第六話 従順なる僕
「・・・・・・・・・・」
結局あの後は一睡もできなかった。一応ふとんには入ってみたが、色々と考えすぎてしまい全く眠れなかった。
「紫、朝ご飯行こ?」
私に付き合って紅ちゃんはずっと眠らないでいてくれた。私より早くベットから出て着替えを終えていた紅ちゃん。今日の服はカーキのショーパンにグレーのトレーナーを着ただけのラフな格好。でもそんな無造作感が紅ちゃんにはよく似合っている。
「うん。ちょっと待って、着替えるから」
適当にワードローブの中を漁る。ハンガーにかけられていたのは昨日のワンピース。
あぁ・・・、夢じゃなかったんだ・・・・。
「紫、?」
「あ、ごめん。先に行ってて」
私のせいで紅ちゃんが遅れてしまっては可哀そうだ。先に行ってもらおう。
「うん。じゃ、先行ってる」
先に行った紅ちゃんを見送ってから、私はもそもそと着替え始めた。黒のスキニーを穿いて、適当にあったTシャツを着る。
「よし、行くか」
携帯をポケットに押し込んで、準備万端。ドアを開ける。
「おはようございます、紫様」
語尾にハートが付きそうな勢いで話しかけてきたのは久賀先輩。
・・・・・・・・・・・なんで!?
昨日のことで怒ってるとか!?俺を謀りやがってこのヤロー的な!?
「えっ、えっ!?な、何で!?」
「今日も太陽の様なお美しさです、紫様」
バタン。思いっきり扉を閉めた。漫画とかアニメでよくあるが、これは夢だ。あの素敵生徒会長がこんな平凡な私に向かって「太陽の様なお美しさです」とか言うはずが無い。
寝起きだからまだ寝ぼけてるんだな、私。
よしっ!もう大丈夫。
「おはようございます、紫様」
ニコニコと人の好さそうな笑みを浮かべる久賀先輩。やっぱり、漫画とかアニメであるように夢なはずがないんだ・・・・。
「お、おはようございます・・・」
ど、どうしよう・・。昨日のことは謝った方が良いの!?
「あの、昨日は・・・・・」
「ありがとうございます、紫様。僕のために宮子様として現われてくれて・・・。紫様という人格がありながらも、無理して宮子様のフリをして下さったんですよね」
は・・・・!?どういうこと、?
「この身が朽ちようとも、僕は貴女様にお仕えし続けます。我君」
片膝を立て、まるで騎士がお姫様にするように彼は私の手をそっととると、小さくリップ音をたててキスをした。
「・・・・・!?」
「愛しております、紫様。僕は一生貴女様の従順なる僕でございます」
僕って・・・・。こんな時代に僕って!!
「さ、紫様。朝食をいただきにまいりましょう」
パッと立ち上がると先輩は私の手を引いて食堂に向かって歩き出した。
妙に彼の手の温度がなじみがある気がして、とても不思議に思った。
途中で入ってくる「僕」は、「しもべ」と読みます。