第三話 不思議な上級生
入学式から四日経ち、学校にも慣れてきた。今日は午前中しか授業のない土曜日だ。
「どこいっちゃったの~・・・・・・・」
今私は紅ちゃんを捜索中。彼女はほっておくとすぐに何処かへ行ってしまう、放浪癖のあるようです。
昨日は放課後何処かへ行ってしまって、夕飯の時も朝ご飯のときもいなかった。その後戻ってきたが、もう一回ご飯を用意させられた寮母さんは大変怒っていた。そして私に「野宮さんを何処かへ行かせないように見張ってなさい!」と命令した。
「何で私なのよ~」
そう口には出すが、実は私も心配だったりする。あのマニア受けしそうな愛らしい姿の紅ちゃん。もしかしたら彼女をかどわかす不届き者がいるかもしれない。
そういう可能性を考えていくうちに不安になってきた。
本館である校舎と第二館の学生寮はもう探し終えた。
後、紅ちゃんの行きそうなところは・・・・。
「こんな場所、あるんだ」
小走りだった足を止めて、辺りを見渡す。そこには数え切れないくらいの桜の木。風に枝が揺れ、花弁がはらはらと落ちていく。
「きれ~・・・・」
自分よりも随分と背の高い桜の木を見るために上を向く。はらはらと落ちてくる花弁を手で器を作って受け止めようとする。
「ねえ、お嬢ちゃん」
突然後ろから声をかけられた。花弁を集めることに夢中になっていて、必要以上に驚いてしまった。
「あ、はい」
ゆっくり振り向く。私に声をかけたのは上級生のようだ。女子の中でも結構背の高い私よりもまた高い。それなのにヒョロってしてなくて、程よく筋肉がついている。中々のイケメンだ。男なのに伸ばした髪がよく似合っている。
「うわっ・・・・・・。当たりだ~!ボクが先に見つけちゃったよ」
えっ。あ、当たり?どういうこと?この人、何言ってるの?
私の動揺など気にもせず、飄々としたこの男は話を続けている。
「宮ちゃんのがべっぴんさんだったかな~。少し変わったんだね。お嬢ちゃんの名前は?」
「え、た、高嶋紫です・・・・」
名前を言っちゃってよかったものかと、後になってから後悔した。
「ゆかりちゃんか~。ゆかちゃんって呼ぶね☆」
「あ、は、はぁ・・・・・」
お兄さん、語尾に星が飛んでいますよ~って言ってあげたい。
「ボクは加々谷斎。お姉さま方にモッテモテの高校二年生。いつきたんって呼んでね~☆」
たん・・・?たんって、あの萌え系漫画で使う「〇〇たん」のたん?
何だこいつ・・・・・。上級生に向かって失礼だと思うけど、何だこいつ・・・・・・・。
「ゆかちゃんは今ヒマ~?ヒマだよね~。ちょっと僕に付き合って☆」
「え、ちょっ。えっ?私、ちょっと人を捜してるんですけど・・・・・・・・・・・」
「え~それって誰?」
いかにも嫌そうに顔をしかめたいつきたん(仮)。
「あの、私と同じ部屋の子を・・・。野宮紅って子なんですけど・・・・」
「あ~あいつなら大丈夫だよ。いつもみたいにそこらへんで寝てるだろうから」
「え?なんでわかるんですか・・・?」
なんで紅ちゃんのことを・・・・。
「だって、紅の父親とボクの母親は兄妹なんだ☆」
・・・・・・・・従兄妹ってこと!?
「に、似てな・・・・。だって、え・・・!?」
「ま、これで解決したってことで。ほらほら行くよ~」
頭が混乱していてこの状況が理解できなくなってきた。いつきたん(仮)は私の腕を引っ張って何処かに向かって歩き出した。