Call my name 17
数日後オルガは屋敷に届いた大量のドレスを前にして立ち尽くしていた。そんな張本人よりもリリアとアネットが先にそれに飛びついた。
「まあまあこのドレスは最近王宮でも引っ張りだこだというメリル女史のものじゃなくって?」
どうしてドレスを見ただけでわかるのだろうか。そのことに素直に関心しながらオルガは手持無沙汰で二人の後ろに立っていることしかできない。
「このレモン色のドレスとてもかわいらしいですね。イネス様の瞳の色とよく合いそう」
「このラベンダー色のドレスも綺麗です。どれも淡い色で繊細なレースが柔らかく映えますね」
二人が今まさに夢中になっているそれらをオルガが片付けるようにとお願いすると、二人は口をそろえて「とんでもない」と叫んだ。そのそろいようにオルガは思わず一歩後ずさる。そんなオルガを追うようにして二人の手が伸びる。わきわきと奇妙な動きをする指先に腕を捕まえられると、アネットが猫撫で声で「お着替えしましょうね」と囁いた。
二人のおもちゃにされてしまったオルガはぐったりとしながら鏡の前に座らされていた。ノリにのった二人は今オルガの髪を巻いている。
「まだ、ですか……?」
「イネス様! 熱い思いをされたくないのなら黙っていてください!」
焼き鏝をもったアネットがにっこりとほほ笑んだ。オルガは横に向きかけていた顔をさっと元の位置に戻すとアネットは満足げに頷いてみせた。
「イネス様、とてもおきれいです」
続いてリリアが興奮した様子で騒ぐとアネットは得意げに鼻を鳴らした。
「ええ! 素晴らしい出来ですわ」
リリアとアネットが両手を合わせて喜んでいる姿を鏡越しに生ぬるく見つめてから、オルガはようやく鏡に映る自分をちゃんと見た。
いつもよりきちんとひかれた口紅が白い肌によく映えている。丁寧に巻かれた髪はレモン色のドレスの上で優しく波打って流れている。
「アイゼン様はいつごろ帰られるのですか?」
鏡から目を離せずにいるオルガを満足げに見つめながらアネットがリリアに尋ねるとリリアは何故か少し頬を染めた。
「朝何もおっしゃっていなかったのでいつも通りかと」
頬を染めたリリアにつられたアネットは思わず頬に手を当てる。
「アイゼン様、きっと喜びますわ―――」
「ええ。私今夜はいつもよりベッドメイキングに力を入れますね!」
変なところで自信満々に声をあげたリリアをアネットが「もう!」と言って叩いているがその顔は満面の笑みだ。
不気味な二人に挟まれたオルガは自分でもよくわからない内につられて笑っていた。