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デートにはハプニングがつきものです。

お待たせしました。宜しくお願いします。

 ドンッと木の幹に押されて、珂夜は思わず顔をしかめる。目の前には珂夜を睨みつけている三人の女性達。恐らく珂夜よりも年上の女子大生だろうか。ばっちりメイクをしいて大人っぽい感じだ。

 一人は茶髪でショートカット。

 一人は黒髪で肩までの長さのストレート。

 一人はこちらも茶髪で胸までの長さでパーマをかけている。

 この三人とは面識が無いのにも関わらず、突然絡まれたのだった。

 皆で遊びに訪れた動物園。広大な敷地面積を誇る動物園の売りは大自然の中でありのままに生きる動物達の展示だ。そのため周囲は鬱蒼とした森が広がっており、現在珂夜が絡まれている場所はその森の中の遊歩道になる。よっぽどの物好きで無い限りは歩かないという不人気スポットになる。偶然なのか、はたまた狙ってここへ連れて来たのか、分からない。

 珂夜はどうしてこうなったのか、自分の状況を思い返してみた。






 

 雲一つない青空が広がる日曜日。絶好のお出掛け日和だろう。いつの間にやら決まってしまった動物園行きだが、意外と珂夜は楽しみにしていたりする。昨日は興奮をしてなかなか寝れなかったくらいだ。遠足前の小学生か。

 アイリスとだけ出掛けるのではなく、陽太と智仁の男子高校生二人と一緒だ。普段の格好は制服なので気にしないが、今日は私服を見られてしまう。気合いを入れつつも、気合いが入っているなと思われたくない感じの格好が望ましい。一人で浮かれていると思われたくないからだった。それに他の三人はあの外見のせいで絶対に目立つだろう。せめて格好だけでも周囲の人間に変に見られないようにしなければいけない。初夏にふさわしくちょっと可愛いワンピースにでもしようか。全身を写す姿見の前でああでもないこうでもないと散々迷っていたら待ち合わせの時間が刻一刻と迫っていた。

「やばい。もう行かなきゃ!」

 結局、ワンピースにカーディガンを羽織るといったシンプルな感じになってしまった。アイリスに服装のことでもっと相談しておけば良かったと思いつつ、家を出て待ち合わせの駅前に急ぐ。

 ようやく駅が見えてきて、ほっとしたのもつかの間。そんなに多くはないがちょっとした人集りを発見した。まさかーーーとイヤな予感を感じながら人集りに近づいて行く。何故なら待ち合わせの場所がそこだったからだ。

「やっぱり……」

 案の定、待ち合わせ場所には目立つ三人がいた。ちなみに陽太と智仁は珂夜とのデートに興奮を抑えきれず、待ち合わせの時間より三十分も早く着いてしまっていた。一着は陽太だったりする。アイリスもアイリスで万が一に備えて早めに集合することを心がけているので、こちらもニ十分前に着いていた。珂夜は何とか五分前に到着したので全然遅刻ではない。遅刻ではないのだが、早すぎる三人を見て家に引き返したくなった。あの衆目がこちらを見たらイヤ過ぎる。

 珂夜が躊躇していると、目敏く珂夜を見つけた陽太が声をかけた。

「おはよう。こっちだよ」 

(言われなくても気づいたよ……)

 キラキラスマイルが爆発している。眩しいと思いつつ、意を決して近づいてみた。ちらほらと見られる視線が痛い。

 陽太、智仁、アイリスはそんな視線など気にならないようで珂夜がこちらへ来るのを今か今かと待っていた。流石に見られることに慣れている連中である。一つため息をついて近寄って行った。

