番外編 彼が彼女に惚れた理由ー黒王子編ー
漆谷智仁は自分の容姿が他の人よりは良いということは何となくだが自覚していた。
智仁は幼い頃から大人しく一人遊びをしていた子だった。無意識に自分に関わるなオーラを出していたのかもしれない。ラブコメだったら一匹狼で何を考えているか分からないけどちょっと気になるアイツポジションだろう。ヒロインが困っていればさり気なく助けてくれ、美味しいところを浚っていくのである。だが、現実にはそんな事は起こる事もなく。人がなかなか寄りつかなかったのだが、それが変わってきたのが小学校高学年になってからだった。
ズバリ、眼鏡をかけ始めたからである。
黒縁眼鏡で切れ長の目が隠されて柔らかい雰囲気を醸し出すようになったのだ。良い方向でイメージチェンジになり、周囲も智仁の眼鏡男子ぶりに熱を上げるようになったのである。
智仁にとっては何だこれは?状態だ。
どんどん声をかける人数が増えてきて、それは厄介なことにほぼ女子だった。でも、鬱陶しいから相手をしないでいると今度は遠巻きに見つめてくるようになった。やはり鬱陶しいにかわりはないのだが、害はないと考えてそのまま無視することにした。
智仁にとって女性は空気のような存在である。居ても居なくても特に困る事はない。恋愛には興味のないお子様だった。
それが変わったのは中学一年生の時。遅蒔きながらーーー初恋である。
相手は国語の教師。残念ながら既に既婚者だったので最初から淡い初恋は実る予定はなかったのだが。
そんな先生は、肩胛骨よりやや下程の長さの綺麗な黒髪の持ち主だった。普段授業中は後ろで一つにまとめていたが、ある日の放課後。国語教科準備室の前を通りかかった時に縛っていた髪の毛を解いている姿を目撃した。さらさらと舞う髪の毛は夕日に溶けてキラキラと輝いているように見えた。女性の髪の毛はこんなに綺麗なものなんだと初めて認識した瞬間だった。当然先生への想いは早々に断ち切っていたけれど、髪の毛への情熱は消えることなく『髪フェチ』になっていったのだった。
そのまま、先生以上の髪の毛を持つ女性を見つける事ができなくて恋をする事もなく、高校生になったのだがーーー。入学式で運命の出会いを果たすのである。
体育館への移動で渡り廊下で待機していた際に風に弄ばれる綺麗な黒髪を見て、理想の女性がここに居たと確信した。
だがしかし。
智仁は女生徒の髪の毛を注視するあまり、顔を確認していなかったのである。後悔先に立たずーーー。
まずは相手を探す事から始まり、前途は多難であった。
智仁の想いは届くのだろうかーーーーー。




