動いた。ナツミもゼロツーもこの時点で今回の神像の能力についてほぼ確信した。

『クラッキングとはベタな能力なこった。サイバーがパンクしてやがる』

「車を操るタイプはそこまで見ないけどね。マルウェアをばら撒くタイプかな?」

『いや、マルウェアは車の方からアクセスしないと無理だ。あらかじめそんな小細工したら組織の立場が危うい。だから、あん中のAIが多くの自動操縦車のコンピュータにクラッキングして遠隔操作してる。あれは、ただおもちゃで遊ぶだけの無邪気な子供だ』

 呑気な会話とは裏腹にそれぞれは周囲に気を回して、迫り来る車を身を翻して華麗に捌いていった。かわすたびに親機の円筒から離れていき、なかなか近づけない。

 車を片端から壊していけば楽だと思うだろうが、やむを得ない場合を除いて自分から物を壊すと報酬の取り分を引かれることになっている。たとえ酷い目にあってもナツミたちはかわすに越したことはなかった。

 車はみるみるうちにナツミを囲み、かわしきることが難しいと判断したナツミは高く跳躍した。跳躍をもってしても神像を狙うには距離が離れすぎているため、足元のエネルギー・ヴェールの出力を上げて膨張させた推力で神像に肉薄した。

 ナツミは神像へ火球を帯びた伸縮杖で不自然なほど動く気配のない上部へと叩き込んだ。

 表面は強靭なエネルギーフィールドによって保護されていて、銃弾や半端な爆発をもろともしない。大型の電磁投射砲でやっと擦り傷を付けられる程度であるそれを、ナツミは薙ぐように叩き込むと、火球はエネルギーフィールドを相殺し、赤熱した溶接部の一部がかすかに溶けた。

「溶接部発見、溶解させました。鳳凰出撃を申請します」

『了解。引き続き円筒構造物の攻略を頼む』

 そう言って司令はMW3に発進命令を出した。

 大剣ユニットに変形させてステッキにジョイント接合する武器変形型の自律武装MW3、コードネーム『鳳凰』は、普段は名の通り翼幅三メートルほどの怪鳥のフォルムを模している。それは大空を滑空して指定された地点への降下を行い、脚部接合ユニットをステッキのジョイント部へと接合すると共に変形をする。

 ナツミの下には車が集まっている。武器ユニットの鳳凰をただ無益に待つこともなく車の上の着地を挟みながら、溶接部へ執拗に火球を叩き込む。熱により少しずつ装甲に歪みが生じていき、しかし未だ粘ろうと溶接部は熱に屈せず門どころか隙間すらも作ろうとしなかった。

 十五発目を当てようという直前、背後に気配を感じた。振り返ることもせず伸縮杖を払う間もなく、背後のエネルギー・ヴェールに触れる反応があった。

 防衛本能からヴェールから滾るほどの高熱を帯びたエネルギーフィールドを形成すると、反応物はドロリと融け落ちた。

 背後をぐるりと見渡してすぐさま位置を特定。一箇所反応あり。

 少し遠くのワゴン車の中から地肌ひとつ見せないほどのフルフェイスメットの強化甲冑(パワードスーツ)を装着した何者かが、窓を開けて対戦車ライフルを構えていた。

 ナツミの頭部を狙うように強化甲冑は徹甲弾を放つ。しかし、こちらを防護するエネルギーフィールドは弾丸の侵入を許さなかった。人を粉砕させかねない鋭さを持った弾丸は、少女の肢体に触れることなくエネルギーフィールドに触れた全てが液化していくのだ。

 あの強化甲冑は無関係な市民ではない。恐らくは神像の関係者なのだろう。そうナツミは判断する他なかった。

 強化甲冑の方へステッキを振り払い、射出信号を発信して赤熱した高濃度エネルギーの火球を華麗に射出した。強化甲冑の反応は早く、ワゴン車のドアを押し破って早急に脱出。高いがクラッキングの不安がないMTワゴン車は火球に衝突して爆破した。

 車の間を駆け抜ける強化甲冑は堅固そうな胸部からスイッチを押して、右肩の背部から一基のみの小型ミサイルを起こして間も無く発射。ナツミはエネルギーフィールドを展開したが、融けずに爆発した弾頭からの熱風は肌を焦がすかのようだった。

