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告白の顛末



 放課後の生徒専用会議室。コの字形に配置された机と椅子。出入り口に近い方に珂夜が座り、その向かい側、対面に珂夜から見て左に陽太、右に智仁が座っている。




「フェチって……」

 異性の体の一部に魅力を感じるということだ。

 彼らは珂夜の髪の毛や手にキラキラした視線を注いでいる。やや頬が赤くなっているから、皆がいなくなって三人だけの空間に遠慮がなくなったのかもしれない。ちょっと怖い。

 見過ぎ、である。

(うぇぇ………)

 珂夜は引きつつも努めて冷静を装い、言葉を待った。

「僕は君の手の特に第二間接の皮のぷにぷに具合にとても惹かれていたんだ。初めて見た時から、ずっとその手の皮を触りたいって思っていたよ。朝は我慢出来なくて手を握ってしまった。ゴメンね。本音はずっと握っていたかったけど」

「俺は君のしっとりとした黒髪が素晴らしいと思っている。長さも肩甲骨あたりでちょうど良い。ずっとその髪を梳かしていたい!大体日本女性は勿体ないことをしているんだ。生まれもった黒髪を他の色に染めるとは残念だ!俺は断じて黒髪以外認めん」

 二人とも熱く語った。

「……僕は?」

「お前は天然だから良い。俺が否定したいのは人工ものだ。それにあくまで個人の意見だ。強要する気もない」

 陽太がほっとしている。智仁が主張した黒髪じゃないからちょっと不安になったらしい。

(男の子でそんなに可愛い表情はズルいなあ)

 自分はそんな可愛く出来んとちょっとだけ傷つく。 それに罰ゲームではなく、手と髪フェチがきっかけだったようだ。本気度がヤバい。

「えーと、とにかく。僕達は君の手や髪を気になってね。密かに観察してたんだ」

「………いつ頃からですか?」

「そうだな…。俺は入学式の時だ。後ろ姿を見ていた。陽太は入試の時だったか?」

「うん。入試始まる前に緊張して消しゴム落としちゃったんだよねー。で、隣の君が拾ってくれたの。僕その手を見てテンション上がっちゃって!お陰で合格出来たよ。それに入学式でも見かけたから君も合格したんだって分かったんだ」

 陽太は満面の笑顔を向けてくれたが。大袈裟な。珂夜は信じなかった。間違いなく実力だろう。陽太は確か一年の時の中間テストや期末テストで十位以内に必ず入っていたはずだ。廊下に張り出された順位表を見てファン達が騒いでいたから覚えている。智仁は不動の第一位。ちなみに珂夜は三十位近辺をうろうろしていた。

「入試とか入学式なんて、かなり前からですね。何で今頃声をかけてきたんですか?」

 何で二年になってから声を―いや、告白してきたのか疑問に思う。むしろずっと放っておいてほしい。

「ようやく君のことが分かったからだ。正直、手や髪に惹かれて顔は覚えていても名前が分からなかったんだ。顔と名前が一致したのはつい最近だったんだ」

 確かに二人とはクラスが別だ。接点はない。

 珂夜はふと振り返る。自分は目立っていなかった。何で名前がバレる?その疑問に。

「智がさりげなく根岸先生に聞いたんだ」

 陽太はまた笑顔であっさりと答えてくれた。根岸先生(男性)とは珂夜のクラスの担任だ。

「根岸先生は生徒会の顧問をしているからな。聞きやすかった」

 既知の仲とは、確かに聞きやすい。

「で、気持ちを伝えるなら絶対会える時間じゃないとね。朝は騒がしくしてごめん。逃げられたくなかったっていうのもあったんだ」「………」

 まさか、逃亡防止も考えていたとは。確かにあれだけ衆目を集めれば自然と野次馬達が人間防波堤と化すのだろう。学園アイドルのスキャンダルだ(笑)嬉々として告白相手の足止めをするかもしれない。

(逃げられなくて良かったかも。皆がさらに面白がるだけだった)

「分かってもらえただろから改めて言おう。俺と陽太。どちらか選んで欲しい」「付き合ってください」

 イケメン二人が身を乗り出し、真剣な表情で迫ってきた。

「――そんなの――」

 珂夜の答えは一つ。

「どちらもお断りです!」




 珂夜は断った。

 力強く言った言葉は。二人に届いたはずだが、全く影響を与えられなかった。 それじゃあ仕方ないとばかりに陽太がまずは友達から始めようみたいなことを言い出した。

 智仁も俺達のことを知ってもらってからの方が良いなと賛成した。

 珂夜は平穏な学園生活を取り戻すべくその提案も断った。友達といっても二人と一緒に居れば絶対に反感を買い――特に女子から――いじめを受ける危険を回避するためでもある。それにイケメンは遠くから鑑賞するものであって、近くにいるものではない。だから、友達も無理だと。

「そんなに警戒しないで」「君のことは守る。俺達は別にちやほやされるのは好きじゃないからな。あいつらを近づけさせないようにすればいいだろう」

(…うぅ…)

 そう簡単にいくものでもないのだが。

 二人の押しの強さに頷くしかなかった。



 で。

 珂夜の今の状況はというと。

 両手を陽太に握られ。彼が熱弁した手の甲の第二間接の皮をぷにぷにと弄られている。

 智仁にはひたすら頭を撫でられたり、髪の毛を手櫛で梳かされていたりする。あのままの勢いでお願いされ、少しだけならと触るのを許可したが。

 二人の大きな手で触られているのは何とも気持ち良くて止めてと言うタイミングが掴めない。

 目の前の陽太は頬を赤く染め、ニコニコと幸せそうだ。肌が白いので赤面は分かりやすい。

 髪の毛が触りにくいと対面から珂夜のすぐ横に移動した智仁も何とも言えない表情をしている。

「珂夜ちゃんの手、すごく柔らかくて…僕ますます放したくないよ」

「ああ。珂夜の髪はやはり素晴らしい。髪が乱れた時は俺に整えさせてほしいな」

 いつの間にか名前呼びも始まっていた。友達だからと敬語禁止。それぞれも名前で呼ぶことを約束させられた。

 うっとりとしている二人は強引だ。触らせてとお願いされれば、断りきれないだろう。これからどうやっていけばいいのか不安しかない珂夜だった。



(いつまで触っているのかな…さすがに耐えられなくなってくるよ)

 珂夜は俯いていたので。 陽太と智仁がお互いに理想とする珂夜を渡さんとばかりに牽制しあっていることは気づかなかった。





 学園二大アイドルに愛されてしまった春日珂夜。

 前途は多難である。いや、多難しかないかも。


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