予兆
長々とお待たせしました。
とうとう中間テストが始まり、珂夜は珍しく緊張していた。いつもなら得意の一夜漬け程度でさらっと勉強するのだがそうもいかなかった。
何故なら学年十位以内三人、特に智仁は学年一位。彼に教えてもらった手前、無様な結果は出せないのだ。
あまり期待しないで欲しいというのが本音だったが、教える側の陽太と智仁の気合いは凄かったと思う。アイリスなどその様子を聞いて呆れかえっていたくらいだ。珂夜を一位にさせる気か、と。
そんな感じで本番を迎えた。テストに集中させてくれるのか、陽太と智仁は積極的に会いには来なかった。廊下ですれ違う時に手を降ったり、笑顔になったくらいだ。こちらとしてもスキンシップは心臓に悪いので助かってしまう。 ちょっとは寂しいなんてことは―――思ったりなんてしていた。内緒だが。
珂夜は前回よりは良い手応えを感じてテストを終えた。
「珂夜、テスト順位貼り出されたみたい。見に行こう」
「うん」
昼休み。アイリスに誘われ、順位表を見に行く。
既に人だかりができていた。桜桃学園では、テストの順位表が公開されるのは五十位までと決められているため、せめてそれくらいには入っていてほしいと願う。
ふと視線を感じて辺りを見回してみると、陽太と智仁の姿が確認できた。
かすかに陽太が笑みを浮かべる。おめでとうと言っているみたいだった。隣の智仁も見てみろと順位表を指差した。
『春日珂夜 二十一位』
ちなみに智仁は当然の如く一位。陽太は九位。アイリスは十位となっていた。
前回の三十三位から順位が上がっていて珂夜は喜びを隠せず、二人に手を降って答えた。
そして、その日の放課後。
久しぶりに生徒専用会議室に集合した。相変わらずの職権乱用ぶりである。
机の上には珂夜のテスト結果が書かれている用紙が乗っている。前回の分と今回の分だ。陽太と智仁はまるで我が身のような真剣さで二つの用紙を睨んでいた。
二人が真剣に見る必要があった。結果次第では珂夜と二人きりのデートがかかっているからだ。誰がその権利を手にすることができるのか判断するのに比較対象として前回のテスト結果を持ってくるよう頼まれたのだった。普通ならば個人のテスト結果なんて他人に見せるべきものではない筈だが、陽太と智仁とアイリスと三人の有無を言わせぬプレッシャーで見せざるをえなかった。渋々ながら、机に置いた。いや、逆らえなかったのだ。
「テスト結果は全体的に点数が上がっているな」
唸る智仁。
「これだと勝敗はつけられないよね……」
アイリスはため息をついた。
「うーん。じゃあ皆で行こうか」 陽太は妥協案を出した。
珂夜の知らないところで決まっていた話だから、珂夜は疑問に思う。勝敗?皆で行く?
「えっとどういうこと?」
「……ああ、俺達の中で誰が一番教えるのが上手なのか競っていたんだ」
「ふーん?」
「珂夜の頑張りが凄かったから勝敗つけにくくて。皆で打ち上げみたく遊びに行こうって話してたんだよ」
陽太はにこにこと続いて。
「珂夜はどこ行きたい?」
この面子で遊びに行く?とは中々に辛いものがあったりするのだが…。テスト結果が良かったのも皆のおかげだし、断れなかった。「えっと…動物園かな」
買い物なんて男子とどこに行っていいのか分からない。カラオケも遠慮したい。図書館も暫くは見たくない。遊園地もジェットコースターは苦手だ。とにかく癒されたい一心で恐る恐る言ってみた。「動物園いいわね」
アイリスが笑顔で賛成してくれた。陽太と智仁も珂夜とデート出来るであればどこに行こうが異論はなく。そのままの勢いで今週の日曜日に出かけることが決定したのだった。
智仁がポツリと呟いた。
「楽しみだ」
珂夜はその呟きを聞き、思わずドキリとしてしまった。ただでさえアピールが激しい陽太と智仁。自分の容姿に自信がない珂夜は
どちらとも付き合うことはないと考えていた。だってどうみても学園アイドルに相応しいと思えないから。
だけど。珂夜の劣等感みたいな悩みなどお構い無しに二人は触れ合ってくる。大切にしてくれる。皆でいる居心地の良さに慣れてきてしまっている珂夜は胸の高鳴りに不安になってしまう。
―――智仁がとてもとても甘い笑顔だったから。
動物園デートはまた次回。短くて申し訳ありません。次は関係が進展するといいな・・・・。