「私が最後かあ。待たせてごめんなさい」

「いや、こっちが早過ぎた。気にしないでくれ」

 やはり、智仁も陽太と同様に満面の笑みである。周りがざわざわしているのにそんな笑顔はやめてほしい。学校外にもファンを作るつもりだろうか。

「じゃあ、皆そろったし行こうか」

「はーい」

 動物園に向けて四人は出発した。だが、四人の後をついてくる人物達がいることを誰一人気づかなかった。





「すごーい広いね!動物園なんて遠足以来だから楽しみ」

 珂夜のテンションは動物園が見えてきたところから鰻登りだ。他の三人はそんな珂夜を見て、ほっこりしていたりする。

「まずはどこから行こうか?色々いるみたいだな」

 広大な園内の敷地の地図を見ながら、どこから行こうかと皆で計画を練る。当然最優先にされるのは珂夜の希望である。

「ふれあいコーナーから行きたい。ウサギに触りたい」

「いいわね。ふれあいコーナーなら左回りで行った方が近いわね。ふれあいが終わったら、アルパカコーナーへ行きましょうか」

「アルパカ!もこもこ触りたい。あっ、ごめんなさい。私一人ではしゃいでて」

 テンションが高いことに気づいたのか、珂夜がしゅんとする。他の三人はそもそも珂夜が可愛くて可愛くて仕方がないので、そんな姿を愛でるのみである。

 コースも決まったし、後は気になった所に寄り道するということになったので、早速入場料を払い入門する。智仁は抜け目なく地図が載っているパンフレットを手に取った。これで動物がどこにいるか一目瞭然。迷子の防止にもなるだろう。

 少しでも珂夜との距離を縮めたい陽太と智仁は今日のデートに力を入れていた。珂夜は自分に自信が無いところがあり、自己評価が低かったりする。こちらとしてはそんな事は気にならないので、陽太や智仁と一緒にいることに引け目を感じてほしくないのだ。

 珂夜は他の生徒の視線を恐れているけれど、所詮は他人。一緒にいることを責められる謂われはない。相応しくないとか、釣り合ってないとか何故他人に評価されなければならないのか。口出しされるのは本当に不愉快である。だから、珂夜には他人を気にすることなく付き合ってほしいので、今日は楽しい思い出にしたいと決意する。

「頑張ろうね。智」

「ああ」






 ーーーーーで、冒頭に戻る。順調にコースを消化し、遊歩道に程近い休憩スペースに差し掛かったのでちょっと休憩をしようという話になったはずだった。そこで珂夜は三人に断りトイレへ行ったのだが、そこから出てきたところを見ず知らずの女子大生三人に囲まれ、遊歩道に連れて行かれたのである。

 珂夜は自分に向けられている剥き出しの敵意に恐怖してしまう。段々と足が震えてきた。

(どうしよう。どうすればいいの?)

「ねえ、聞いてるぅ?あんなイケメン達君侍らせてすっごく羨ましいんだけど。私達にも紹介してくれない?」

「あんたみたいな平凡な子より、私達の方が可愛いしさ。イケメン君も気に入ってくれると思うんだーー」

「後ろついてきて良かった。チャンスだよねぇ」

 女子大生達はクスクス笑いながら言うけれど。言っていることは滅茶苦茶勝手な事だった。

 どうやら、駅で四人の事を見かけて跡をつけてきたようだ。陽太と智仁が気に入ったらしい。そして、運良く一番声をかけやすい珂夜が一人きりになったので紹介を強要してきたのだろう。

「……やめて下さい」

「ケチケチしなくていいじゃん。皆で遊べば」

「あんた一人で浮いているから、私達も混ざってやろうっていう親切心なんだよ?」

「そうそう。早く紹介してよ」

 三人のうち、ショートカットの女性が珂夜の両肩を掴み前後に揺さぶる。また背中が木に打ちつけられ痛みが走る。三人の笑顔がすごく気持ち悪いし、背中が痛いし、足は震えるし、本当にどうすればいいのか分からない。助けを呼ぼうにも、囲まれているのでバックから携帯を取り出しにくい。

(誰か助けてっ……)