 一発食わされたことに思いが煮えたぎる。しかしそんな悠長な考えをする間を与えないように鳳凰の信号をキャッチ。ナツミは跳躍して丸腰で逃げる強化甲冑に報いるように火球を一発放って通信を送った。

「こちらナツミ。どこに隠れてる?」

『隠れてないぞ。車が多すぎて半身を使えないから車を引き付けるために自動操縦車と追いかけっこしている最中だ。それで? 何の用だ?』

「敵意のあるパワードスーツ装着者を発見した。私は神像の攻略に取りかかるから、現在地と視覚情報画像を送る」

『犬っころのままでかよ……了解』

 情報を送って通信を切る。そのまま流れるような動作でステッキを上段で構えた。鳳凰は脚部を解放し、羽を畳んで三メートルほどの重厚な(やいば)と化した。

 脚部は伸縮杖ジョイントへ連結。連結した鳳凰は伸縮杖から供給されたエネルギーを内部に充満。出力を上げて側面ジェットを点火させる。

 神像の溶接部に沿って斬りつけると刃が触れた場所から赤く断ち切られ、高熱とジェットを噴出した威力で溶接部に断面を作った。

 そのまま勢いに乗せて熱でひしゃげた黒光る金属装甲を鳳凰で薙ぎ払い引き剥がす。装甲を取り払った神像の内部には毒々しいほどの紫紺色の巨大な蜘蛛の像が顔を覗かせた。

 途端に、見えない力場が像を包む全ての装甲と共にナツミを吹き飛ば(パージ)した。対応が遅れてボンネットに弾き飛ばされた。

 半ばコンクリートに沈んだ底面部は内に潜んだ多脚を外へ突き出し、次々と杭のような爪をコンクリートに突き立てて立ち上がる。

 地を抉るほどに叩きつけられたナツミは鳳凰を突き立て立ち上がった。円筒形の存在は不動かつ不気味な原型を失くして、逞しい鉄骨の脚が見下ろした。

 排出口はさらに吹き荒れる音を増し、熱の息吹を辺りに散らす。ヴェールの熱よりずっと生温い蒸気が髪をなびかせ口元を緩ませた。

「なんだ。今回のは大したものじゃなさそうだね」

 少女の肢体に不釣り合いな大剣を軽々と抜き下段に構える。一瞬を見計らって踏み込んで、靴裏と鳳凰のジェットにヴェールを強く点火させた。

 神像が踏みつけようと迫るのと同時に跳躍。神像を見下ろすほど高く跳んで斬り上げると、神像の脚部の一本は一切の乱れもなく溶断された。

 神像も多脚であるため一本程度でバランスが崩れることはなく、態勢の乱れもない。暗闇に放つ神像の紅い眼光の連なりは変わらずどこを見ているかを掴ませない。

 しかしそんなことに構いはしない。初めてならともかく、リセットされてから浅い期間の間、何度も見る光景などとうに慣れていた。

 ナツミは一層気を引きしめて鳳凰を振り上げ、

「お仕事終わりっ!」と意気込んだ声で大きく独りごちた。

 強靭な人工筋肉を力を込めて鳳凰を振り下ろす。神像の力場に斬り込まれると同時に、最大出力のヴェールジェットが火を噴き加速した。

本編に関わらない割とどうでもいい用語解説

【ロボット工学三原則】

『第一条・ロボットは人間に危害を加えてはならない、また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第二条・ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

第三条・ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。(原文ママ)』

アイザック・アシモフが「われはロボット」等のロボット短編を書く上で定められたロボットの三原則。

もっともな書きようで一見正しいように見えるが「嘘をついていい」「そもそも一条を破る以外の選択肢しかなかったらどうするのか」などと欠陥ばかりのものであり、アイザック・アシモフ自体もロボット短編において三原則の欠陥を突いた話が主である。

ちなみに、近年「ロボット三原則を組み込んだロボットはまともに動かせない」という結果に至ったので、そろそろこのテーマでロボットを書くのは「タコ型の火星人が円筒の宇宙船に乗って地球を襲撃」並みに時代遅れだと言える。

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