番外編 彼が彼女に惚れた理由ー白王子編ー
白井陽太は自分の容姿が女性に好まれやすいということは自覚していた。ラブコメだったら可愛い女の子達が寄ってきてハーレムを形成する主人公ポジションだろう。とにかくそれはそれは小さい時からやたらと女の子達に囲まれていたのだから。また、陽太の周りにはとてもマセた女の子が多くいて、「将来お嫁さんにして」と言い寄ってきた子は数知れずいたのだ。
寄って来る女の子が可愛いと思っていた幼稚園時代。まだこの頃は嫌悪感もなく平和な時だったかもしれない。
チヤホヤされ始め満更でもなかった小学校低学年時代。他の男子より格好いいのかと自覚が芽生えた時だった。
いつの間にかファンクラブなるものが結成されキャーキャー言われた小学校高学年時代。この頃になると告白してくる子が増え、男子達と遊びたいお年頃だったので片っ端から断っていた。
ファンクラブは継続し、自分に自信がある女の子達が特攻という名の告白をしてきた中学時代。断っても断ってもこんな可愛い私なら付き合って当然でしょうと言わんばかりにアプローチしてきて……。ギラギラしていた眼差しは捕食者のそれだった。一番恐怖を感じた時だった。
ハッキリ言おう。まだ死にたくない、と。
普通ならば好意をバシバシ向けられればハーレムばっちこ~い!となるだろう。所謂チャラ男的な?
だがしかし。
白井陽太にとって女性という存在は自然界の食物連鎖の頂点に立つ肉食獣なのである。
目が合った瞬間に食われるのだ。
だんだんと女の子の顔を見なくなり、下がった視線は手を捉えるようになった。気になるのは顔ではなく、手になった。思い返せば『手フェチ』はこうして始まったのかもしれない。
そして、桜桃学園入試の時ーーー。
なるべく同じ中学の子がいない高校に入りたかったので、入試はとても緊張していた。だが、そんな中でもチラチラとこちらを見る女の子達。その視線には辟易したものだ。
入試に集中しろよ。
あと一教科を残すのみとなった休憩時間に予習をしていたら、消しゴムを落としてしまった。慌てて探してみれば隣の女の子が拾ってくれたようだ。
「落としましたよ」
「ありがとう」
手渡される消しゴム。当然顔ではなく手に目がいく。
正に陽太にとって理想の手がそこには在った。
とても触りたくなった。
だが、今は入試中である。突然触ったりしたら騒ぎになるだろう。必死で抑えたのは言うまでもない。さらに試験が始まっても気になって隣を見たくなったが、こっちも我慢した。
そうして。入試が終わった後は、隣の子が帰るまで手を見続けた。
ーーーあの子の手かなり良かったなあ。お互い受かっていればまた会えるかな?
白井陽太が『理想の手』を見続けたあまり、彼女の顔を確認していなかった事を後悔したのは家に帰った後だった。
顔も知らない彼女に淡い恋心を抱くようになるのは時間がかからなかったが、フェチ仲間の漆谷智仁の理想もその彼女だと知って悩むようになるのはさらにその半年後だった。
陽太の想いは彼女に届くだろうかーーーーー。
本編のサブタイを考えていたら思いついてしまったので投稿。短くてすみません。黒王子バージョンも考えます!