 最早祈るしかなかった。



「珂夜って遅くない?」

 珂夜の分にと買ったジュースを眺めながら、声を発したのはアイリスだった。陽太と智仁は女性がトイレにかける時間なんて分からないので疑問に感じることはなかったのだが。

「混んでるんじゃないの?」

 陽太の答えに頷きそうになるが、やはり。

「ちょっと心配になった。私見てくる」

「俺達も行こう」

「智?」

「念の為だ」



 アイリスは珂夜が入ったトイレを見に行った。この場所を利用する客が少なかったのか、全個室はすべて扉が開いており、人がいる気配がなかった。

「どうだったの?」

「いないわ」

 アイリスの短い返答で、問題が起こったことを悟る。あの距離で迷子になったのか?

 まさか女子大生達に連れて行かれたとは気づく筈もなく、三人は珂夜が迷子になったと結論づけた。

「手分けして探すしかないか」

「うん」

「ええ」

 とりあえず、陽太は来た道を戻りつつ珂夜を探す。アイリスはこれから行く予定の道を進む。こちらの道は休憩スペースから見えるので気づく筈だが見逃している可能性もあるので行くことにしたのだ。最後に智仁が遊歩道へ行くことになった。トイレの横から入る道があるからだ。

「見つけたら連絡をくれ」

「うん」

「分かったわ」



「いい加減にしてほしいなあ。さっさとイケメン君達の所に案内してよ」

「ホント、ホント」

(誰が案内なんかするかっ……。早く誰か来てっ)

 恐怖を抑えきれていないが何とか泣かないように踏ん張る。我慢しないと腰が抜けてしまいそうだ。

 そんな珂夜の願いが通じたのか。

「ーーー何をしている」

 とてもとても怖い顔をした智仁が現れた。

「ええ~これはあ~この子と~」

 パーマが答える。ショートもストレートも智仁の様子にさすがにヤバいと思ったのか顔をひきつらせ、後ずさる。

「……智仁君っ!」

 珂夜はその隙に智仁へ駆け寄った。

(来てくれた!)

「何があった?」

 珂夜の泣きそうな顔を見て、智仁は状況を察した。あいつらが俺の珂夜にーーーいや、まだ付き合えてないけどーーーちょっかいを出したんだろうと。

「あの人達に急に連れてかれたの」

「何の用だ」

 怒りを隠せず、冷たく低い声で問う。

 女子大生からは「……ひっ」とか「違うの」とか聞こえるが、無視してさらに問う。

「もう一度言う。三対一で囲んでおいて、何が違うんだ。この子に何の用があった」

 一歩を歩を進める。女子大生は一歩後ずさる。

 さすがにイケメン君の機嫌が尋常じゃないのでお近づきになれそうにないと判断したのか。

「もうっいいわよ!」

 叫びながら女子大生達は走り去った。



「…怖かった……」

 珂夜は気が抜けて、その場にへたり込んだ。

「珂夜!大丈夫か」

(大丈夫じゃないよう……)

 泣けてきたし、多分今自分は酷い顔をしている。珂夜は顔を上げられずにいた。

「気づかなくて怖い思いをさせて、ごめん」

 智仁の気遣う声とともに体が抱きしめられる。

(ええ…っ!!)

 森の中の遊歩道なので道路は土である。珂夜はへたり込んだので洋服が汚れるのは仕方ないが、珂夜を抱きしめているため膝立ちの智仁のパンツも当然汚れるだろう。

 その事に気づき慌てて逃れようとするが、ぎゅっとさらに抱きしめられた。

「ちょっ……智仁君」

「もう少しこのままで……」






 結局。その後二人は陽太とアイリスが合流して引き剥がすまで抱き合ったままでいたのだった。

 ハプニングが起こったけど、その時の恐怖は、智仁に抱きしめられたという羞恥にかわり、珂夜は悶えることになった。





 ーーー智仁君の腕の中は暖かくて安心できた。ちょっと忘れられないかも。




 まさかの吊り橋効果である。






















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