第五話 出会いの季節
「私は宮子、私は宮子、私は・・・・・・」
飄々とした先輩、斎さんに嵌められて(!?)しまい、私はこうして久賀先輩を待ち伏せています。
辺りが暗くなり始め、桜の木はほのかに光って見える。夜桜、というものは本当に綺麗だ・・・。
「頑張れ、私!」
自分で自分にエールを送る。少しだけ元気が出てきたような気がして、胸があったかくなってきた。
セリフはしっかり覚えた。でも一番不安なのは、久賀先輩が台本以外の行動をとったら、だ。そのことを斎さんに言ってみたとこと、「絶対に雅はその台本通りに動くよ~☆」だそうだ。
もし違う行動をとったら、自分でなんとかして、とも言われた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫!!
腕時計で時間を確認する。只今6時47分。斎さんは6時半には生徒会の仕事は終わるって言っていた。もうすぐ来るかもしれない。
あ~、なんで私こんなことしてるんだろ・・・。紅ちゃんを捜しに行ったことが間違いだった・・?
「この時間は、部活動以外で寮から出るのは禁止されていますよ」
うわっ、なんて美声・・・。間近で聞くともっとこう、なんか艶めいているような・・・。いや、そんなことよりも台本通りに!
「桜の木を、見ていたんです。この場所は大切な人との思い出の場所だから・・・」
台本通りに注意してきた彼。ってか、質問の答えになってませんよ~私~。
「っ、」
風になびく髪を耳にかけながら、彼の方に振り向く。
「あの日みたいな春ね、雅」
あ~あ、生徒会長を呼び捨てにしちゃったよ・・・。
「宮子様、・・・・・・・・」
フランス人形にはまっているような美しい青色の目から涙が溢れだしてきた。彼は私に手を伸ばし、存在を確かめるかのように強く抱く。
「貴方はいつまでたっても泣き虫ね、雅」
どんなキャラだったんだろ、宮子さん・・・。お姉さんキャラ?様付けで呼ばせるって・・・・。どんなプレイ!?
「いつも、僕を泣かすのは貴方でしょうっ、宮子様・・・・・」
「そうね、貴方を泣かすのは私の役目ね、」
やばい・・・・、ここから先を忘れてしまった。だ、だって本当に抱きついたりしてくるから!
どうする!?どうする私!!
その時、建物の影から斎さんがこちらを見ていることに気がついた。
こちらを見てニヤニヤしている斎さんに向かって口パクで「わすれた」と言った。
すると彼は私たちに向かって走って来た。
「雅~、山辺先生が呼んでたよ~☆」
その瞬間久賀先輩は私を離した。斎さんがこれまた口パクで「にげて」と言っているのに気づくと、私は今までにないくらいの本気で走った。
「あっ、宮子様!」
斎さんが久賀先輩の腕を掴んでくれていたおかげで、彼が私を追いかけてくることは無かった。
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「はぁっ、はぁっ・・・・」
全速力で走って部屋まで戻ってきた。
「顔、赤い」
部屋に戻ってきていた紅ちゃんは読書をしていたようだ。
「紅ちゃん、・・・・・」
その場に崩れ落ちる。
「どうしたの・・?紫、真っ赤」
「うわ~・・・・。やっちゃったよ~・・・・。どうしよ~明日から~・・・・・」
「・・・?」
「嫌~、絶対先輩と目が合わせられない~!!」